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小型化もここまで進んだ! アセロス・コミュニケーションズが組み込み機器向けの無線LANチップを発表

2005年06月07日 18時37分更新

文● 編集部 小林久

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アセロス・コミュニケーションズ(株)は7日、モバイル機器や家電製品への組み込みを想定した無線LANプラットフォーム“ROCm”(Radio-on-Chip for Mobile)シリーズを発表。第1世代のチップとなる『AR6001X』と『AR6001G』を国内のプレス関係者に紹介した。

AR6001X
『AR6001X』の写真。中央がSDIOのリファレンスデザインで、基板上の最も大きなチップがBGA版のパッケージ、右の小さなチップがCSP版のパッケージとなる。無線LANチップの小型化の動向には、目を見張るものがある

AR6001XはIEEE 802.11a(5GHz帯)と11g(2.4GHz帯)に対応したデュアルバンド対応チップ。AR6001GはIEEE 802.11gのみに対応したシングルバンド対応チップ。パッケージはBGA(Ball Grid Array)とCSP(Chip Scale Package)の2種類が用意されている。

参考価格はデュアルバンド対応のBGA製品が12ドル(約1272円)。それ以外の製品の価格は示されなかったが、「価格差はチップ単体で1ドル(約106円)以下。システム全体で見ても3ドル(約318円)以下に収まる」という。現在サンプル出荷中で、2005年第3四半期の量産を予定。動作電圧やチップサイズ、プロセスルールなどの詳細な仕様は、現時点では未公開。



組み込み分野でもパフォーマンスリーダーを目指す



マクファーランド氏
米アセロス・コミュニケーションズ社最高技術責任者のウィリアム・マクファーランド氏

発表会では、米国本社のアセロス・コミュニケーションズから、最高技術責任者のウィリアム・マクファーランド(William J. McFarland)氏が来日し、組み込み向け無線LAN市場の現状とAR6000シリーズのメリットについて説明した。

米IDC社の調査によると、無線LAN市場の年平均成長率は約21%。家電やモバイル機器など新しい市場に限ってみると、75~95%の成長率が見込めるという。アセロスは“ROCm”の用途としてデジタルカメラやカムコーダー、ゲーム機などを想定しており、「パソコンの世界でパフォーマンスリーダーと呼ばれる、高速な転送速度をそのまま組み込み機器でも使える」点をメリットとして挙げた。

合わせて同氏は「無線LAN機器が増えるなか、実質3チャンネルしか使えない2.4GHz帯ではチャンネル不足が深刻化している」と説明。2.4GHzと5GHzの2つの周波数帯に対応したアセロスのチップであれば、「(日本の場合)11チャンネル(2.4GHz帯3チャンネル、5GHz帯8チャンネル)が同時に利用できる」「今後屋外向けに開放される11チャンネルを加えれば、20を超えるチャンネルが使える」などと述べ、5GHz帯の技術開発に先行しているアセロスの強みをアピールした。



市場動向 混雑状況
無線LAN市場の動向、今後はデジタルカメラなどの家電市場、携帯電話などのモバイル市場の大きな伸びが期待できる米国ニューヨークの45thストリートとAvenue of the Americasで調査したところ、50ものアクセスポイントが3つのチャンネルを共有していたという


必要な機能の大半を1チップで抵抗



ブロック図
AR6000シリーズのブロック図。RF、ベースバンド、MACはもちろんのこと、CPUやSDIOインターフェースなど周辺機能を高度に統合している

今回発表になったAR6001XとAR6001G(以下AR6000シリーズ)は、無線LAN機器の開発に必要な機能を1チップにまとめている点が特徴だ。無線LAN機能の核となるRF、ベースバンド、MAC(Media Access Controller)はもちろんのこと、通常は別のチップで提供される周辺デバイスの統合も積極的に進めている。

AR6000シリーズでは、802.11xのプロトコル処理を行なうCPUやプログラム保存用のROM、パワーマネージメントユニット、SDIO、SPI、シリアルなどの各種インターフェースに加え、LDO(電圧レギュレーター)も統合されており、「ほとんどチップを追加せずに、無線LAN機器を開発できる」という。

組み込み用途では、効率のよい電力管理が要求されるが、この部分に関しても複数のテクニックを使用しているという。特に注目したいのが、IEEE 802.11eのQoS(Quality of Service)標準オプションとなっている“APSD”(Automatic Power Save Delivery)を採用した点だ。



APSD
APSDの解説図。赤い線が従来のチップ、青い線がAPSDを利用した場合の消費電力の推移を示す。従来のチップでは、ダウンリンクを検出するために消費電力の高いListenモードで待機する必要があるが、APSDではその必要がなく、消費電力の極めて少ないスリープ時間を長く確保できるのが利点

これは、データ送信を要求する“上りのパケット”をスリープの復帰に利用することで、無線LAN機器のスリープ時間をより長く確保できる技術で、定期的にパケットが送信されるVoIP(Voice over IP)やストリーミングを利用する際に効果的だという。マクファーランド氏は「アセロスの無線LANチップは他社製品に比べて高速であるため、データの送受信に占有する時間が少なく、さらにスリープ時間を確保できる」と自信ものぞかせた。

AR6000シリーズでは、これ以外にも処理内容によってアナログ回路やRF回路を流れる電流を調整する“ダイナミック・バイアシング”や、デジタル回路のうち使わない領域の電源供給を細めに停止する“クロック・ゲーティング”など、チップレベルでの省電力化技術を搭載する。「802.11プロトコルを内蔵のプロセッサーで処理することでホストCPU負荷の軽減できるなど、統合化のメリットも出ている」という。

消費電力に関しては「計測中のため非公開」としたものの、電力効率は他社従来製品の6倍程度だという。マクファーランド氏は「VoIPでの通信時の消費電力は、Typical(標準)の値で送信時1.5W、受信時1W程度と言われる。AR6000は他社の半分から1/3程度の消費電力で、おそらく一番低電力なチップではないか」と述べた。

ただし、AR6001XとAR6001Gは第1世代製品のため、無線LAN高速化技術の“Super A/G”や無線距離延長技術の“eXtended Range(XR)”には対応しない。





家電機器でも簡単に実現できるセキュリティー機能



JumpSmart
JumpSmartによる認証の流れ。アクセスポイントと無線LAN子機のボタンをそれぞれ1回押すだけで、機器の認証と暗号化通信が行なえるようになる

家電機器への組み込みに当たって、アセロスがアピールしている機能にセキュリティー技術の“JumpStart for Wireless”がある。これは、アクセスポイントと無線LAN子機のボタンをそれぞれ1回ずつ押すだけで、公開鍵方式の暗号通信(“Diffie-Hallman鍵交換プロトコル”)が行なえるというもので、インターフェースが限定されるデジタルカメラやプリンター、携帯音楽プレーヤーなどでも簡単にセキュアーな通信が行なえるのが利点。JumpStartを利用するためには無線LAN子機だけでなく、アクセスポイントの対応も必要となる。

JumpStartは、他社製の無線LANチップで利用することが可能なほか、Windows XP標準の『Microsoft Zero Configuration』など、プロファイル管理ツールとの共存も可能だという。なお、JumpStartを国内で初めて採用したメーカーは(株)コレガで、5月下旬に発売された無線LANルーター4製品と無線LANアダプターで、JumpStartが採用されているという。



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