光景を情景に変えるのが、ICC
では、技術的な部分に踏み込んでいこう。まずは4K変換技術「ICC」についてだ。アイ・キューブド研究所の開発したこの技術は、単なる4K変換(アップコンバート)や超解像技術とはまったく発想の異なるものであるという。技術面については、第二開発部の小池さんに聞いた。
小池 ICC技術は、カメラの撮影した映像を高精細化するのではなく、カメラが撮影した映像を元にその場にいる人間が観た景色を“ありのままに復元”しようという発想から生まれた技術です。その場のものと、それを見る間に存在するカメラやテレビの存在をなくしてしまおうという発想です。
アイ・キューブド研究所の近藤哲二郎さんの言葉を借りれば、いわゆる景色は3つに分類できる。そこにある物理的な存在が風景。そこに光が当たりその反射光が人間の目に映ったものが光景。それを脳で認知すると情景になるという。ICC技術では、その“光景”を復元する。するとそれは、見た人間の脳の中で情景となり、その場にいるような感覚が生じるという。
だから、ICCによる映像を見ると、まず一番に気付くのが、いわゆるレンズぼけさえ取り除き、画面のすべてにフォーカスの合った映像になることだ。これは、人が風景を見る場合、人間の目が注視した対象にフォーカスを合わせるため、どこを見てもフォーカスの合った映像になる。だから、どこを見てもフォーカスの合った映像にしているわけだ。
これは、4K解像度という、肉眼では画面にぶつかるほど近づかないと画素が見えないほど高精細なテレビで初めてできたことだという。再び近藤哲二郎さんの言うことを引用すると、1ミリの幅のなかに画素の配列が3列以上あると、人間の脳はテレビの映像と現実の映像との差を識別できなくなるという。これを「ミリ3本」という。
画素が見えないから今までのテレビよりも一歩近づいて視聴できる。すると、映像は人間の視野を大きくカバーする。
画面のフチが気になるような視聴距離ではなく、映像の中に顔を突っ込むようにしてテレビを見ているところを想像してみよう。もちろん、4Kだから画素は見えない。映像の色々な部分に目を動かして見ることになるはずだ。
山の中の湖に船が浮かんでいる。その船が鮮明に描かれている。船の起こした航跡は波となってふくざつな揺らぎを水面に浮かべている。その様子も鮮やかだ。つづいて、折り重なった遠くの山に目を向けると、山に映えた木々のひとつひとつがこれまた鮮明に見える。
これはもう、自分がその場に居てその風景を見ているのと同じだ。だから、人間の脳はその場所に居て見ていると感じてしまう。これがICCの見せる臨場感なのだ。