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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第5回

人生、浪人でいいじゃないか 「地味アニメ」作る理由

行き場ないのは本当に不安? アニメで描く時代の闇 【後編】

2010年09月04日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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自分のルールは自分で作る

―― 前回もおたずねしましたが、今の世の中には、「さらい屋」主人公・政のように、周囲を見て自分は本当にこれでよいかと悩む人が大勢いるわけです。監督の場合、自分で制限を設けることが、何かの覚悟にもつながっているのでしょうか。

望月 覚悟というそんな大げさなものは特にないですよ。アニメの演出という仕事も、結局ほかに何が仕事にできるだろうと考えても別にないなと思って選んできただけですし。

―― 演出が「できるからやってきた」という感じなんですか。

望月 「それしかできない」からやってきたという。

―― もしかしたら、これしかできないという思いが、前に進む「推進力」にもなっている?

望月 そういうところはあるかもしれないです。自分から考えたことはなかったけど、結果的には。そう、ひとつ学生の頃からあったのは、ネクタイを締めるサラリーマンじゃない仕事がしたかった。というか、ネクタイを締めて会社に行くサラリーマンは、自分にはできないと思ったりはしていましたね。

 できることより、できないことのほうが多いですよ、俺は。取りあえず、スポーツは全般まったくだめなので、体育の時間というのは本当に苦痛なだけだったので。ただそこで、いろいろできるやつがいいとか、運動神経がよくて大きな大会で賞を取ったとか、そういうやつがうらやましいかというと、全然うらやましいことなんてなくて。

―― えっ、そうなんですか?

望月 だって俺は、そういう人になりたいわけではなかったので。10代の頃の悩みは、「今のこの体育の時間が一刻も早く終わらないか」ということでした。だから高校を出たときは、これでもう体育とか水泳なんか一生しなくていいんだと思うと、本当にうれしかったです(笑)。

 それだけですね。だから別に「何でもできるやつ」がうらやましいとは、まったく全然思わないです。それはそれだよな、俺には関係ない、みたいな。

 ……結構、監督という仕事も孤独な部分がありまして。要するに自分で判断するしかない、いいか悪いか誰も言ってくれないところがあって。アニメって基本が分業で、スタッフも自分の担当パートに集中しているし、作品の感想ってなかなか聞こえてこないんですよね。監督に向かって、この作品のここがよかったとか悪かったとか、なかなか誰も言ってくれないので。

―― そんなものなんですね……。

 多分、映画監督はみんなそうだと思うんですけど、最終的には、自分で自分を納得させながら、まあこれでいいかなとやっていくしかない部分もあって。周りから褒められながらやっていたってしょうがないですしね。

 残念ながら、流行りの路線にはいけない「地味」な性分なんで。人のことは気にしない。流行りの路線に似せようとも考えていない。「さらい屋」に関しても、この原作の良さを損なわず、自分が思うやり方でいかに丁寧にアニメにしていくかということに最善を尽くしていただけです。

 独自路線、他にないアニメでいいじゃないかと。万人受けではないかもしれないけど、そういうふうにしか、俺は行けないですから。それが、自分の「色」を作るということなんじゃないかと思います。


■著者経歴――渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)

 1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。日経ビジネスオンラインにて「アニメから見る時代の欲望」連載。著書に「ワタシの夫は理系クン」(NTT出版)ほか。

DVD発売情報

 「さらい屋五葉」第1巻
 発売:2010年7月23日
 収録話:第一話「形ばかりの」、第二話「抱かれたい」
 価格:5775円  初回特典:36P特製小冊子(オノ・ナツメ描き下ろし漫画や秘蔵制作資料を収録)、中澤一登描き下ろし豪華特製BOX、五葉オリジナルビジュアルカード2枚  ※第2巻は2010年8月25日発売!


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