ALi/ULiチップセットの歴史 その1
今は亡き? ALi/ULiのチップセットビジネスを振り返る
2010年06月14日 12時00分更新
AcerのIC部門から生まれたALi
現在はすべて買収
台湾チップセット御三家の最後を飾るのは、ALi/ULiである。元々同社はAcer Inc.のICデザイン製造部門であった。これがIC設計専門の子会社として、1987年1月にAcer Laboratories, Incとして独立する。「ALi」は本来、Acer Laboratories, Inc.の短縮形として使われてきた言わば略称であった。
独立と言っても、当初は連結子会社としてAcerの傘下にあった。これがファンドなどの助けを借りて完全に独立するのは、1993年6月のことである。もっとも独立したとは言え、広義にはまだAcerグループの一員であった。その後2002年5月に、社名をAcer Laboratories, Inc.からALi Corporationに変更。2002年8月にはTSE(台湾証券取引所)に上場して公開会社となる。
ところが、その直後である2002年10月に、ALi CorporationはALinx Technology Corporationを設立、自身の通信/ネットワーク関係製品をこちらに移す。さらに同年12月には、ULi Electronics Inc.を設立。チップセットビジネスをこちらに移し、両社とも独立させた。
ではALi Corporationには何が残ったかというと、コンシューマ向けのさまざまなコントローラーであり、実際DVD用のデコーダーなどではかなりのシェアを握っていた時期もあった。ただし、その後は台湾の半導体メーカーMediaTekに事実上買収されてしまった。買収と言っても、会社そのものを吸収合併したわけではないが、ALiの筆頭株主はMediaTekであり、取締役会の半数がMediaTekの人間という現状では買収と考えてよいだろう。ULi Electronics Inc.も2005年12月にNVIDIAに買収され、事実上消滅してしまった。
こんなルーツを持つALiだが、それは裏を返すと「それなりの技術力があった」ということでもある。これは筆者の私見だが、台湾御三家の中で一番技術力があったのは、おそらくALiではなかったかと思う。
というのは、ALiでは単にチップセットのみならず、「N3415A」「M3417V」といったグラフィックチップ(S3の互換品といった話もあったようだが)や、MPEG-1/2やDolbyのデコーダーチップ、CD-ROMのコントローラーやFAX/Modem、さらにはさまざまなネットワークコントローラーなどを手かげている。
さらには、80386SX互換コアに周辺チップを統合した「M6117D」といったSoCまで開発していた。これらは今となっては珍しくもないだろうが、開発されたのがいずれも1990年代ということを考えると、決して馬鹿にできたものではなかったと思う。余談ながら、M6117Dは現在でもDM&P Electronicsから入手可能である。DM&PはSiS550と同様に、ALiからリソースごと買収したようだ。もっともSiS550の場合と異なり、CPU性能の拡張の余地はあまりなかった模様で、いまだにM6117Dのまま販売されている。
変わったところでは、Acerのワークステーション「PICA」のCPU(コアロジック)がやはりALiによるものである。かつて「ACE」(Advanced Computing Environment)というコンソーシアムにより、「ARC」(Advanced RISC Computing)と呼ばれるものが開発されていた。IBMは「PReP」というPowerPCベースの製品を用意したし、SGIは「Visual Workstation」をx86ベースで構築、さらにDECは「AlphaStation/AlphaServer」をAlphaプロセッサーベースで作成した。
なかでも最大の陣営はMIPSベースで、DECの「DECStation 5000」やNECの「RISCstation」、Olivettiの「M700」など、各社から製品が提供された(される予定だった、と言うべきか)。これらはいずれもWindows NTが動作する予定で、そのためWindows NT 4.0はx86向け以外に、PowerPC/Alpha/MIPS向けが開発されたわけだ。
AcerのPICAは、MIPSをベースとしたARC対応ワークステーションであり、このコアロジックの開発をALiが担当した。こうしたプロセッサーまで手がけられるくらい技術力を蓄積していた企業だった、というのは間違ってないだろう。
実際、サウスブリッジに関しては台湾御三家の中でALiのものが一番まとも、というのはよく知られた話であり、VIA/SiS並み(下手をするとそれ以上)にサウスブリッジの不具合に悩まされた旧ATI Technologiesは、サウスブリッジの供給をALiに頼っていたほどだ。つまりノースブリッジはATI、サウスブリッジはALiという組み合わせである。この結果、ALi/ULiはインテル向け/AMD向け以外に、ATI向けという製品ロードマップが存在していたほどだ。
この連載の記事
-
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第792回
PC
大型言語モデルに全振りしたSambaNovaのAIプロセッサーSC40L Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第791回
PC
妙に性能のバランスが悪いマイクロソフトのAI特化型チップMaia 100 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ