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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第62回

モバイル専用からインテルの救世主になったPentium M

2010年08月02日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/)

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Pentium M世代のインテルCPUロードマップ

Pentium M世代のインテルCPUロードマップ

モバイルにはもともと向かなかった
Netburst Microarchitecture

 前回取り上げたPentium 4世代の「Netburst Microarchitecture」は、90nmプロセス以降でリーク電流と発熱量の増大に直面し、動作周波数を上げられず性能が頭打ちになっていた。その苦境を救ったのが「Pentium M」である。

Pentium M

Pentium M

 開発を開始したのは1999年前後だったそうだから、Pentium 4の投入直前あたりからスタートしたことになる。元々の発想は、まだ実際に製品ができる前から、「Netburst Microarchitectureはモバイル向けにはまるで向かないことがほぼわっていたため」ということらしい。

 実際、Northwood世代では何とかPentium 4をモバイル向けに提供できないかといろいろ苦労していた。Mobile Pentium 4-MとかMobile Pentium 4(最後に-Mがつかない)などをラインナップして、Mobile Pentium 4-MでTDPを最小25.8W(ただし1.4GHz動作)程度まで押さえ込むが、メインストリーム向けのTDPは30~35W程度だった。Mobile Pentium 4に至ってはTDPが60~70Wレンジもあり、「Mobile」というよりも「Transportable」向けである(実際、この時期インテルは「Desknote」という呼び方をしていた)。

 この結果として2000年以降、デスクトップやサーバー向けにはNetburst Architectureの製品が猛烈に入ってきたにも関わらず、モバイル向けには引き続きPentium IIIベースの製品が提供されるというチグハグなことになっていた。

ムーリー・エデン氏

ムーリー・エデン氏

 そんなわけで、こうした状況は事前にわかっており、これを解決するために「モバイル向けに特化したプロセッサーを作る」ことが決まっていた。手がけたのはイスラエルのデザインチームで、当時このイスラエルのデザインセンターの所長だったムーリー・エデン(Mooly Eden)氏である(最近ではすっかりインテルの顔となった)。

 さてそのPentium Mだが、“スタートは”Mobile Pentium IIIだったそうだ。“スタートは”というのは、Pentium Mは最終的に、Pentium IIIとは大分異なった製品に仕上がったからだ。通常マイクロアーキテクチャーを新規に起こす場合、設計開始から製品出荷まで4~5年掛かる。例えばPentium Proに始まる「P6」の場合、デザインが始まったのが1990年6月で、出荷が1995年11月である。だから4年未満で製品投入というのはかなり早い。

 もっとも同チームはすでに、60回で触れた「Timna」でP6アーキテクチャーは体験済だったから、これによる知識の蓄積も大きかったのだろう。以前にエデン氏やデビッド・パルムッター氏(エデン氏の上司で副社長兼モバイルプラットフォームグループジェネラルマネージャー、いずれも当時)にこのあたりの話をうかがったときには、「確かにPentium IIIをベースにはしたが、一度完全に要素(Element)を分解し、もう一度再定義しなおして、そこから作り直している」という返答があった。

Baniasのダイ写真

Pentium Mのコード名「Banias」のダイ写真

 結果として、大枠としての特徴、つまりスーパースケーラー+アウトオブオーダーの構造や、同時2命令+αの実行性能、ハーバードアーキテクチャーの搭載といったものは、ほぼP6からの特徴を引き継いだが、内部的な構造には大分手が入ったと見られる。特に実効性能を引き上げる「μOps Fusion」とか、消費電力が多かった90nmプロセスでも実用的な範囲に消費電力を押さえ込んだ「Aggressive Clock Gating」などの特徴は、P6にはまったくなかったものだ。

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