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Aterm WR8200N ワイヤレスカードセット

Aterm WR8200N ワイヤレスカードセット

2006年12月04日 00時00分更新

文● 宇野 貴教

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早くも速度が頭打ちとなった無線LANに
新規格“IEEE 802.11n”が風穴を開ける

Aterm WR8200N
天頂部には3本のアンテナが設置され、2ストリームで通信することによりIEEE 802.11a/gの2倍以上の転送速度を実現する。

 Aterm WR8200Nの一番の特徴は、ブロードバンドルーターの上部から伸びた3本のアンテナによる高速な通信速度にある。ノートパソコンでは今や標準装備が当たり前になるほどポピュラーな存在となった無線LANだが、現在主流の規格は転送速度が高いものでもIEEE 802.11a/gの理論値最大54Mbps。実際の転送速度を調べてみると接続機器の組み合わせや電波干渉などの環境にもよるが実効速度は20Mbps前後に落ち着いてしまう。この速度しかでないようでは動画ファイルのような数GBの巨大ファイルをやりとりする場合、多少面倒でも有線LAN経由で行なうほうが利口というもの。

Aterm WL130NC
付属の子機「Aterm WL130NC」はCardBus対応のPCカード。カードスロットからはみ出す部分は大きく膨らんでいる。子機のみの単体販売も行なわれるので、ノートパソコンを複数台使っている方にはこちらも便利だろう。

 また、ケーブルTVや光(FTTH)といった高速通信はもちろん、最近ではADSLでも実効速度20Mbps以上が珍しくなくなったため、高速インターネットをフル活用する場面でも無線LANは力不足を感じるものである。かといって現状の無線通信規格でこれ以上の転送速度を得ようとしても、使用できる電波周波数帯の問題があってできないというのが実情だ。意外に思われるかもしれないが、既存の無線LANは早くも行き詰まっているのである。

 そこで今の使用周波数帯のままで速度向上を目指して策定されたのが“MIMO”(Multiple Input Multiple Output、空間分割多元接続)という技術だ。MIMOは「周波数帯は同じものを利用しながら、複数のアンテナで異なるデータを重ねて送受信する」という規格である。簡単に言うと、アンテナ1本で遅いのならば2本、3本といっぱい立てて同時並行で送れば速くなるというわけだ(合成ダイバーシティー効果)(※1)。MIMOでは2本のアンテナを使って送受信すれば速度は理論上2倍、3本なら3倍になるため大幅に速度向上が図れることになる。また、複数のアンテナで送受信して反射波も利用するため、より遠い場所へも安定して無線接続できるというメリットもある。

※1 従来からの“選択ダイバーシティー方式”という技術でも複数アンテナを利用しているが、これは複数のアンテナで受信して“より強い信号”のみを選択するという信頼性向上のための機能であり、速度向上が目的ではなかった。

側面と背面
Aterm WR8200Nの側面と背面。アンテナ3本を干渉させずに用いるため、奥行きは197mmと本体の高さより長くなっている。背面のLANコネクターはブロードバンドルーターとして一般的なWAN×1、LAN×4。正面右側に通信状態を示すLEDと“らくらくスタートボタン”がある。LEDは大きくて見やすい作りだ。

 このMIMOに加えて、そのほかの高速化技術を取り入れた新・無線LAN規格が“IEEE 802.11n”というわけだ。なお、IEEE 802.11nの正式な規格化は2007年以降の見込みであり、本製品では正式規格化前のドラフト版が元になっている(関連記事)。正式規格化されるまでは他社のIEEE 802.11nドラフト版との相互接続の動作保証は得られないものの、家庭内LANを少しでも速く、快適に使いたいというなら試してみる価値はあるだろう。

気になるIEEE 802.11nの実効速度は?

 本製品は親機(ルーター)、子機(PCカード)ともにアンテナを3本ずつ装備するが(子機の送信アンテナのみ2本)、ストリーム数(データ分割数)は“2”となっている。アンテナが1本余る形になるが、これをノイズなどによる電波信号の乱れを補正するために利用することで、より安定して障害物に強い無線通信を実現している。

付属品一式
親機の付属品はLANケーブルやACアダプターなど。設置スタンドは底面と側面の取り付けられるので、縦置きと壁掛けの両方に対応できる。

 これにより理論上IEEE 802.11a/gの2倍以上となる2ストリームMIMOで最高130Mbpsというが、購入時に気になるのは実効値ではどのくらい速くなるのかだ。今回は本機のLAN側に100BASE-TX接続のデスクトップパソコンをサーバーとして設置し、クライアントパソコンにはノートパソコン(Centrinoモバイルテクノロジ対応、超低電圧版Pentium M 753-1.20GHz搭載)を用いて、IEEE 802.11nドラフト版(WL130NC使用)とIEEE 802.11g(内蔵無線LAN使用)の転送速度比較を行なってみた。テストはWindowsファイル共有で約230MBの動画データの転送時間を計測した。なおデータ暗号化は、すべての無線接続でWPA-PSK(AES)を用いている。

表 230MBのMPEGファイルをFTPで転送するのにかかった時間
テストした組み合わせ実測値
IEEE 802.11nドラフト版同士48秒
IEEE 802.11nドラフト版→11g98秒
IEEE 802.11nドラフト版→11b219秒
(参考)他社製IEEE 802.11nドラフト版カードとの接続59秒

 結果はIEEE 802.11gの平均約19Mbpsに対し、IEEE 802.11nが平均約38Mbpsと、理論値通りに約2倍の結果となった。実際には単純に2倍に速度が向上するわけではなく、ストリームの分割・結合の処理時間が必要なはずなので、これらのタイムロスが実効値にほとんど現われないのは、かなり優秀と言えるだろう。また約38Mbpsという速度も、ADSLならば必要十分な帯域だし、光やケーブルTVなどの100Mbpsではまだ足りないとはいえ従来の無線LANからは大幅に向上しており許容範囲だと言える。無線LANの手軽さや便利さを感じながら、速度には不満があるというユーザーにも大いにお勧めできる速さである。

 なお、参考として他社から発売されているIEEE 802.11nドラフト版対応PCカード(送受信アンテナ3本タイプ)と、本機ルーターとの組み合わせでIEEE 802.11n通信を行なった際の速度は約31.2Mbpsであった。やや速度が落ちているものの、テストしたケースにおいては互換性の問題はなかった(ただし、メーカーも編集部も動作互換性を保証するものではない)。


 縦置きスタイルなので3本のアンテナが立っていても邪魔には感じず、設置場所も取らないのはありがたい。オンラインゲームや最近増えてきたネット対応AV機器との接続でも、DMZホストやUPnP、IPv6ブリッジなど家庭向けブロードバンドルーターに必要な機能は一通り備わっている。

 同社オンライン販売サイト“NEC Direct”での販売価格は2万9799円と、すでに低価格化が進んだIEEE 802.11a/b/g対応のルーター・子機セットからは1万円以上高くなるが、IEEE 802.11nは今後の普及が確実に見込まれる最新規格であり、速度面でもかなりの向上が見られたので価格には見合ったメリットが得られる。有線LAN側のインターフェースが100BASE-TXというのは、Gigabit Ethernet対応のパソコンが増えてきた現在ではやや不満が残るものの、それを除けば高速で快適な無線LAN環境が満喫できるはずだ。

Aterm WR8200Nの主なスペック
製品名 Aterm WR8200N
製品種類 無線LANブロードバンドルーター
無線LAN規格 IEEE 802.11nドラフト版、IEEE 802.11b/g
有線LAN規格 WAN側:10/100BASE-TX(Auto MDI-X対応)×1
LAN側:10/100BASE-TX(Auto MDI-X対応)×4
独自機能 Atheros XSPAN対応(IEEE 802.11nドラフト版を実現するAtheros独自機能)
セキュリティー WEP 64/128/152bit、WPA-PSK(TKIP/AES)
アンテナ ダイポールアンテナ3本(送信時3本、受信時3本使用)
電源 ACアダプター(付属)
消費電力 約8W(最大)
本体サイズ 41(W)×197(D)×174(H)mm
重さ 約420g
Aterm WL130NCの主なスペック
製品名 Aterm WL130NC
製品種類 無線LAN PCカードアダプター(CardBus対応)
無線LAN規格 IEEE 802.11nドラフト版、IEEE 802.11b/g
独自機能 Atheros XSPAN対応(IEEE 802.11nドラフト版を実現するAtheros独自機能)
セキュリティー WEP 64/128/152bit、WPA-PSK(TKIP/AES)
アンテナ 内蔵(受信時3本、送信時2本使用)
消費電力 約2.5W(最大)
本体サイズ 54(W)×12(D)×121(H)mm
重さ 約50g
対応OS Windows XP(SP2含む)、Windows 2000 Professional

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