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【特別企画】インタビュー「IBMのLinuxへの取り組み」

2003年10月20日 00時00分更新

文● Linux magazine編集部

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 Linuxがエンタープライズ用途で実際に使われるようになって、ITビジネスはどのように変化しているのだろうか。今回は、実際にLinuxをビジネス面で積極的に採用した事業展開に取り組んでいる日本IBMに取材してその実態を聞いた。

 IBMにはLinux事業部があり、ハードウェアやソフトウェアに関係なくLinuxに特化してマーケティングから技術サポートまでLinuxに関わるすべての案件を統括して行っている。現在Linux専門の技術者がワールドワイドで8000人、うち1800人以上が、日本国内でハードウェアやソフトウェアに関するLinuxの技術的課題やサポートに従事している。これだけの人的資源を割いてLinuxを推進するIBMは、今後のITビジネスに対してどのような戦略を持っているのか。今回は日本IBMソフトウェア事業理事クロス・ブランド事業推進担当の安田誠氏にお話を伺った。

■IBMのソフトウェア戦略

 安田氏は、IBMがLinuxにこれだけの人材を配している第一の理由として市場でのオープンソースOSのニーズを挙げる。昨今、各国の政府系システムでオープンソースOSの採用が始まっている事実が一因にある。
 また最近その性能が著しく向上しているIAサーバに最適化したOSとしてWindows以外の選択肢としてLinuxが有力候補となっている点がある。
 そこでIBMでは、Linuxを他のOSと遜色のない製品としてユーザーに提供するためにLinux技術者を抱えたのである。
 一方でIBMのソフトウェアグループは、OSへの依存性を極力少なくしたソフトウェアの開発を行っている。どのOSで動かす場合も基幹部分は同じコードで動くように設計しており、OSによる違いは、できるだけコンパイラで吸収するようにしてあるという。IBMのような大規模ベンダーはどこも同じだが、Linuxに特化するのではなく、どのプラットフォームでもまったく同じ性能が出るソフトウェアをどう作るかという方向で設計する必要があるからだ。

■ITビジネスの市場

 現在IAサーバの高性能化に伴い、大規模企業でも事業所や支社の情報システムを数台のサーバで管理できてしまうという状況がある。しかし、IAサーバの高性能化が結局のところサーバ市場を含むITビジネス全体を縮小するのでは、ITビジネスの未来は見えてこない。IBMではITビジネスの未来をどう見ているのだろうか。
 安田氏は「確かにCPUベースで言うと、IAサーバの高性能化によりサーバ統合が進むという意味では、特にサービスをCPU単位で提供するビジネスは縮小するでしょう」と答えた。ただし、単に統合するばかりでなく、新たに付加するサービスに必要となるシステムで新たな収益を見込めるという。たとえば、企業の既存システムは、情報技術の進歩に伴って複数のアプリケーションが異なるプラットフォームで稼動している。これらの複数のシステム間のデータはプラットフォームが異なるために相互運用できなかったり、ユーザーが同じデータを複数のシステムに入力するなどの重複があったりする。また、時代に応じて変化するビジネススタイルについていけない古いシステムが業務効率を悪化させている場合などもある。このような、新旧含めた異機種混在環境を残しつつもユーザーには統合されたインターフェイスを提供し、バックエンドの複数システムのデータを効率良く相互運用するためのシステム構築が、今後のビジネスとして見込める部分だ。
 IBMでは、このビジネス統合のための3つの基本方針を掲げている。

1.フロントエンド・インテグレーション(ユーザーインタラクション)
 ポータルという考え方を前面に出し、バックエンドで動くさまざまなOS上で稼動する複数のアプリケーションを1つのインターフェイス上に統合する。
2.ビジネスプロセス・インテグレーション
 企業内・企業間の複数のシステムにまたがるCRMやERPなどをワークフローに沿って統合することでシステムに一貫性を持たせる。
3.インフォメーション・インテグレーション
 複数のアプリケーションで処理される情報を統合し、あたかも1つのアプリケーション上で動いているように情報を扱えるようにする。

 さらに、3つの基本方針に則ってIBMはミドルウェア製品をそろえている。それがWebSphere、DB2、Lotus Notes/Domino、Tivoli、Rationalの5つのソフトウェアブランドである。IBMでは、これらのミドルウェア製品を柔軟に組み合わせて、インフォメーション・インテグレーション、ビジネスプロセスの統合、フロントエンド統合を実現し、一貫性のあるサービスが提供できるシステムを提案していくという。
 もちろん、このようなシステムを運用するには、さらにシステム全体のハードウェアリソースやソフトウェアリソースの最適化といった管理も欠かせない。このような考え方にしたがってIBMが提唱するのがオートノミック・コンピューティングという概念だ。オートノミック・コンピューティングは、変動するユーザー要求に伴い、ハードウェアリソースやソフトウェアリソースを自動的に最適化する。IBMでは今回DB2 ICE(Integrated Cluster Environment)というデータベースクラスタシステムを発表したが、これもオートノミック・コンピューティングを目指した製品の一環であり、スケーラビリティと信頼性を実現している。

IBM WebSphere Studio。WebSphere StudioはJ2EEアプリケーションの統合開発環境を提供する。
DB2はIBMのデータベース関連ソフトウェアを代表する名前だ。IBM DB2 ICE(Integrated Cluster Envioronment)はデータベースエンジンとなるDB2 UDBとIBM eServer Linux Cluster 1350(325、xSeries、335、345、BladeServerなどを組み合わせたHPCクラスタ)を組み合わせて、ソフト、ハード、サービスを最適に統合できる。
Lotus Domino Web Accessのスクリーンショット。Lotus製品はWebブラウザで実装することによりOSに依存しない製品になっている
IBM Tivoli Business Systems Manager。Tivoliはオートノミックなシステムのパフォーマンス管理を実現するためのソフトウェア。
IBM Rational Test RealTime。 Rationalは、ソフトウェア開発の生産性と信頼性を向上するための環境を提供する。

■IBMが目指す情報化社会

 IBMのソフトウェア事業では現在「e-ビジネス・オン・デマンド」という概念を提唱している。現在のシステム構築は最大負荷に合わせて設計する。逆にいうと、想定外の負荷には耐えられないシステムだ。しかし、情報サービスが今後日常的なインフラとして機能するには予期せぬ負荷にも耐えるシステムが必要になる。インターネットで緊急時になるとニュースサイトや気象情報サイトが急激なアクセス増によって接続できなくなったり、情報を得るのに時間がかかったりという経験をした人は多いだろう。このように負荷がサービスに影響するようでは本格的な情報ビジネスにはならない。オンライン取引や、ネットでの株式売買といった1分1秒を争うような場面でも常に安定したサービスを提供するシステムが必要なのだ。
 IBMでは上述したオートノミック・コンピューティングという概念をベースに、さらに広汎にシステムリソースを仮想化して最適化できるグリッド・コンピューティングを模索している。このような技術によってもたらされる「e-ビジネス・オン・デマンド」は、単に1企業のシステムだけでなく、複数企業のシステム統合を視野に入れている。
 具体的にはIDC(Internet Data Center)などが同業他社と提携してグリッド環境を構築すれば、各IDCが持つ資産を無駄なく利用でき、ユーザーに対するサービスの品質を上げることも可能だ。また、このように複数の企業でグリッドを組むことで、比較的小さな企業であっても、連携して全体として巨大なシステムを構築することも可能になる。
 IBMではe-ビジネス・オン・デマンド時代のこのような巨大システムでハードウェアの中心となるのはブレード型IAサーバのようなものではないかと見ている。そしてIAサーバに最適化したOSとしてLinuxがこの分野で活躍する可能性は高い。

■IBMにおけるLinuxの位置づけとLinuxの未来

 IBMにおいてLinuxは、その選択肢の1つであることはすでに述べたが、それがLinuxにとってどんな意味を持つかについて最後に考えておきたい。IBMによるLinuxの正式サポートは、エンタープライズ用途でのLinuxの実力をIBMが認めたということにほかならない。
 この事実がLinuxの将来を示しているように思われる。Linuxの是非が問われるのはこれからだが、Linuxの特長の1つはソースコードが公開されている点にある。各IT企業がIBMのようにLinux専門技術者を擁しつつある現在、ハードウェアやソフトウェアのLinuxへの対応は他のどんなOSよりもスピーディに行われるだろう。事実最近発表されたAthlon 64チップへの対応はLinuxが最初だ。今後Linuxが何よりも強力なOSに育てあげられても何も不思議ではない。Linuxを特別扱いする必要はないのだ。

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