8月25、26日、さいたまスーパーアリーナにて、世界最大級のアニソンライブ「Animelo Summer Live 2012」(アニサマ)が開催された。織田哲郎や茅原実里などの有名アーティストに肩を並べて、スペシャルゲストとして呼ばれたのがボーカロイドの「初音ミク」。2万7300人の観客を前に、「ワールドイズマイン」「Tell Your World」の2曲を歌い上げて大喝采を集めていた。電子の歌姫がこの大舞台をいかにやってのけたか、そしてステージの彼女を生み出した人々は何を目指していたのか、その裏側を余すことなくお伝えしていこう。
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2万7300人が作る「緑の海」が圧巻
オープニングムービーが流れた後、ステージ中央に立てられた透明スクリーン(ディラッドボード)に初音ミクが姿を現すと、会場から大きな「うぉぉぉーーー!!」という声が上がり、ケミカルライトが一瞬にしてミクの髪色である緑に切り替わる。
わずか2曲だったが、その存在感は抜群。透明スクリーンの周囲は照明が落とされているため、まさにステージ中央に立っているような錯覚を覚えた。髪の毛や服の細部まで作り込まれた3Dモデルの美しさにも目を引かれる。本当のボーカリストが歌っているような生々しい動き、特に表情のリアルさには得も言われぬ感動を覚えてしまう。
歌う曲も、初期を代表するsupercell(ryoさん)の名曲「ワールドイズマイン」と、グーグルのCMで初音ミクを世に広めるきっかけとなったkzさんの「Tell Your World」という、新旧ファンがともに楽しめるセレクトだった。
Twitterを見ると、実は前評判では「アニサマに初音ミクって必要?」という声もあったが、公演後は一転して「本当に存在しているように見えた」や「クオリティーあがっててミク可愛すぎ」など絶賛の声が目立つ。筆者もロサンゼルスで開かれた「MIKUNOPOLIS」も含めてさまざまなミクのライブを見てきたが、動き、特に表情の妙なリアルさと2万7300人が作る緑の海に新たな衝撃を受けた。
ライブを作ったのはフリーソフトの「MMD」
初音ミクのライブと言えば、セガとMAGES.が主催する「ミクの日大感謝祭」や「ミクパ♪」がひとつのブランドだが、今回のアニサマに登場したのは両ライブの3Dミクではない。実は「MikuMikuDance」(MMD)というフリーソフトで生み出されている。
自分の思うように好きなミクを動かしたい──。MMDは初音ミクの発売(2007年8月)から約半年後の2008年2月にリリースされて以来、そんな欲望にばっちり応えてくれるソフトとして多くのアマチュア3Dクリエイターを引きつけてきた。有志の手によって、さまざまな3Dモデルやアクセサリー、モーション(動きのデータ)が作られ、ネットで共有されている。後からMMDの世界に入った人は、そうした過去の資産をネットからダウンロードしてMMD上で組み合わせるだけで、3Dアニメを作った気になれるという環境ができているのだ(詳しくはMMDの短期連載をチェック)。
「MikuMikuDance」
ジャンル:3DCGソフトウェア
作者:樋口優(樋口M)さん
開発元:Vocaloid Promotion Video Project(VPVP)
対応OS:Windows
ライセンス:フリーウェア
公開:2008年2月24日(最終更新:2011年10月25日)
3Dモデルの初音ミクひとつとっても、さまざまなバリエーションが存在している。このうち、アニサマのステージに立ったのはTdaさんが作った「Tda式Appendミク」。少女漫画に出てくるような可憐な美しさで、一見して細部にまで手間がかかってそうなモデルにも関わらず、ネットで無償で配布されている。つまり、アニサマの舞台に立っていたミクを、自分のPCで愛でられるというわけだ。
さらに驚きなのが、生々しさがびんびん伝わってきたアニメを作ったのは、3Dで生計を立てているプロではないということ。一体このステージに何が起こっていたのだろうか。