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事業戦略は事業理念から

2008年05月12日 09時00分更新

文●権 成俊/株式会社ゴンウェブコンサルティング 代表取締役、李 泰成/株式会社ゴンウェブコンサルティング SEMチームリーダー

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商売は自ら育てる、事業は社会が育てる

 事業理念とはその事業がどのように社会の役に立つのか、を端的に表現したものです。よくある言い回しとして「○○を通して社会に貢献します」「○○によって中小企業の力になります」などがあります。どうやらどんな事業でも社会や他社の役に立つことを考えています。「他社の役に立たなくても事業は成り立つのでは?」と思う方もいるでしょう。実際、多くの人に疎まれながらも成立しているビジネス(事業ではなく)はあると思います。しかし、小規模ビジネスではなく事業として、大きく、長い間存在するためにはやはり多くの人に支えられる必要があります。

 事業には多くの人が関わります。自社の従業員やお客様、株主はもちろんのこと、流通会社や運送会社、また広告を出稿するには広告代理店やメディアが、またそれ以外にも競合他社、協業会社、とにかく、事業を取り巻く環境の中で多くの人が事業にかかわります。そうでなくては自社の従業員だけでは大したことはできないのです。それが社員が1000人の会社であっても、1万人の会社であっても、自分たちだけで出来ることは限られており、多くの方がその事業にかかわることで生み出した価値が少しずつお金として返ってくるのです。単純に100人の会社の従業員が生きていくためには100人のお客様では足りないでしょう。おそらく、それがどんなビジネスであれ、その1000倍くらい、10万人程度のお客様がいないと生きていくことはできません。1000人で一人を支えるわけです。

 これだけ多くの人に直接その価値を伝え、対価をもらうことができるでしょうか。おそらく出来ないでしょう。商売規模で1:1や少人数同士であれば出来るでしょうが、事業と呼べるような規模になるといろいろな人々を媒介して価値を届けなければ効率が上がりません。その価値を媒介する人たちが社員や代理店であれば黙っても自社の商品を宣伝し、その価値の見返りとして金銭を獲得できますが、その数にはやはり限りがあります。そうなると、直接利害関係が無い人たちが宣伝してくれなければ大きな事業は出来ないということです。

 事業が大きくなればなるほどその価値を提供する過程には必ず第三者が存在します。その第三者がその事業を応援してくれるかどうかが事業拡大の成否を握るわけです。そのため、大きな事業が成立するためにはそれが多くの人に喜ばれるものであることが必須なのです。

 見方を変えれば事業というのは社会の中で分業の役割を担うために手を挙げる、ということです。「私は●●が得意なので、この事業をやります。応援してください。」と宣誓することです。その宣誓内容が事業理念です。

 しかし、同じような得意分野を持つ会社もあります。いわゆる競合他社です。そうなると、社会はより適切な役割分担を要求するでしょう。その結果競争が起こり、競争力の強い方が生き残ります。しかし、競争のコストは最終的には企業が生き残るためのコストになり、サービス・商品の価格に含まれてきます。結果競争の結果損をするのは社会全体です。つまりサービス向上のためでは無い競争は出来るだけ避ける方が社会全体の価値の増大につながります。そう考えると、過度な競争が増えるよりは、各社がそれぞれの強みをより絞り込んで事業分野が細分化することが社会全体にとって有益でしょう。つまり、競合がいない環境であれば商品サービスの幅を広げることもできますが、競合他社が出現するようならより強みを絞り込む必要があり、商圏の広さと強みの絞り込みの度合いは関係するということです。

 まとめますと、よい事業理念とは下記の条件を満たしています。
1) その事業は社会に歓迎される
2) その商圏においてNo.1になれる
3) 適切な組織規模である(もしくは目指している)

 このように、社会全体に価値を還元できる事業を自らの事業と定義することで、社会がその事業を応援してくれます。応援と言っても声を掛けて励ましてくれるわけではありませんが、その事業の価値と独自性が明確であれば社会全体のニーズがその事業に流れ込み、その事業に栄養を与えてくれるのです。この事業理念の定義をベースに、企業としての目的、目標、それを実現するための戦略、戦術などより細分化した計画を立てていくことで事業プランが明確になっていくのです。

ネットショップのコアコンピタンス

 ネットショップにとっては事業理念を考えることは特に重要です。なぜなら、ネットビジネスはリアルビジネスよりも競争が激しく、またマーケットの成熟のスピードも速いからです。

 前回お話しした通り、最初はアクセス対策という手法の一つとしてネットショップビジネスに参入する人でも、自身のマーケットの天井を感じたり、競争が激しくなった時に「本当にこれが自分のビジネスなのか」「この事業をやり続けなければならないのか」という疑問が生まれます(それ以前の段階で競争に勝つことに躍起になっている人にはまだピンとこないかもしれませんが)。ネットショップは商圏が広く、日本全国のネットユーザーを対象としており、また競合も日本全国の同業者になるわけですから、マーケットの天井や競合他社を意識する段階はすぐに訪れます。そのため、ネットショップでは出来るだけ早い段階で自身の事業理念を確立し、なぜこの事業を行うのか、また自身が社会からこの役割を与えられるべきなのか、これを考える必要があります。大きな事業であれば、たとえばもともとリアル店舗で同様の商品を扱っているとか、もしくはネットで販売するための特別なノウハウや仕入れルートを持っているなどのリアルで明確な根拠が必要でしょう。この根拠を“コアコンピタンス”と呼びます。“根本的な強み”と考えればよいでしょう。

 しかし、小規模から始める方には“コアコンピタンス”と呼べるほどの強みは持っていない場合が多いものです。単純に「この事業が好きだから」という想いで始められる方が多いと思います。それも一つの理由になりうると思います。「好きこそものの上手なれ」です。当たり前ですが、好きな仕事をしていれば自然と詳しくなりますし、結果情報もノウハウも増え、強みになるでしょう。強みがあれば他社よりも有利な競争が出来、結果商売もうまく回り、スケールも大きくなるでしょう。

 しかし、この場合の好きは「日本中の同業他社の中でTOPクラスに好き」でなくてはなりません。野球が好きな高校生はたくさんいますが、甲子園で優勝できるのは1チームだけです。好きなことをやっている、と言いながらも不勉強であったり、楽をしようという考えでは競争に勝ち抜くことは出来ません。そのため、小規模ネットショップが競争に勝ち抜くためには下記の2つが必須の条件となるでしょう。

1)好きな仕事である
2)この分野であれば誰よりも努力できる

3Cから事業戦略を考える

 事業を興して成功するためには社会に歓迎される事業理念が必要であり、そのためにはコアコンピタンス、つまりその事業で勝ち抜くための強みが必要です。その強みをベースにして、自社、顧客、競合他社との関係を整理しておきます。これを3C分析と呼びます。事業戦略の大きな枠組みを考えるたたき台として用いられます。

● 自社;Company
● 顧客;Customer
● 競合;Competitor

 この3社の関係をイメージして矛盾無く価値の提供が成立するかどうかをイメージします。
自社が顧客に与える価値は何か、自社と競合の差別化要素は何か、また顧客から見て競合他社よりも自社を選ぶ理由は何か。これが矛盾無く説明できる事業であれば概ね成立すると考えられます。ただし、ここでは矛盾が無いことの確認までです。言ってみれば、水が高い所から低い所に流れるように、価値あるところにお金が流れる、ということを確認しているだけです。どんなスピードで流れるのか、どのくらいの量流れるのか、ということまでは確認していません。これについてはこの先考えることになります。

著者プロフィール

名前 権 成俊(ごん なるとし、左)、李 泰成(り やすなり、右) info[アットマーク]gonweb.co.jp
※著者に直接問い合わせをする際は、お名前、会社名、サイトURLなどを明記してください。
会社 株式会社ゴンウェブコンサルティング
サイト http://www.gonweb.co.jp/

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