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松村太郎の「西海岸から見る"it"トレンド」 第3回

ソフトバンクのSprint買収で、米国から「次のiPhone」を考える

2012年10月17日 12時00分更新

文● 松村太郎(@taromatsumura

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西海岸の興味は皆さんと同じ
「自分のiPhoneはどうなるのか?」

 日本では「人口カバー率」の数字で3Gや4G通信のエリアを表現することが定着しています。しかし米国では、「4G LTE City」や「4G Market」という街や商圏単位でのカバー「数」で表現されています。その表現方法の違いからも分かるとおり、インフラ投資も日本とは勝手が違うのです。LTEエリアでトップを走るベライゾンは400マーケットに拡大しようという中、Sprintは24マーケットしか展開していません。

 利用者数では1億件を突破しているベライゾンや2番手のAT&Tから大きく引き離され、ユーザーベースとしては半分程度の規模。ユーザーの少なさと、2Gインフラの維持、スマートフォン端末などの調達、他社と同様の4Gインフラ投資をする体制を作るのが難しい、という点から、5期連続の赤字を記録する結果を招いていると見ることができます。

 今回のソフトバンクによる投資は、米国のユーザーからすれば、Sprintの財務体質を改善し、端末やネットワーク機器の調達を効率化して、結果としてSprintが掲げている3G/4Gインフラの投資が加速すると評価することができるでしょう。競合対策として、iPhoneのキャリアとしてデータ定額を提供している唯一の存在としてのキャラクターも大切にしていく可能性が高そうです。

Sprintの経営状況をどう改善し、みずからの武器にしていくのか、ソフトバンクの手腕が問われます


注目は関連会社が展開するTD-LTE
中国市場を攻めると日本も米国も高速化する?

 また、孫氏が会見で指摘していた、米国のモバイル通信の速度の低さは、チャレンジャーとしてのSprintがより高速なネットワークをもたらすのではないか、との期待感もあります。

 ネットワークの高速化の鍵となりそうなのが、現在Sprintが50%の株式を持っているクリアワイヤーが展開するTD-LTE。現状iPhone 5はこちらの方式に対応していませんが、中国のチャイナモバイル(中国移動)はTD-LTEによる4G展開を予定しています。

 チャイナモバイル、Sprint、そしてソフトバンクがまとまると、非常に大きなユーザー規模が期待でき、ネットワーク機器や端末調達、たとえばiPhoneのTD-LTE対応などの交渉材料として優位になります。iOSやOS Xの中国向け対応の強化から、Appleも中国市場の重要性を認識していると見られ、iPhoneと中国をテコに、米国、日本のユーザーは高速通信のインフラと端末を得るという恩恵に授かれるシナリオも見えてきます。

 米国のSprintユーザーにとっても日本のソフトバンクユーザーにとっても、今回の出資は、自分のiPhoneに直ちに変化をもたらすものではない、という認識で良いでしょう。しかし日米中の4Gインフラと次の世代のスマートフォンの通信環境について影響を及ぼすことになりますし、そして中国からの投資が盛んになってきているアフリカの国々の通信環境などを見据えた世界的な動きとしてとらえておくべきと考えます。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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