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マーケティングミックス 4P

2008年06月30日 14時21分更新

文●権 成俊/株式会社ゴンウェブコンサルティング 代表取締役、李 泰成/株式会社ゴンウェブコンサルティング SEMチームリーダー

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マーケティングミックス 4Pを考える

 これまでは事業戦略の話でした。事業戦略とは、事業の枠組みをどう定義するか、ということです。それによって事業領域をどこからどこまでと線引きするか、が決まります。事業戦略で設定した3Cから外れるような商品、販売方法、価値の提供は別の事業なのです。

 以前にも述べたように、事業領域、つまり3Cを決めた時点でその事業の成否はおおよそ決まります。提供する価値とお客様、競合環境が固定された中で、マーケティング手法や価格でどのような工夫をしても、成果が格段に高まるということは普通はあり得ません。ですから、事業のイメージを十分に煮詰めないうちに、焦って商品の企画や売り方、店舗(ウェブサイト)の設計に手をつけることはやめましょう。それがきっちりと出来上がり、「この戦略なら確実に勝てる!」というイメージが固まったらマーケットの最適化、つまりマーケティングに入ります。

 マーケティングとは、事業戦略に従い、狙ったSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)に対して商品、サービスを提供するための最適な仕組みづくりを行うことです。仕組みづくりの範囲は商品開発から販売方法、広告宣伝、組織作りなど、事業にかかわるすべての領域にわたります。

 マーケティングといえば、よく知られているのがマーケティングミックス4Pといわれるものです。この4つの要素を最適な形で設定することで、最適なマーケティングができると考えられています。

 ●Price ;価格
 ●Product ;商品
 ●Promotion ;宣伝
 ●Place ;立地

 “価格”、“商品”はネットという販売手法を使用しても基本的には変わりません。しかし、“宣伝”は距離という概念がないネット上では、バナー広告には常にリンクが張ってあり、“知ってもらう=訪問してもらう”という状況が普通です。さらに、コンタクトポイントづくりと販売環境という概念はサイト外部からサイト内部への誘導のみならず、目的とする商品ページへの到達までが相当すると思われます。サイトに訪問してからもワンクリック、またブックマークなどからすぐにサイト外に出ることも可能なのですから。そのため、“宣伝”“立地”という概念を“アクセス対策”と“ウェブサイト”に置き換えることができるでしょう。そう考えると、ウェブマーケティングにおいて、4Pは以下の4つに置き換えられます。

 ●価格
 ●商品
 ○アクセス対策
 ○ウェブサイト

 ただし、この考え方はリアルと結びつかないクローズドなウェブマーケティング、つまり、ウェブで見込み客とのコンタクトの獲得から販売までをやり遂げる場合の考え方です。リアルビジネスと繋がりがある場合のアクセス対策はマスメディアのほうが大規模に行えますし、決済もリアル店舗に誘導するほうが敷居は下がるでしょう。

“価格”を考える

 次にウェブマーケティングミックスの要素を一つ一つ詳しく見てみましょう。

 まず、4Pの中でもっとも訴求力があるのが価格です。
特に競争の激しいネットビジネスにおいて、価格の力は計りしれません。ネットビジネス黎明期にネットになじむビジネスとされていたのは、データベースと結びつき、検索機能が効果を発揮するビジネスです。たとえば、不動産、人材、本や型番検索によるパーツ販売など、選択条件が明確であり、多くのデータから選択する必要があるビジネスです。データベースを用いて条件で絞り込むにはコンピュータを活用するのが最も便利だからです。その場合の選択条件の一つが“価格”です。つまり、ネットビジネスでは価格比較がしやすく、ネットを利用して購入する大きな理由の一つなのです。

 お客様は自身の欲しい商品を見つけると、それをできるだけ安く買いたいと思います。そのために、価格.com、ECナビのような価格比較サイトを利用したり、検索エンジンの商品検索機能を使ったり、またモール内検索で安い順に並べて、同じ商品を出来るだけ安く購入しようとします。ネットで購入する大きなメリットの一つが、「多くのお店の中でもっとも安価なお店で購入できる」ということなのですから。これは売り手にとってはとても恐ろしいことです。どんなに商品の魅力を詳しく説明し、その結果商品購入を決めたとしても、お客様は商品説明を受けた恩を忘れ、サイトを出て同じ商品を販売している他の店舗と価格を比較してもっとも安い店で商品を購入してしまうのです。

 そう考えると、「どこにでも売っているような仕入品であればもっとも安い店でしか売れない」ということになります。理屈ではそのとおりですが、実際はその限りではありません。たとえば、少額のものであれば送料や何らかの手数料、ポイント付与などを含めると一番安いのがどこなのかが判断しにくいという理由があります。他にも、あまりに安価なものであれば値段が多少変わっても比較する手間のほうが惜しい、ということもあります。

 また、ブランド品のような高価なものであれば、逆に安い店は偽物ではないか、詐欺ではないか、という不信感も抱かせます。ですから、必ずしも最安値の店でしか売れないということはありませが、商品によっては価格だけでその売れ行きが決まるのです。

 ですから、ネットで商品を販売する上での価格戦略は大きく2つに絞られます。

価格戦略1 他社よりも安く売る

 価格戦略1はとてもわかりやすい戦略ですが、仕入品であれば通常は仕入れ値は大手になればほとんど同じです。それでも最安値で売るためには利益を削るか、もしくは仕入れ価格を交渉して他社よりも安くしてもらう必要があります。しかし、メーカーからしてみればどこで販売しても売り上げは変わらないわけで、余程販売量が多かったり、全体の販売量の総和を大きく膨らませる見込みが立たなければ交渉には応じてくれないでしょう。

 そのため、一般的に価格戦略1をとるということは、利益を削るということになります。特に価格競争の成熟期には利益0では価格競争が止まらず、赤字になるまで競争が続くものです。その結果、売り上げは果てしなく上がりますが、キャッシュが回るばかりで利益は残らず、むしろ財務状況は悪化する、という結果になりがちです。

 しかし、「ここでつかんだお客さんに対して次は利益の出る商品を販売すればいい」と思う方もおられるでしょうが、忘れてはならないのは安売りで獲得した顧客は価格を比較して購入した実績があり、できるだけ安く買う、というポリシーも、価格比較技術も持ち合わせているということです。次の商品を購入するときには価格を比較して最も安い店で購入しない、という理由があるでしょうか。

 しかし、それが可能な方法もないわけではありません。それは、顧客をつかむためには価格戦略1をとり、次回以降の販売では価格戦略2を取るという方法です。

価格戦略2 価格を比較されにくく売る

 価格を比較されにくく売る方法は先ほどいくつか紹介しました。

●比較の手間が面倒に思えるくらいの価格差にとどめる
●ポイントや送料など、商品本体価格以外の面で安さを演出する
●価格差を跳ね返すくらいの信頼感や販売店ブランドで売る

 どれも結局は「価格を比較する以上のメリットを与える」ということです。たとえば、家電量販店で液晶テレビを物色するとします。店員さんに要望を伝え、いくつかの商品を紹介してもらい、細かい質問を繰り返して商品を絞り込み、「この商品を購入しよう」と決めました。そのとき、「ネットで購入したほうが安いかもしれない」という思いが頭をよぎります。

 しかし、「時間をかけて詳しく説明してくれたし、わからないことがあれば教えてくれそうだし。ポイントもつくからここで購入すればいいか。」と思う場合があります。これは結局、商品説明やアフターサービス、ポイントなど、商品の本体そのもの以外で優位性をアピールできているということです。

 価格戦略1は全方位にアピールし、最大のシェアを獲得するための作戦です。これはランチェスター戦略で言うところの強者の戦い方で、つまりスケールを持っている事業者にとって有利な戦い方です。これに対して価格戦略2は自身にとって有利な競争環境をつくりだし、新しい競争ルールで戦うということです。つまり、小規模事業者に適した販売方法です。そのため、小規模事業者は最初は価格を下げてシェアを獲得する、という戦い方はせず、価格については“高い”と思われにくいアピールを行うのがいいでしょう。

 ただし、一部の商品だけ激安にし、それに釣られて他の商品の売り上げが上がる、というやり方はありです。しかし、他の商品も同じように安くしてしまうと、事業規模が大きくなるまで利益が出ない、という事業になり、長期的に難しさを抱え続けることになります。

著者プロフィール

名前 権 成俊(ごん なるとし、左)、李 泰成(り やすなり、右) info[アットマーク]gonweb.co.jp
※著者に直接問い合わせをする際は、お名前、会社名、サイトURLなどを明記してください。
会社 株式会社ゴンウェブコンサルティング
サイト http://www.gonweb.co.jp/

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