“企業広告を背負って戦う社会人ヒーロー”という異色の設定で、アニメファンのみならず一般層も巻き込むブームとなったアニメ『TIGER & BUNNY』。
前回は、このアニメが生まれた経緯や広告収入へのチャレンジについて、エグゼクティブプロデューサーの尾崎雅之氏に詳しくお話を伺った。
今回の中編も引き続き尾崎氏にご登場いただき、他の深夜帯アニメにも影響を与えそうな新しいメディア活用の形を中心に語っていただく。
リクープの中心は依然ビデオグラム
―― 前回印象的だったのは、企業のタイアップやスポンサーを得るためにプロダクトプレイスメントを指向したわけではない、という点でした(注:取材は2011年11月および2012年6月に、複数回にわたって行われた)。
尾崎 「そうですね。さとうけいいち監督のなかに『ヒーローを描きたい』という思いがまずありました。
しかし、深夜アニメで単にヒーローものを流したところで、勝てるかどうかは未知数です。
そこで、ヒーローの物語を描く際に、よりドラマ性を持たせられる設定、ヒーロー自身が等身大で人間としての葛藤とか悩みとかを持ちやすい構造を考えたときに、企業・組織に属する物語を描くほうがやりやすいだろうというアイデアに至りました。
そして、企業に属するのであれば、せっかくだからリアル企業のほうが面白いよね、と。
ですから『ヒーローを描きたい』という監督の思いを起点に――ロジカルと言えばロジカルですが――あっちこっち思考が行ったり来たりしながらの逡巡がありつつ、1~2年かけてその結論にたどり着いたということです。
ただ、前回の補足をするならば、クリエイティブな理由から発せられて、企業に属するヒーローならばリアルな企業のほうがいいよねという話になった時点で『回収の手立てにしたいな』という思いもまたあったのです。
まったくビジネス抜きでプロダクトプレイスメントを構築したわけではなく、途中からはリクープ(資金回収)の一助になればという思いは、確かにありました。現時点ではまだまだ……ですけどね(笑)」
―― それは書いてしまってもよろしいでしょうか。
尾崎 「リクープのメインになりえていないことは、むしろ書いていただいたほうがいいと思います。いずれ将来的に、企業タイアップやスポンサードがリクープの1手段として育てばいいとは思いますが、まだ端緒ですね。ビデオグラム、パッケージ市場の落ち込みをカバーするには、全然至っていない。
TVシリーズそのものは、ビデオグラムが全9巻発売されまして、このペースでいけば、ほぼリクープできそうなメドはついてます。
全体を100とすると、マーチャンダイズ(商品化)主体ではない作品の場合は、8割以上がいわゆる旧来のパッケージからのリクープです。
ただ今後、海外収入が大きくなったり、商品化がより拡がっていくと、その比率は下がってくるとは思いますけどね」
―― 前回、海外でのインターネット配信が好調と仰っていたのはHuluでしょうか。
尾崎 「そうですね。そして、Huluから始まった映像配信からの商品化を含めた二次展開がこれからどうなるか見極める必要があります。北米は日本以上にパッケージ市場が落ち込んでいますので」

この連載の記事
- 第88回 日本のアニメ制作環境はすでに崩壊している――レジェンド丸山正雄が語る危機と可能性
- 第87回 融合に失敗すると「絵が溶ける」!? ベテラン作監が語る令和のアニメ制作事情
- 第86回 「『PLUTO』は手塚さんへの最後のご奉公」――彼の“クレイジーさ”が日本アニメを作った
- 第85回 自身が送り出す最後の作品に――レジェンド丸山正雄が『PLUTO』に込めた想いを語る
- 第84回 少年ジャンプ+細野編集長「令和の大ヒットは『ライブ感の醸成』で決まる」
- 第83回 少年ジャンプ+が大ヒットの確率を上げるために実行中の成長戦略とは?
- 第82回 「少年ジャンプ+」細野編集長が語るデジタルマンガの現在
- 第81回 Netflixが日本アニメに大金を出すフェーズは終わった
- 第80回 日本ではYouTubeが地上波1チャンネル分の価値を持つ
- 第79回 ガンダムの富野監督が海外だと功労賞ばかり獲る理由
- 第78回 「アニメはまだ映画として見られていない」という現実を変えるための一手
- この連載の一覧へ