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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ

オモチャの時代

2010年07月16日 06時00分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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なぜ人は、横井軍平の仕事にひきつけられるのか?

 しかし、わたしは、自分の編集部で作り、編集人として名前を連ねた『横井軍平ゲーム館』に、いまさらケチをつけるつもりはもちろんない。なぜ、人々は横井軍平の仕事にひきつけられ、この本が“幻の本”となっているかということを考えてみて、少し分かったことがあったのだ。

 オモチャでは、子供でもすぐに遊べるくらいのシンプルさが、デザイン上の必須条件となる。それに加えて、触ったとたんにパッと動くポジティブかつスムーズな、生き物のようなレスポンスが大切だ。

 横井軍平の作品は、もちろん、いずれもその条件を満たしている。実は、任天堂の製品がそれを満たすべく作られてきたことは、ファミコンが8ビットの時代にすでにスプライト機能(小さい画面を高速に表示する仕組み)を備えてアーケードなみの反応速度を備えていたことや、スーパーファミコンで読み込みに時間のかかるCD-ROMの採用を見送ったことでもよく知られている。

 ところで、いまiPhoneとゲームボーイを比べてみると、この2つにいくつもの共通点があることに気づく。動作したときの俊敏なレスポンスを優先して設計されていることや、手の中におさまるように設計されていること、アプリケーションプレーヤーであること、そしてどこまでもシンプルで誰でも使えるように作られていることなどだ。

 コンピュータはいま、ようやくオモチャの領域、つまり横井軍平の世界に追いついたのかもしれない。

ラブテスターの内部

「ラブテスター」の内部。抵抗やトランジスタがいくつかハンダ付けされているだけの、きわめてシンプルなつくり

 横井軍平のヒミツは、オモチャの中心原理ともいうべきものだろう。そんな中でも、その仕事を際だたせている作品は、やはり「ラブテスター」である。あっけらかんと冗談のように、子供や大人の心をつかんではなさない、その仕掛けが楽しい。まるで、わずかな遺伝子情報がその人の豊かな人間性を生み出すように、オモチャレベルの仕掛けが、時代を超えて人々の心に残る。

 ということで、iPhoneで作るべきアプリは「ラブテスター」だと思った。ところが、App Storeで「love tester」を検索してみたら、ザッと20本ほどの恋愛度測定アプリがずらりと出てきたのだ。いまさらググって分かるのは、1960年代にラブテスターは米国でも売られていたのである。そうなのだ。1960年代、日本はオモチャが主要な輸出品のひとつで、任天堂もそれに関連したメーカーだったのだろう。

 iPhoneの世界といえど、まだまだ、横井軍平ワールドの足元を追いかけているだけなのではないかと思うわたしだった。まあ、つまり、日本にもまだチャンスがあるということだ。大切なのは、iPhoneやiPadの画面の中から、発想を飛び出させることなのである。

 『横井軍平ゲーム館』の著者らが今年、2冊の本を出した。『横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力』(横井軍平・牧野武文著、フィルムアート社刊)と、『ゲームの父・横井軍平伝 任天堂のDNAを創造した男』(牧野武文著、角川書店刊)の2冊である。

 これら2冊の刊行を記念して、軍平ナイト2010なるイベントが、来る2010年7月30日に都内某所で行なわれることになった。当日は、『横井軍平ゲーム館』の著者、編集者や横井軍平の仕事を愛する人々が集い、熱く語り尽くすはずである。今回も、楽しい横井軍平の作品群に触れることもできるだろう。

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