その2:「ファンが求めるガンダムらしさ」との対話
機動戦士ガンダム00と、2つの「対話」 【後編】
2010年12月18日 12時00分更新
声を上げると、嫌な気持ちが増幅されていく
―― 匿名の悪口が、巨大な「悪」を作り出してしまう……なぜそうなると思いますか?
水島 これは、前回お話しした「争いは相手がわからない恐怖から起こる」ということと、根っこが同じだと思っているんです。
たとえば、社会でも映画でも何でも共通すると思うんですが、自分の周りで意に沿わないことが起こったとします。すると、自分でも猜疑心から「それは悪だ」という声を上げるし、よそから来るいろんな情報を「こうだったら嫌だ」と思うような内容に自己変換してしまって、「嫌なこと」を自分自身でさらに拡大させてしまうということがありますよね。そうなると、「きっと向こうは(自分にとって)嫌な意図を持っているに違いない」と拡大解釈してしまい、相手側が発信しているかもしれないメッセージが聞こえてこなくなる、ということもあると思うんです。
―― エルスのようですね。エルスは愛を持って人類に接しているんだけれども、愛の伝え方がわからなかったから、人類がエルスを「敵」だとみなしてしまったという。
水島 劇中に、「人と人とがわかり合うことを邪魔していることは何だろう」という話を入れたんです。物語の終盤、刹那とティエリアがやりとりする場面ですね。
刹那がエルスの意識を受け止めたとき、エルスから大量に情報が流れ込んできた。大量の情報流入に苦しむ刹那に対して、ティエリアが、「余計なものは受け流せ、彼らの本質である想いを知るんだ」と助言するシーンがあって。ティエリアの言葉は、そのまま僕もそう思っています。
―― 過剰な情報は邪魔にもなると。
水島 今は誰もが情報にアクセスできて、正誤構わず大量の情報が流れ込んでくる。情報はもちろん大事なんだけど、大量に受けすぎるとしんどいですよね。そうなると、自分で処理しきれずに頭の中にため込んだり、想像だけで嫌な気持ちを膨らませてしまう。
だから、もっとシンプルに物事を考えてみようよというのが僕なりのメッセージですね。そういうことが若い人たちに伝わればいいなと。シンプルに考えてみようというのは、たとえば相手と自分の立場の違いや利害の差、そこに生まれる偏見、そういったものをいったん外して、1対1で対話してみようよ、ということなんです。
それは何に対してもそうで、映画とだって「対話」はできると思うんですよ。
(c) 創通・サンライズ・毎日放送
―― 映画との「対話」? それはダブルオーのお客さんとの対話でもあるんでしょうか。
水島 それも含んでいるけど、映画全体ということかもしれません。
たとえば、この映画はダメだという見方をする時には、おそらく自分が見たい映画の理想型があるわけです。理想型があるのはいいことだけど、その理想型と違うからこの映画はダメだ、ということになってしまったら、残念なんですよね。それは若い頃の僕自身がそうでしたから。
……そう、僕自身にも「これは俺の思う映画じゃない」とか言ってた時代があったわけなんですよ(笑)。
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