このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ

“MCS Elements型アプリ”の登場が意味すること

2010年10月08日 06時00分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

データを一覧するのではなく
試行錯誤的に触っていく

 表計算ソフトというものがない時代、人々はプログラムを書いたり専用ソフトを使って分析をしていた。MacやWindowsを使うようになるまで、人々は漆黒の画面に向かって、「コマンド」という魔法の呪文のような文字列を入れてPCを操作していた。

 GUIが普及した現在でも、アンケートの集計データの閲覧や分析は、専用のソフトやサイト、あるいはExcelを使ってやるのが普通だった。そこに、新しい提案をしているのが「MCS Elements」だと言ってよいと思う。

 ひとつ、β版から数えてもう1ヵ月以上「MCS Elements」を使っているわたしが感じるのは、このアプリには「教育ソフト」のようなところがあることだ。自分で試行錯誤してデータに触れていくことで、あらかじめ自分が予想していたのではないファクトにたどりつくところが新しい。従来の集計ソフトでは、結果の表やグラフを睨みつけて理解していたものが、自分の操作によってストーリーになってくる。

 MCS 2010のアンケート実施時期は、2009年10月27日~11月11日なので、決して新しいとはいえない。この間にもTwitterやiPhone、SNSゲームについて、ネットの状況は大きく変化したのは事実である。

 しかし、教育ソフト的効果を考えると「MCS Elements」を何時間か触っているだけでも、ネット時代の消費者の様子を肌で感じとれるのではないかと思う。そこには、まだ文字になって本や記事で書かれていない新鮮な情報がたくさんあると思うのだ。

手の動きと連動した結果表示が
iPad時代の本質ではないか?

 アスキー総研は、データを提供しただけで(新たな集計項目の設計やデータの抽出・再編集でかなりの工数をかけたつもりだが)、「MCS Elements」の全体の設計はUEIがやっている。なので、逆に言いやすいのだが、「MCS Elements」はコンピューティングの世界に何かを投げかけていると言ってもよい。

 「こんなものは前からあった」という指摘もありそうだが、iPadという端末の出現によって初めてもたらされたものが大きいからだ。UEIのCEOである清水 亮氏もコラムでいろいろと書かれているが、iPadというアップルが世界に問うインフラに対して、「こうだろう」と示したい気持ちも大きかったのではないか?

 これが、「フリー」で話題を呼んだクリス・アンダーソンがいま言っている、「ウェブは死んだ」ということなのかどうか? タブレットとそれが同時にもたらすものが、わずか50年のコンピュータの歴史のなかにおいてではあるが、パラダイムを大きくシフトさせる可能性が高い。

 そんなこともあり、「MCS Elements」をどんなユーザーインターフェースにするかは楽しい議論だった。わたしがUEIやアスキー総研のスタッフとの話の中で提案したインターフェースは見事に却下されたのだが、それはこんな使い勝手だった。

 グラフのうちの1つの軸の設問項目を、まるでボリュームバーを滑らせるようにして入れ替えられる(値を変化させるのではなく、項目自体が変わるのだ)。そうすると、中央に表示されているグラフはめまぐるしく入れ替わる。3次元集計のグラフなら、モンタージュ写真で「目」と「鼻」と「口」を入れ替えながら容疑者の顔を割り出すような感覚になる。

3次元集計

「MCS 2010」の収録している設問・選択肢を説明するための図。3次元集計インターフェースが実現していたら、この立方体が、iPadの画面上でコロコロと動いていたかもしれない。

 これに相当することは、従来はいくつかの統計関数や分析手法によって行なわれてきたことだろう。しかし、そうした作業の煩雑さを知っているアスキー総研の担当者もやりたがらないし、なにしろ話が難しいのでプレゼン効果が低い。

 目で見るのと手が連動して、脳に働きかけるところがiPad時代的なのだ。

 さて、冒頭でコンピュータのない時代に豆を使って人の動きをシミュレーションしていたという話を書いた。ちょうど、大きな器にいろんな豆が混じって入っているのが、いまのネット利用者全体だと思っていただきたい。

 「MCS 2010」は、いわば割と大きめのシャモジで、ほどよくあちこちすくってきて丁寧に中身を数えてみたものだ。一方、「MCS Elements」は、いままでのシャモジとは違う何か新しい道具である(たとえば、大きさの違う穴が並んでいるシャモジで、丁寧に数えられはしないが瞬時に概要を掴むことができるもの、とか)。

 将来、検索エンジンから知りたい情報の手掛かりを、単語を並べて入力していたことが、笑い話になるかもしれない。事実、米国のGoogleは、先週からインクリメンタルサーチになっていて、「Search」ボタンを押す必要がなくなっている。情報自体に触れながら、求めるデータが得られる時代が来つつある。そんなことを「MCS Elements」に触れていて感じるのだ。

 手前みそな話ばかりになったが、ぜひ、「MCS Elements」を使って、日本人という豆をすくってみることをやってほしい。ソーシャルメディアの時代には、自分の周りの知識だけでは、世界が一層見えなくなるからだ。そのための新しい道具、「MCS Elements」ができて、みなさんに提供できるのがとても嬉しい。


前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ