「そこにあるのは、ただ好きだからという力」
それにしても驚くのはMMDが発掘する才能の多さだ。
写真などとは異なり、3DCGはパソコン好きの間でもかなり限られた趣味の世界。ソフトも高価なものが多く、モデリングやアニメーションの制作は複雑で面倒、せっかく完成しても見てもらえるのは同じ趣味の知り合いだけ……ということも往々にしてある。プロを目指す人ならともかく、趣味として続けるにはかなりの覚悟がいる。3Dアニメブームや、面白そうなソフトが登場する節目で始めたものの、挫折してしまったという人も多いだろう。
そうしたハードルを下げたのがMMDだった。最初から流行のキャラクターである初音ミクのモデルが付属し、ネットを探せば誰かが共有してくれたモデルやアクセサリー・モーションも容易に手に入る。既製のアイテムを組み合わせ、少しアレンジし、カメラアングルに凝っただけでも、センスさえあれば、ニコニコ動画で評価が返ってくる。「MMD杯」というお祭りもあり、そこには「作ること」へのモチベーションが持続する仕組みができているのだ。
モデリングが好きな人、モーションが上手い人、動画で才能を発揮する人。「音楽-初音ミク」の構造と同様に、「3DCG-MMD」でも、野生のクリエイターがそれぞれの得意分野で力を発揮した。その結果が、「たくさんの点が線になり、線が円になって」2万7300人もの観客を震わせるライブにつながった。cortさん自身、「プロの人たちの手ほどきを受けながらつちかってきたMMDライブのノウハウを、ほかのMMD職人に伝えたい」と熱く語る。
その背景を知った上で、アニサマの「Tell Your World」を聴いてみると、非常に感慨深いものがある。
「Tell Your World」アニメロサマーライブ2012バージョン。ここまでのレベルで成功するまで、水面下では職人たちの技術との戦いがあった |
「ミクさんは愛されていますから」
もう1つ、創作への大きな原動力となったのは、キャラクターへの愛だった。
自分の好きなキャラクターが3Dモデルで配布され、無料で好きに動かせるとあらば、触らない手はない。cortさんは、「パソコン歴とMMD歴はほぼイコール」という、PC初心者からスタートした。ニコニコ動画を見ることから始め、たまたまMMDとボーカロイドキャラのかわいらしさにハマった。そこからがむしゃらにMMD動画を投稿し続け、気がついたら現在、このステージを作るところまでたどり着いていた。
「そこにあるのは、ただ好きだからという力。ミクさんは愛されていますから。マジ天使です」(cortさん)
今でも自分の好きなキャラクターを動かすため、モデルやアクセサリー、モーションをじっくり作っている職人が日本のあちこちにいる。最近ではミクのライブが見たいため、自分で投影システムを組んで上映するという動きもある。単なる一過性で終わるのか、それとも世界を席巻するブームに成長するのか。MMDが引きつける才能と、そこから生まれる傑作に引き続き目が離せない!