企業に属するアスリート=現実世界のヒーロー
―― 『ライト層の耳目を惹く』と先ほどおっしゃいましたが、見知った企業ロゴを作品内に登場させること自体が、1つの手段だったわけですね。
尾崎 「これは“卵が先か鶏が先か”の部分もじつはありまして。ちょっと複雑なのですが、順を追って話せばわかりやすいことなんです。
ヒーローものをやりたい→真っ向勝負は厳しい→仕掛けが必要。この前提で、等身大のヒーローを描く、しかも社会人に向けて作るとなると、勧善懲悪で世界征服を企む悪を倒す物語ではなく、社会人が共感できる等身大の主人公たちが紡ぎだすドラマこそが、最もターゲットに見せやすい構造だと思ったんです。そこから“企業、組織に属するヒーローが活躍する”というアイデアが生まれました」
―― 自分を投影しやすい。
尾崎 「そうです。やはり、皆何らかの組織・企業に所属して、色んなしがらみのなかで、ストレス抱えながら生きているわけです。そういう共感を生み出したかった。
そんなストーリーを描き出すために必要な設定ってなんだろうと、ぐるぐる考えるなかで、『企業に属するアスリートって、それに近いな』と」
―― あー、なるほど!
尾崎 「実業団に属するプロスポーツ選手や、わかりやすく言えばプロ野球選手ですね。彼らはアスリートであり、現実世界のヒーローなんですよね。
桑田投手は歳を取ってもアメリカへ行って、諦めずにがんばっていた。今でも現役のイチロー選手もそう。サッカーだとカズ選手とか。彼らはヒーローですよね。ああいった格好良い姿が描ければいいなと。
また、北京五輪のとき、ミズノに属する選手は、スピード社の競泳水着を着用すれば記録が出ることをわかっていたにもかかわらず、『自分はミズノの人間だから』とミズノ製を着用し続けましたよね。僕らはそこに人間の葛藤を見るわけです」
―― 確かに。
尾崎 「そこにはドラマがある。やはり僕らはドラマを描いてナンボですから。企業に属するヒーローであれば、せっかくだから、その企業は本物のほうが面白いぞと。もし成立すれば、耳目を惹くことも間違いないということで、現実のスポンサーへ営業をかけ始めました」
―― プロダクトプレイスメントは、作品の世界観構築の結果として生まれたアイデアだったのですね。
尾崎 「クリエイティブとターゲット、誰に見せたいか、どうやったら共感してもらえるか。設定とお話を考えるなかで、まず、“企業に属する”という設定が生まれ、じゃあいっそリアル企業にすれば耳目も惹くよね、という順番です」
―― このくだりはあまり知られていないので、結構誤解されているところはありますよね。『パッケージが売れないことを見越した苦肉の策では?』という見方も少なくなかったですし。
尾崎 「それに加えて僕は……これまでの経歴も相まって、(社内外含めて)ビジネス寄りの人間だと思われている節がありますから(笑)。
しかし僕自身は、監督・ライターに寄り添う、クリエイティブなマインドも持っていると自負しています。クリエイティブの部分とビジネスの部分、両方を考え合わせたからこそ、この企画は成立したような気もします。
純粋なクリエーターにはこの仕掛けはたぶん、思いつきにくいでしょうし、成立させられなかったでしょう。逆に、完全なビジネスマンがやっても、たぶんクリエーターに寄り添えない、折り合いが付かなかったと思うんですよ」
―― いきなりやって来て、『企業を引っ張ってくるから、こういう設定の物語を作ってください』では、クリエーターもやってられませんよね。企画立ち上げから一緒に悩んで、クリエーターがやりたいことを実現するための施策として生まれた設定だからこそ成立したのでしょう。
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