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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第30回

サンライズ尾崎雅之氏インタビュー(前編)

TIGER & BUNNYはこうして生まれた

2012年01月16日 12時00分更新

文● まつもとあつし

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監督のやりたいことを理解するために、まずクリエーター脳を回転させ、次に企画を実現させるべく今度はビジネス脳を回転させる――。それがTIGER & BUNNYを成立させたといえるだろう

サンライズとオリジナル作品

―― 先の展開を読めない、ということも含めて“オリジナル”には視聴者をワクワクさせる余地が大きいことはよく理解できます。では、ビジネス面においてはどうでしょう。製作側にとって回収の機会を増やし、リクープにつながる部分も大きくなりますか?

尾崎 「いわゆる有名原作には相応の原作印税をお支払いする必要がありますから、オリジナルのほうが利益率は高くなります。ただ、ボラティリティー(変動の度合い)が非常に高いとも言えます。ハイリスク・ハイリターンですね」

―― 本連載では、“アニメビジネスの危機”をテーマに扱っていますので、オリジナルがその危機の打開に果たして役立つものなのか、ということも伺っておきたいと思います。

尾崎 「そういう意味ではプロダクション(制作会社)の1つの戦略として、ヒットの確率が少しでも高い原作もの“のみ”に特化して、今申し上げた利益率がそんなに高くなくとも、それを積み上げていくという戦略が存在するのは事実です。今、世のアニメプロダクションは、ほとんどその戦略をとっています。

 ですが、サンライズは、そうではない。

 オリジナルをゼロから生み出すことを、純粋に是としていると言いますか、そこに存在意義を見出している会社なので」

―― “着実な収益性”よりも“クリエイティブ”を取ると。そういえばサンライズは『機動戦士ガンダム』以前から、オリジナルにはこだわりがある会社ですね。

尾崎 「はい、利益率ではなく、まずオリジナルをメインにしようというクリエイティブの理由が大きくて、ヒットの精度や利益率をいかに高めるか、ということは、あとからついてきているんです。

 そして、オリジナルのヒット精度と利益率を高める施策の1つとして、(市場が縮小している日本だけでなく)海外マーケットも視野に入れたものづくりがあります。今回のTIGER & BUNNYについては、それがより鮮明に出ていますね。

 舞台を、人種の坩堝(るつぼ)的なマンハッタンを思わせる近未来都市にしたのも、そういった理由からです。ヒーロー8人のなかに、和のテイストを持った忍者的なキャラクター(折紙サイクロン)を配置したのも、最初からの計算です」

―― 折紙サイクロンは、海外の人が持っている、日本のイメージを体現していますよね。

尾崎 「なんちゃってニッポンですね(笑)。期待通り、折紙サイクロンは海外で非常に人気があります。この作品は海外の収入比率も、他作品と比べて高いですよ」

―― その収入はビデオグラムですか?

尾崎 「(インターネット)配信ですね。配信のビジネスモデルは、海外のほうが圧倒的に進んでいます。通常、“テレビ・ビデオグラム・配信”をワンセットでライセンスしていますが、実際に利用されることが多いのは配信です」

TIGER & BUNNYの海外配信状況を語る尾崎氏のつぶやき

―― ほおお。

尾崎 「パッケージがまだ海外で発売されていないこともありますが、TIGER & BUNNYも配信がメインですね。北米の権利はVIZ Media(ビズメディア:小学館集英社プロダクションの関連会社。北米でのアニメ・マンガの販売を手がける)にライセンスしています。

 そしてVIZ Mediaの運営するViz AnimeやHuluなどで試聴することができます。23話が放送されていた8月末の時点でトータル100万ビューを超えていました。11月現在では百数十万ビューまで増加しています。日本と同時展開がなされたオリジナル作品では画期的な数字です」

―― では、例えばガンダム=プラモデルというイメージがあるように、そういった商品化による印税収入はTIGER & BUNNYでも図られているのでしょうか?

尾崎 「これはやはり従来の延長で、回収方法の7~8割ほどがビデオグラム(BD、DVD)です。おそらく本来のアロケーション(割合)も同様でしょう。残り3割で幅広いグッズ展開や二次展開を考えています。今はまだお話できないことも多いのですが」

―― 差し支えない範囲で。

尾崎 「イメージでよければ、幅広いマーチャンダイジングですね。それはフィギュアであったりコンシューマーゲーム、できればプラモデルにもしたい。二次利用展開としてはイベントがあります。11月に開催した『TIGER & BUNNY HERO AWARDS 2011』もその一環です。

―― ドラマ化も?

尾崎 「プロデューサーの想いとしては舞台化や実写化など、そういった幅広い展開でもってリクープしていければと」

―― ヒット作でも、プラモデルは主力とみなされないのですか。

尾崎 「プラモデルは本当にわかりやすいロボットものでないと、なかなか難しいですね。ちなみに、プラモデルを最初からリクープの手段として見込めるのは、実際ガンダムぐらいなのです。

 ただ、TIGER & BUNNYは等身大で、いわゆるスーツですから、プラモデルも視野に入れつつ、もっと広めのカテゴリーで展開したいと思っています」

―― なるほど、わかりました。

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ビジネスを成立させるための仕掛けを本気で考えた末の大ヒット

 尾崎プロデューサーは、アニメ業界では珍しく、映像業界の外から社会人歴をスタートさせた異色な経歴の持ち主だ。今回のインタビューでも語られた、リクープのための硬軟取り混ぜた仕掛け作りに関しても、飛び道具に頼らず、あくまで地道に企画を立ち上げていく実務家としての視点が印象的だった。

 後編では、Ustream配信とテレビ放送の組み合わせ、そして最終回のライブビューイングイベントには、ビジネスの観点からみてどのような狙い・背景があったのかを詳しく聞く。

■関連サイト

著者紹介:まつもとあつし

ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ネットコミュニティーやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、コンテンツのプロデュース活動を行なっている。DCM修士。『スマートデバイスが生む商機 見えてきたiPhone/iPad/Android時代のビジネスアプローチ』(インプレスジャパン)、『生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスのゆくえ』(アスキー新書)も好評発売中。Twitterアヵウントは@a_matsumoto

 最新刊は、スマホやタブレットを用いた次世代の読書作法を解説する『スマート読書入門』。技術評論社より発売中。

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