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スピーチプライバシーシステムのユニークなアプローチ

会話からの情報漏えいを遮断するヤマハ「VSP-1」とは?

2011年03月04日 09時00分更新

文● 渡邉利和

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 実際にデモを聞いたところ、パーティ会場のようなガヤガヤ音に似ているという印象であり、単独で聞いて心地よい音とは思えなかったが、VSP-1では撹乱音に加えて川のせせらぎ、鳥の声などから制作した「環境音」や、楽器音などの「演出音」などを重ね合わせた8種類のマスキング音を出力できるようになっている。さらに、同技術の特長としては、従来のノイズでかき消すタイプに比べてより小さな音量で同等の効果を発揮できるという点がある。このため、耳障りな印象を与えることなく効果的に会話を保護することができる。

 発表会では、実際のシステムを設置してデモを行なっていたのだが、その場で体験した経験からいうと、会話がまったく聞き取れないということはなく、むしろ注意して耳を傾ければかなり聞き取れるというべきだろうと感じた。とはいえ、逆にいえば聞く気はなかったのに突然耳に飛び込んできた、という状況はほぼ回避でき、よほど神経を集中していない限り会話がまったく意識に登ってこない、といういい方もできるだろう。

発表会場で実演されたデモの様子。奥の女性が薬剤師、手前の男性が患者という設定で、聞いている我々は順番を待っているという想定だ。おそらくプロの役者さんだと思うが、女性が顔色も変えずに「水虫のお薬」の話を始めたので思わず会場内に失笑が漏れたが、確かにそういう会話は他人に聞かれたくはないだろうということがよく分かるデモだった。何も保護しない状態、ノイズ方式のマスキングを行なった状態、VSP-1を稼働させた状態、それぞれで会話を聞き比べたが、確かに聞き取りにくさという点ではVSP-1が圧倒的に優れていたが、まったく聞こえないというわけではなく、単語レベルであれば断片的には聞き取れるものもある、という感じになる。

 VSP-1は、会話を聞かせたくない第三者から見て話者の手前に設置し、話者の発言とVSP-1のスピーカー出力を重ね合わせるような形にした場合にもっとも効果が期待できる。逆にいえば、会話が行なわれている場所と、会話を聞かせたくない第三者がいる場所がある程度固定されている環境で使われるのが前提ということにもなる。会話の当事者間では問題なく会話ができるが、周囲の第三者には聞き取れない、という暗号通信のような状況をつねに作り出せるわけでない。そのため、現状では医療機関や調剤薬局の窓口や、金融機関のカウンターといった場所での活用がメインとなるだろう。前述の例でいえば、エレベータの内部で使うのは難しそうだ。

調剤薬局でのフィールドテストの例

 なお、このマスキング音だけを流すならCDにでも録音しておけば済むような気もするが、実際にはVSP-1のハードウェアは単なるスピーカーではなく、重要な機能を担っているという。会話を効果的にマスキングするには、たとえばカウンターで利用する場合にはカウンター数+1台の設置が推奨されている。どのカウンターも、両側をVSP-1に囲まれている、という状況にするわけだ。VSP-1のハードウェアには、このように複数台を設置した場合に相互に最適なバランスを取る機能などが実装されており、「ハードウェアと切り離したマスキング音だけを単独で流してもVSP-1と同等の機能は期待できない」という。また、撹乱音は人の会話音声をベースに作成されているため、言語にも依存するという。現在のVSP-1は日本市場向けに日本語をベースに作成されているものだが、英語などの外国語に対応するには、英語での会話音声をベースに撹乱音を作り直す必要があるだろうとのことで、海外展開の際には言語に応じたローカライズが必要になるようだ。

 VSP-1の希望小売価格は10万5000円で、同社では「3年後には年間10億円規模の事業に成長する」との見通しを明らかにしている。

初出時、製品名の「VSP-1」を誤って記載しておりました。お詫びし、訂正いたします。本文は訂正済みです。(2011年3月4日)

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