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スケールアップ型の拡張提案

独自LSIで“PCI-Express on Ethernet”実現!NEC「ExpEther」

2012年05月25日 09時00分更新

文● 渡邊利和

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5月24日、NECはコンピュータ内部で利用されるPCI ExpressバスをEthernetの物理層を利用して筐体外に拡張する技術「ExpEther」(エクスプレスイーサ)の商用化について発表を行なった。PCIスロット数が少ないコンパクト筐体での拡張性確保や、コンピュータ本体とインターフェイスの分離などの用途が想定される。

スケールアップ型性能向上の手段として

 NECのExpEtherの技術開発に関しては、5年以上前の2006年12月6日付けで発表が行なわれているものだ。当時の発表文に添付されたボードの写真と今回発表された商用製品を比較して見ると、チップの小型化や統合が行なわれているようで、いかにも手作り然とした試作ボードが洗練された経緯が覗えるが、一方で“技術はできたものの、商用化に向けた具体的な用途や市場が見えにくい”という問題もあったようだ。

ExpEtherの概要

 ExpEtherは、PCやIAサーバーの内部拡張バスの標準規格であるPCI-Express(PCIe)のプロトコルをEthernet上に流すことで筐体外に拡張する技術だ。同社ではこれを端的に“PCI-Express on Ethernet”とも表現している。コンピュータ側のPCIeスロットに「ExpEtherボード(2G)」を挿すと、ボード上の「ExpEtherエンジン」(新開発LSI)がPCIeバスのデータをEthernet上に流す。リモートでも同様にExpEtherエンジンが必要で、Ethernet上で伝送されたデータをPCIeバスに戻す。こうした構成のため、OSやでバスドライバ、アプリケーションなどの変更は一切不要で、ExpEtherを介してリモート接続されたPCIe拡張カードも、筐体内のスロットに挿されたものとまったく同様に動作することになる。

ExpEtherエンジンを搭載

 概要説明を行なった同社の執行役員の丸山 隆男氏はコンピューティングパワー増強のためのスケールアップ手段として「スケールアウト」と「スケールアップ」の2つの方向性があるとし、コンピュータの数を増やすことで対応できるスケールアウト型拡張に対し、コンピュータ自体の処理能力を増強する必要があるスケールアップ型拡張では、従来は拡張スロット数の制約などによって拡張性が制限されることがあると指摘した。ExpEtherは、コンピュータ本体の拡張スロット数の制約を回避して大幅な拡張性向上を果たすと同時に、高速/低遅延のEthernetの物理層を流用することで低コスト化を実現、さらにコンピュータ本体と拡張デバイスを分離することも可能になるとした。

NEC 執行役員 丸山 隆男氏

クライアント、ボード、拡張ユニットまで展開

 今回発表された製品は、「ExpEtherクライアント」「ExpEtherボード(2G)」「ExpEther I/O拡張ユニット(2G)」の3種で、6月22日出荷開始予定。このほか、受託開発/共同開発/OEMでの受注や、ExpEtherエンジンのLSI販売や、チップベンダー向けのIPコア提供なども行なわれる。

今回発表の3製品の概要

 ExpEtherクライアントは、コンピュータのユーザーインターフェイスを延長するもの。コンピュータ本体とはEthernetケーブル1本で接続される一方、ローカルコネクタとしてUSBやディスプレイ端子などを備えており、キーボード、マウス、ディスプレイのいわゆるKVMをコンピュータ本体とは離れた場所に設置できる。価格は3万5000円から。工場などのコンピュータ本体を設置するのが難しい環境などでの利用が想定される。

 ExpEtherボード(2G)は、コンピュータ側に搭載するExpEtherインターフェイスとなる。ボード上に1Gbps Ethernetポート(1000BASE-T)を2ポート備え、PCIe x1として動作する。価格は2万5000円から。

 ExpEther I/O拡張ユニット(2G)はPCIeスロットを内蔵した拡張ボックスで、典型的にはExpEtherボード(2G)と相対で利用する形になる。複数の拡張ユニットを数珠つなぎにしていくことで多数のデバイスを接続することも可能。価格は4万円。

今回発表の3製品の接続イメージ

現状のx1では用途は限定的?

 先行事例として大阪大学で採用が決定しているが、この場合は演習用のワークステーションを教室内に設置するのではなく、本体はサーバルームに集約し、ユーザーインターフェイスだけを教室に配置するという。

大阪大学事例でのシステム構成

 過去には内部接続用として利用が始まったSATAが外部接続用にeSATAに拡張され、サポートするマザーボードが増えた例もあるので、PCIeを外部に拡張するニーズもないとはいえないが、現状では用途が見えにくいのも確かだ。

 個人用途のPCでは、PCIeスロットに何か拡張カードを挿すということ自体が一般的なこととは言えなくなってきている感があるし、そうした拡張を行なうハイエンドユーザーは最初から拡張スロット数を意識して機種選定をしている。同社でもExpEtherをコンシューマ市場向け製品とは考えていないようだが、企業ユーザーでもExpEtherが有効な用途は限られているようにも思える。GPGPUなどを活用するHPC分野では意外に面白い用途があるかもしれないが、その場合は現在のx1対応では少々もの足りず、最低でもx16をサポートできる規模まで拡張する必要がありそうだ。PCやIAサーバーに標準搭載されるようになれば活用の幅も拡がると思われる。

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