四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第97回
神戸在住のトラックメーカー・tofubeatsに聞いた
関西は「もうなくなりそう」、風営法で危機に瀕するクラブシーン
2012年06月16日 12時00分更新
「クラブに行くことが、後ろめたく思えるようになる
瞬間があるって、すごいことだと思うんです」
―― まず時節柄の話から始めましょうか。
トーフ 風営法ですよね。関西は東京と違って、法人がやっているクラブって少ないと思うんです。音楽の好きな人が、自分が食えるぐらいの儲けが出ればいいという感じでやっている店が多い。そういう小箱には、細かく決められた風営法の条件は無理なわけですよ。それで大阪のクラブの人たちは、毎週警察に相談しに行ったりしていて。最初に摘発された「NOON」っていう大阪一番の老舗クラブも、毎週警察に相談に行っていたんですけど、ある日突然、夜の9時とか、まだ夜中になる前に来て※。
※ NOON : 2012年4月5日に大阪曽根崎署が経営者ら8人を逮捕。いまもお店のスケジュール欄は空白のまま。
―― あれはネット上でも大きな話題になったんですが、その後はどうなんですか?
トーフ だましだましやっているクラブもありますが、NOONみたいなクラブで、ああいう見せしめ的な逮捕があった以上、個人経営のクラブなんかやっていくモチベーションはないというか。一度摘発されると、風俗営業の許可はしばらく取れない※。だからクラブを営業できなくなるわけですね、いくら法律が変わっても。
※ 風俗営業許可 : 無許可営業は2年以下の懲役、または200万円以下の罰金。刑の執行が終わって5年を経過しないと風俗営業許可は降りない。
―― そうなると本当にどうしようもないですね。にしてもなぜこの時期なんでしょうね。
トーフ 色々な説があって、もう勘ぐり合い。ただ、警察はクラブにはめちゃくちゃ来るようになった。警察も仕事なので、一度取り締まろうということになったら、止められないわけですよ。大阪はアメリカ村という狭い地域にたくさんクラブがあり、酒屋さんがあって、服屋さんがあって、うさんくさい外人がいたんです。それが地震で外人がいなくなり、取り締まられてクラブがなくなり、クラブがなくなると酒屋さんがつぶれちゃって……それで京都行こうとなっても、京都も取り締まられている。すると国そのものも不況じゃないですか、アメ村も衰退するし。
―― うーん。お客さんの雰囲気はどうなんですか。
トーフ 一見(いちげん)さんの数ははっきりと減りました。一見さんは(違法な場所という)罪悪感から逃れられない。クラブに行くことが、後ろめたく思えるようになる瞬間があるって、すごいことだと思うんです。署名も始まりましたけど、正直、署名そのものでで何かが変わるかというと、僕はどうなるかわからないとは思ってます。関西のDJでは大阪を離れることを考える人ももちろん出てくると思います。
―― まだ東京ではそこまでの危機感はないですからね。
トーフ 東京でも「エーライフ」※が取り締まられましたけど、大阪も「年末くらいで止まるっしょ」って皆思っていたんですよ。でも今は笑えなくなってきている。僕がDJを始めた頃からお世話になっていたクラブ※も、つい先週なくなりましたから。だから、こうやって東京に来ると、ああ、まだ夜中に遊べるんだなあって思う。
※ エーライフ : 東京西麻布の大型複合店。2012年5月14日に経営者ら2人を現行犯逮捕。現在も「ダンス禁止」で営業中。
※ トーフくんがお世話になっていたクラブ : ヌオー。5月末にクラブとしての営業を終了し、それまでのお店のWebのみ存続し「なんとなくWeb媒体的なもの」に移行。