シュア・ジャパン・リミテッドは24日、密閉型ヘッドフォンのフラッグシップモデル「SRH1540」を発表した。価格はオープンプライスで、発売は12月下旬。店頭での販売価格は5万円前後になる見込み。
「プレミアム・スタジオ・ヘッドフォン」をうたう。再現性(クリティカルリスニング)を追究するこだわりのオーディオ愛好者はもちろんだが、モニタースピーカーの補助的な役割として使うスタジオエンジニアなど、プロ向けの用途も想定している。本体は軽く快適であるため、長時間の装着にも適しているとする。重量は286g。ケーブルに関しては1.83m(6フィート)ほど。モバイル機器と一緒に利用する際に邪魔になりにくく、室内での使用でも問題ない長さとした。
装着方式はサーカムオーラル式(耳を覆う“アラウンドイヤー”型)で、ドライバーの直径は40mm。プレミアムな素材の使用にこだわった。特にダイヤフラム(振動板)に「APTIV」フィルムと呼ばれる新素材を採用した点は特徴。音質面で有利なのはもちろんだが、温度や湿度など環境によって音に違いが出にくく、環境を問わず出音に変化が出てはいけない、モニター用途にも適するという。
APTIVフィルムは、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)と呼ばれる樹脂を薄型にした素材。一般的なPC/ABSやPP素材と比較して強度や耐久性が高く、薬品や汗などへの耐性も強い。米Shureは協業を通じて、これを6μm程度の薄さに加工し、振動板に利用できるようにした。強度が高い素材であるため、薄く軽くしても振動時に特定の部分が変形するといったことが少ない。マイラーなどを利用するよりも、レスポンスがよく、正確な再生ができるという。
クリアーで広がりあるサウンド、オープンタイプとは異なる方向感
SRH1540を短時間試聴した印象では、密閉型でありながら音場が広く、非常に自然な再生がなされる点に驚く。ボーカルなど中域はクリア。ベースは量感が少しだけ強調されているそうだが、タイト過ぎず適度にやわらかく広がるため聴き疲れはしにくそうだ。
オープンエア型のSRH1840と比較すると、重量は少し重いが、装着感は良好で長時間の装着でも疲れずにリスニングに集中できそうだ。頭頂部にくるパッドを少し厚めに盛るなどしていてより、フィット感が増している印象も受ける。
インピーダンスは46Ω。感度は99dB/mWと、一般的なポータブルヘッドフォンと比較するとやや音量をとりにくい。同じ音圧を得ようとすると、より高い位置に音量をあわせないとならない。持参したiPhone 5、Astel&Kern AK100などとの組み合わせでは目盛りを中央よりかなり上げる必要があった。とはいえ、数百Ωあるモニターヘッドフォンほどではなく、再生自体はモバイルでの使用でも問題ないレベルといえるだろう。
音質傾向は開放型のSRH1840とはかなり異なるため、同じShureの中での選択肢が増えた印象だ。端的にいうとSRH1540は音の輪郭がはっきりしており、明確でクリア。一方でSRH1840は開放型ならではの自然さ、広がり感がある。音のきめ細かさという点では圧倒的にSRH1540のほうがいい。
密閉型とはいってもこもりなどはなく、自然で滑らかな質感は特筆したい部分。これまでのShureにはなかったサウンドだが、音質と価格のバランスがよく取れており、人気が出そうなモデルだ。
カーボンファイバー使用の高級感あるデザイン
デザインは、高評価の開放型ヘッドフォン「SRH1840」と親和性が高い。軽く、装着感がよい。また、センターポールピースに空気穴を用意することで、リニアリティーを向上させるといった取り組みもSRH1840と同様だ。
イヤーパッドにはアルカンターラ素材を採用。もともとは高級外車のシートなどに使用することを想定して開発された素材となる。装着感が快適で、水洗いなどもできるという点を評価。さらに音響効果的にも良好ということでヘッドフォンに採用した。耳と接触する面には、水玉のような小さな穴を多数あけて音質と快適性を高めた。イヤーパッドを裏返すと4つほど穴が開いているが、これらはアコースティック性能へも影響を及ぼすという。
デザイン面では、ハウジングキャップ部分にカーボンファイバーを使用している点が目を引く。リジットで歪みに強く、鳴きも少ないので、音質上のメリットがある。米国本社から来日したヘッドフォンのプロダクトマネージャー、マイケル・ジョーンズ氏によると「素材は本物のカーボンファイバーにUVコーティングを施したもので、とても作るのが難しい」とのことだ。
ケーブル部分はSRH1840同様、両出しタイプだが長さが異なる。ヘッドバンドの部分の合成素材(プロティンレザー)もSRH1840と同じものだが、頭部に接触するヘッドバンドフレーム部分は厚みを持たせるなどして、快適性を追求した。
なおヘッドバンドの伸縮部分には、スチールバネを新たに追加。摩擦だけで固定していたSRH1840よりもより安定させている。これはユーザーの反響を元に取り入れた仕組みで、将来的にはSRH1840にも採用していくという。ヨークはY字型部分に突起が出ておりそこでハウジングに固定。6061-T6という航空機グレードの高級アルミ素材を引き続き使用しているが、より明るいシルバーに仕上げている。このあたりはSRH1840のプラットフォームと同じだが、ユーザーの反響を取り入れて、エッジ部分の角を丸めるなど調整をしている。
詳細は分解図を参照してほしいが、これ以外にもメタルステッカーをハウジング部分に、クロームメッキのリングをカーボンファイバーキャップの周囲に配しており、質感の高さを感じる。これをアウターキャップに接続するが、キャップのフレームはくもの巣のような形状とし、共振を抑えられる構造としている。このフレームの中央部分に、ボールピースを固定する。スチール製のドライバーフレームは剛性が高く、高域のひずみなどを抑制できるという。
本体にはストレージケース(ジッパーつきのハードケース)が付属。二組のイヤーパッド、2本のケーブル、6.3mm変換プラグなどを一緒に持ち運べる。なお、今回取り入れた改善ポイントの一部は、SRH1840にも取り入れていく計画で、その際には型番を一部変更したマイナーチェンジモデルとして販売するといったこともありえるという。