ワンコインで電子書籍端末を買う時代になる!
―― この10年で重厚長大なコンテンツビジネスがやりにくくなりましたよね。当社でも、雑誌の編集部は労働集約型産業の典型例みたいな感じでした。非常に多くの人間が関わっていて、月刊誌でも50名近く、週刊のゲーム誌になると100名以上いたんじゃないかな。でもウェブの時代では、そんなことはまずあり得ない。
まつもと ネットで収益を上げていくためには二つの方向性があり得ると思います。ひとつは組織規模を極限まで小さくして固定費を低く抑えつつ、高い機動力で新しい領域にどんどん踏み込んでいく方向性。もうひとつが垂直統合というか、自らプラットフォームを運営するか、もしくはプラットフォームのイニシアチブをとれるぐらいの大組織となる。
―― 端末、プラットフォーム、コンテンツの全てを押さえてビジネスしたいという気持ちは、正直誰にだってあると思います。ただ果たしてうまくいくのか……という不安感もある。実際の話、端末までやりたいと思っている出版社は多いと思いますけどね。
まつもと 出版社にはそういう考えを持っている人が大勢いると思います。
―― たぶんAndroid端末はこれからどんどん値下がりします。中国メーカーの安価な端末が出始めていますし、数千円、数百円で作れる時代もそう遠くはないかも。そうなったら“○○文庫リーダー”が夢じゃなくなる。定額制で、毎月新刊が勝手にポンポン飛んでくるような仕組みも可能でしょう。
文庫やマンガの単行本はフォーマットが決まっているから意外となじむかもしれない。ワンソース・マルチユースの考え方には完全に逆行するけど、シンプルで分かりやすい。
まつもと ですが問題なのは、日本のメーカーがそれに応えられていないということです。12月に入ってシャープのガラパゴス、ソニーのSony Readerとふたつの端末が日本に登場しましたが、国内の電機メーカーはコンテンツに対しての考えに課題があると私は考えています。
―― とはいえ雑誌配信に興味を示す出版社は少なくないかもと思います。出版が厳しくなっている最大の要因は雑誌が売れなくなっていることですから。
まつもと ガラパゴスは2010年内に3万コンテンツと言っていたかな。春には音楽と映像の配信も開始されるそうです。雑誌を救うことを考えると、広告をどうするかという視点が絶対に必要です。
ガラパゴスは、雑誌配信でKindleよりも先行している印象はありますが、仕組みの話だけすれば、ガラケーにも同じようなものがあったわけです。広告についての仕組みが同時に入らないと、コンテンツプロバイダーとしても完全に既存の雑誌を補完しうるものにならないし、収益の面でも厳しさがあるでしょう。
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次回は『どうやって儲けるのかいまいちわかりづらい』動画共有・配信サービスの現在と未来、そしてメディア維新=メディアシフトの意味について、まつもと氏の実務経験なども交えて語っていただきます。
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