四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第97回
神戸在住のトラックメーカー・tofubeatsに聞いた
関西は「もうなくなりそう」、風営法で危機に瀕するクラブシーン
2012年06月16日 12時00分更新
「寛容でなければならないのはお互いの話。
クラブは社会の寛容さの象徴」
―― 最初の話に戻って、いまtofubeats.comのトップに「朝が来るまで終わる事の無いダンスを」※が貼られているじゃないですか。トーフくんのキャラを考えると、ちょっと意外に思ったんですけど。
トーフ 僕もすっごく嫌いなんです。あの曲も、いろんなことがあった上でもっと象徴的な意味の「朝」や「ダンス」のことを歌った、残った人は頑張ろう、という曲なんですけど、最近クラブであれをかける人が増えたという話を聞いたんですよ。「風営法のためにトーフくんが作ったんでしょ?」みたいな。音楽ってそういうものだし、その人にフィットした風に解釈してくれたらそれでいいんですけど、ただ、ここまで来たんだったら政治利用しようと。もしかしたら議会の人も聴くかもしれないし。
朝が来るまで終わる事の無いダンスを(2012mix) by tofubeats※ 朝が来るまで終わる事の無いダンスを : 直接MP3をダウンロードする場合はこのリンクから。最初は2010年にリリースされたマルチネレコーズのコンピ「MP3 killed The CD star ?」に収録。
―― それは、事態がそれくらいヤバイということですよね。
トーフ ただ、あの曲を出す口上として、この曲は風営法と関係ないし、興味を持ってもらえたらいい、というところで止めているんですね。署名しろ、とは一言も言ってない。僕はインターネットの署名はしましたけど、それで風営法が変わるとは思ってないし、大事なのは皆がもっとクリティカルになることであって、どっちにしろと決断を迫るものではないです。
―― Twitterなんかを見ていると、分かりやすい問題にして簡単に乗っかっちゃう人が多くて、僕は署名を躊躇しちゃうところがあるんですよ。規制はないほうがいいに決まっているけど、それで解決するような簡単な問題とも思えない。
トーフ 今インターネットをやっている人たちは、正義を語りすぎている感じがするんですよね。実際クラブに行っていて、近隣に迷惑かかっていないかと言われたら、僕はうんとは言えないです。それは寛容さの話だし、寛容でなければならないのはお互いの話なんです。クラブって、そういう社会の寛容さの象徴だと思うんですよ。だから「なぜダンスできないんだ!」と言っているやつほど何も考えてない。
「クラブはうさんくさい。
でも、そうでなければクラブじゃない」
―― 僕の知り合いが立川の米軍ハウスに住んでいて、自分の家をステージにしてブロックパーティーみたいなライブをやっているんですね。普通ならアウトだろうと思うんですが、地域の寛容さに支えられているわけです。だからそいつは「風営法に反対するなら自分のクラブの2階に住もう」と言っていて、極端な話だけどうなずけるところもある。それを都市のレイヤーでどうするかという話だと思うんですよね。
Image from Amazon.co.jp |
クリエイティブ都市経済論―地域活性化の条件 |
トーフ 「クリエイティブ都市経済論」※という本があるんです、マイノリティーが暮らしやすい都市ほど発展しやすいという。言ってしまえばクラブはうさんくさいし、ネガティブなイメージと戦っていかなければならない。でも、そうでなければクラブじゃない。夜の仕事をしている人とか、土日休みじゃない人とか、クラブに行っていない間は汚れ仕事をしている人だっているわけじゃないですか。クラブという空間なら、素性も知らない飲み友達として遊べる、そこが良いところだと思うんですけど、そういう意味での寛容さもなくなっているような気がしますね。
※ クリエイティブ都市経済論 : リチャード・フロリダ著。経済成長には「Talent(才能)」「Technology(技術)」「Tolerance(寛容)」という3つの「T」が必要であるという。
―― 僕もそう思います。もしクラブがダメになったらどうしますか?
トーフ 僕はトラックメイクがあるからいいけど、DJはきびしい。大阪では「ウェアハウス」というイベントがあって、倉庫の 「warehouse」じゃなくて「どこ?」って方で「where house」なんですけど、メーリングリスト(ML)に登録するとイベント前に場所が送られてくるんです。イギリスにはグライムというヒップホップのシーンがあって、ある団地とか周辺の人たちしか入れないMLがあって、そのメールを見せないと入れないとか。そうやってアンダーグラウンド化していく方が不健全だと思うんです。よけいみんなが近づきにくい場所になっていく。それか一度すべて健全な形に戻してしまい、そこからだましだまし今みたいな状況にしていく、どっちかしかないですね。
―― クラブもディスコがダメになってから台頭してきたという歴史がありますけど。
トーフ 僕もそれを先輩のDJから聞いて、それでクラブができたんだから、つぎのタームができるんじゃないの、と言ってましたけど。
―― でも、そうも楽観もしていられないでしょうね。
トーフ シビアな問題だと思いますね。僕は音楽をやりながら人前に出るとき、どうしようかなって考えつつ、でもこれくらいしかできることがない。今日も真面目なことをしゃべってしまったなあと思っています。本当はただのおもしろ関西人なのに。
名盤「水星」デジタル版が6.30リリース
tofubeats feat. オノマトペ大臣のメロウ・ラップEP「水星」(2012)。クラバー人気で12インチ盤は品切れが続いていたが、6月30日デジタル版でついに復活する。試聴版はトーフくんのSoundCloudで配信中。仮谷せいらを迎えたTr-2は必聴。詳しくはtofubeats.com、または本人のアカウントで。
著者紹介――四本淑三
1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。