私の家の近所に夜は居酒屋さんで、昼間は店頭で弁当を売っているお店がありますが、弁当が売れているところを見たことがありません。店員さんが3人もいるのですが、みな携帯電話をいじっていて、誰も店番をしていないのです。「そんな店員は商売人失格だな」と思ったネットショップ店長のみなさん。では、1日何回Twitterでツイートしていますか。もしTwitterアカウントをまだ持っていなかったり、持っていても何を書いていいのかわからな かったりするのであれば、この居酒屋の店員と同じです。いまやネットショップにとってTwitterは店番と同じ。「自動販売機のように放っておけば注文 が来る」のはごく一部の人気店だけです。
ネットショップには独自ドメイン型とモール型があります。独自ドメイン型というのは、ネットショップが自身のドメイン名で運営する独立店舗です。リアルな世界と同様、独自ドメインのネットショップはデザインも自由ですし、広告や宣伝も自身の費用で自由に企画できます。リアルな世界で立地が悪ければ お客さんが訪れにくいのと同じで、独自ドメイン店はただ運営しているだけでは売上げにつながりません。
従来、独自ドメイン店の集客には検索エンジンの上位に表示されるように工夫(SEO)したり、検索エンジン連動型の広告(PPC広告)を利用したりするのが一般的でした。そこに風穴を開けたのがTwitterなどのソーシャルメディアです。すでに米国では、来店したお客さまとTwitterを使ってリアルタイムでコミュニケーションするような店舗も増えています。Twitterを使えば、ネットショップの弱点だった購入を迷っているお客さまとの接点が生まれ、お店の個性をアピールできます。「いらっしゃいませ」の挨拶や店内の賑わいをネットショップでも実現できるのです。
たとえば海外では、Twitterでテイクアウト用の予約を受け付けるようにした街の喫茶店、いまどこで営業中かをTwitterで知らせるよう にした屋台、自社についてツイートしているユーザーに積極的に「お礼」を送信するワイナリーなど、数多くの成功事例が知られています。そうです! Twitterを活用できるのはネットショップだけではありません。Webサイトがなくても、Twitterアカウントがあれば、どんな店舗でもWeb上でお客様とコミュニケーションができるのです。
この連載では、ソーシャルメディア時代のネットショップの顧客サービスについて、米国の事例などを紹介します。第1回である今回は、小さなネットショップでこそTwitterを活用すべき理由を述べようと思います。
Twitterが小さなネットショップに向いている理由
通販の世界では、商品を20個発送すると1件の問い合わせがある、という経験則があります。自社が原因のクレーム発生率は0を目指して改善すべきですが、不在伝票が風で飛ばされて、お届け予定日に商品が届かないように感じる、といった「事故」は防げません。仮に月商500万円、客単価5000円の 標準的ネットショップであれば、毎日2~3件の問い合わせがあってもおかしくないのです。
もちろん、Twitterを使っても問題はなくなりません。しかし、Twitterの特性を逆手に取ることで、コストでしかなかった顧客対応が、自社のブランドを高めるマーケティング活動になるのです。お金をかけずにブランドを構築し、商店街の店舗と常連客のようにお客様との関係を築くのは、巨大モールや人気店ではなく、小さなネットショップ向きの話です。では、「Twitterの特性」とは何でしょうか。
Twitterの特性1:一度のメッセージの長さが140字以内に制限されている
Twitterには一度のメッセージが140字以内という制限があります。もともと日本以外の携帯電話で使われているSMSの制限に由来しますが、このためにTwitterでのやりとりは簡潔さが求められます。お客様からのお問い合わせを受けたことがある方なら、お客様に起きた問題と、お客様がお望みの解決策を明確に説明できない方もいらっしゃることをご存じでしょう。しかしTwitterには文字数の上限があるので込み入った状況説明が省かれ、「商品が届かないので配送状況が知りたい」「壊れていたので返品したい」など、問題とお客様の望む解決策が初めから書かれていることが多いです。もし140字で言い表せないほど問題が複雑なら、電話番号をお尋ねし、対応を深化させればよいのです。こういう緻密な対応は、発送数の多い大規模ショップには向いていません。
Twitterの特性2:クレーム以下の小さな問題に気づける
Twitterはリアルタイムの1対1のコミュニケーションにも使えますが、コミュニケーションになっていない問題に気づけるのもメリットです。たとえば「楽しみにしていた○○が届いたんだけど、ほんのわずかだけどキズがあったのが残念」というクレームではないけれど、お客様が残念に感じた点に気づけるのです。店舗名や商品名で検索して、小さな問題をつぶやいているユーザーを発見したら、多少時間が経っていても話しかけてみましょう。商品名での検索は、売れ筋アイテム数の少ない小規模ショップ向きです。
Twitterの特性3:顧客対応がログに残る
Twitterでは、基本的にメッセージを公開してやりとりします。お客様によってはご自身の感情を露わにして問題を指摘する方もいらっしゃいますが、みんなの見ている場所では感情が抑制されるものです。また、お応えするサポートスタッフも、みんなが見ているという状況で、言葉を選んで発言するようになります。双方が理性的な状態でお客様の問題を解決できるのは素晴らしいことです。
さらにTwitterでは、素晴らしい顧客対応がログに残るメリットがあります。初めて購入するネットショップは信頼できるのだろうか? 過去に どんな問題があって、他の人はどんな対応をされたのだろうか? こういう疑問にTwitterという第三者のサービスが応えてくれるのは、お客様にとって大きな信頼につながります。伝説となって語られるような素晴らしい顧客対応を目指しましょう。また、サポート業務のマニュアル化は、組織が大きくならないと手が回りにくいですが、ログが残っていればどういう対応をすべきか、後任担当者が学べます。