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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第58回

ライブドア事件とは何だったのか

2009年03月11日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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大事なのは「額に汗して働く」ことではない

著者:堀江貴文
出版社:集英社 価格:1000円
ニッポン放送買収時に敵対するSBIの北尾吉孝氏が、それ以前に堀江氏に共同ファンドを持ちかけたなんて当事者ならではの話も

 ライブドアの堀江貴文元社長が、ライブドア事件について書いた「徹底抗戦」(集英社)が出版された。特に新事実が書かれているわけではないが、これを読むと3年前のライブドア事件は何だったのかと考えさせられる。

 堀江元社長の主な起訴事実は、投資事業組合を利用した粉飾決算の53億円だ。これは金額でみると、日興コーディアル証券の189億円やカネボウの2150億円などに比べて特に大きいというわけでもない。他の粉飾決算事件は執行猶予がついており、ライブドア事件だけが実刑になったのはバランスを欠いている。

 ライブドア事件のあと、村上ファンドも摘発された。彼らが「虚業」だったという批判も強い。たしかにライブドアの収益の大部分は企業買収や金融取引で上がっており、本業のインターネット事業ではほとんど儲かっていなかった。村上ファンドの手法も、当初の「物言う投資家」から仕手筋のような相場操縦に傾いていったことは否めない。

 しかし企業買収は、企業価値を再評価することによって資本の配分を効率化するのだ。資本を浪費している企業を投資ファンドが安く買って高く売れば儲かるが、それによって資本が有効利用される。ライブドアや村上ファンドが資本市場を活性化したことによって経営者に緊張感が生まれ、資本効率を上げようという動きが出てきた。

 一連の事件は、東京地検特捜部の筋書きによって行なわれた「国策捜査」だという批判も強い。当時の特捜部長、大鶴基成氏は法務省のウェブサイトで次のように書いている。

額に汗して働いている人々や働こうにもリストラされて職を失っている人たち,法令を遵守して経済活動を行っている企業などが,出し抜かれ,不公正がまかり通る社会にしてはならないのです。

 ここには「額に汗して働く」ことが正しく、それを「出し抜く」行為は不公正だという倫理観がみられるが、これは時代錯誤である。資本主義の本質は、他人を出し抜くことなのだ。日本には、保有する預金の残高より時価総額の低い企業がたくさんあるが、こういう企業でいくら額に汗して働いても、収益は上がらない。いま日本の直面している問題は、いかに効率よく働くかなのだ。

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