2009年3月31日、経済産業省が主導する中小企業向けSaaS活用基盤整備事業「J-SaaS」の運用が開始された。
同日オープンした「J-SaaS」のWebサイトには、財務会計や給与計算といったバックオフィス業務から電子申告まで、16社が提供する24のアプリケーションが用意されており、利用者(会員登録が必要)はその中から必要なアプリケーションを選び、有料(月額1000円台から)で利用できるようになっている。
ほとんどのアプリケーションは無料お試し期間(多くは1ヵ月)が用意されているので、選定や導入もスムーズに行なえるだろう。
J-SaaSに登録された各社のアプリケーションは、シングルサインオンと一括課金、財務、税務など一部データ間での連携が行なわれているため、利用者は「J-SaaS」のサイトですべてを完結(ワンストップ)できるというのが大きな特徴だ。
経産省が「J-SaaS」事業を立ち上げることになった背景と、その狙いについて商務情報政策局 情報処理振興課 課長補佐の安田篤さんに聞いた。
進まない中小企業のIT化
まずは利用者側からの視点だ。
準備期間に行なわれた調査によると、中小企業のパソコンおよびインターネット環境の普及率は8~9割であるにも関わらず、財務会計や給与計算などの業務でITを活用している企業は2割~4割に留まっているそうだ。この傾向は従業員20人以下の小規模企業に顕著であり、そのデバイドを解消するのが「J-SaaS」の目的の一つとなっている。
「業務の効率化や売上への貢献など、IT化によって受けられるメリットは経営者にもある程度は浸透していますが、初期投資額が高いことや、運用メンテナンスやセキュリティ管理などに新たな人的リソースが必要とされることが、障壁になっているようです」(安田さん)
そこで政府がインフラを整備し、その上でベンダーがSaaS化したアプリケーションを提供することによって、中小企業が最小限のコストで業務のIT化ができるよう支援することが可能になるという。
ソフトウェアは所有から利用の時代へ
次にベンダー側からの視点。
近年SaaSやPaaS、クラウドコンピューティングなど、IT業界におけるサービス提供の形は、アプリケーションの所有から、サービスそのものの利用へと変化してきている。
もちろん従来通りのパッケージやSIといった提供の仕方も継続されるだろうが、中小企業ユーザーからはカスタマイズできなくてもいいので、値段を安くしてほしいという要望も、高いという。
「特に財務会計や給与計算など、あまりカスタマイズの必要がない定型的な業務の場合、所有から利用へという流れが進むと思います」(安田さん)
J-SaaSに参加するベンダーにはインフラの提供(すでにインフラを所持している場合は共存も可能)と、アプリケーションのSaaS化に必要となる移植開発費(2000万円もしくは5000万円)が支給される。
このことは、ベンダーに対しても早期にSaaSのビジネスモデルに対応し、競争力を強めてもらいたいという意図があるという。
電子政府の推進
最後に行政側からの視点。
国税庁が運営するe-Tax(国税電子申告・納税システム)の推進という意味合いもあるという。
e-Taxの利用率は2007年度で約17%だが、政府全体として2010年までに50%という目標を掲げている。
J-SaaSには電子申告用のアプリケーションが安価で提供されているため、利用者がPCで税理書類を打ち込み、その書類を税理士もPCで確認するということが可能になっている。
したがって、「J-SaaSを利用することによって、従来のように紙を使う必要がなくなるため、少しでも中小企業にとっての電子申告の敷居が下がればいいなと期待しています。ぜひ来年の確定申告からJ-SaaSを使っていただきたい」(安田さん)
また、今後も社会保険など電子申告の範囲を広げていきたいと検討しているという。
以上のような背景から、ワンストップ中小企業ITプラットフォームを目指してサービスをスタートした「J-SaaS」事業だが、まだまだ改善点は多い。
「現在のところ財務会計や給与計算など、業務効率化を図る“守り”の分野が多い。今後はSFAやCRMといった“攻め”の分野も充実させていきたいと考えています」(安田さん)
また、サービス内容の拡大だけではなく、普及活動も活発にしていくという。
「J-SaaS」の普及活動を行なうのは、税理士、ITコーディネーター、中小企業診断士、地域ベンダー、販社社員など日頃中小企業にアドバイスをしている立場の、様々な職業からなる「普及指導員」と呼ばれる人たちだ。普及指導員は、特に資格などはなく、経産省が主催する講習に参加して必要な知識等を習得すればよい。現在全国に600人を超える普及指導員がいるが、最終的には1000人以上までサポーターを増やす計画だ。
また、地域ITベンダーや信用金庫などの地方金融機関などとも連携し、地域に密着した普及活動も考えられている。
プロジェクトは平成21年度も続き、終了後もシングルサインオンなどの基盤は残し、サービスは民間に移行して継続するという。