”飛行機でもWiFi使えます”は
どんどん増えている
WiFiのみとなると、利用できる航空会社はもっと増える。日本航空(JAL)は2012年7月より「JAL SKY WiFi」を一部路線でスタートしており、全日本空輸(ANA)も今年夏に機内Wi-Fiサービスを開始すると発表している。JALはPanasonic Avionicsを、ANAはOnAirを採用するが、基本的な仕組みは同じ。飛行機にWi-Fiアクセスポイントを設置し、それが衛星と通信するというものだ。
実は飛行機のWi-Fiサービスは、一度期待が尻すぼみした過去がある。Wi-Fiが普及し始めた当初、需要を見込んだBoeingは2004年前後に飛行機向けのインターネットサービス子会社「Connexion by Boeing」を立ち上げた。LufthanzaやJAL、ANAも導入したので、ご記憶の方も多いだろう。
だが、ふたを開けてみると市場の拡大は予想を下回るペースにとどまり、2年後の2006年末にはサービス終了となった。2006年といえば、現在のスマートフォンブーム到来前のことだ。当時、Wi-Fiを利用する端末といえばノートPCがほとんど。機内でWi-Fiを利用する顧客はノートPCを持ち込むビジネスマンに限られ、ユーザーが増えなかったようだ。
つまり、ここにきてWi-Fiサービス提供が増えているのは、現在のスマートフォンやタブレット効果といえる。スマホなら観光旅行客でも持ってくる。潜在ユーザーの数はぐっと増えているのだ。
Wi-Fiサービス提供には飛行機の安全性を損なわないか(電子機器の電波干渉)などの技術検証のほか、法的手続きも必要だが、このような市場の変化を受け、航空各社はコストや手間をかけてでも提供する価値があると踏んでいるようだ。Emiratesの例でもわかるように、先進的な機内サービスで競争力をという航空会社の戦略にも合致する。
なお、Wikipediaによると、Connexion by Boeingの料金は30分で7.95ドル、3時間未満の短距離フライトで14.95ドルだったとのこと。同名称ながらプロバイダーを変えて提供しているLufthanzaの現在のWiFiサービスは、1時間10.95ユーロ。まだプレミアムなサービスにとどまっている。もう少しすると価格が下がってくるかもしれない。
最大の障害は利用客の「受け入れ」と「慣れ」
以前は地上とのコミュニケーションが一切断たれてしまうイメージがあった飛行機が、飛行機も他の移動手段と同じように通信が可能となってきた。問題は技術ではなく、人々が受け入れるかになってきた。
これが良いことなのか、悪いことなのか――それは使う人と、その人が抱えている状況次第だろう。以前は「いまから飛行機だから」といえば、「メールしても返事できないから」の意味だったが、飛行機に乗っていたから返事ができなかったという言い訳が成立しなくなりそうだ。逆にメールをすべて書き終える前に飛行機に搭乗しないといけない場面もあった。だが機内にWi-Fiがあれば、離陸して数分もすればメールを送信できるのだ。
ただ通話に関しては、寝たいときに隣で話されるのは嫌だろう、というのが正直な感想だ。ちなみに、Virgin Atlanticが通話解禁した際にSkyscannerが行なった調査では、86%が「他の人の通話が聞こえてくるのはいや」と回答。「追加料金を払ってでも通話ができる席をとりたい」はわずか1%だったとのこと。日本では地下鉄やバスなどの公共交通機関でも、通話を控える風潮があることを考えるとすぐにサービスが始まる可能性は低そうだ。
筆者紹介──末岡洋子
フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている
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