(株)アッカ・ネットワークスは9日、都内で報道関係者を集めて事業戦略説明会を開催した。坂田好男代表取締役社長から、具体的な事業計画についての言及はなかったが、法人向けサービスを充実させたいなどと述べた。また、距離・速度改善を狙った技術を開発中であることも明らかにした。
(株)アッカ・ネットワークスの坂田好男代表取締役社長(中央)と、同社に出資するとともに戦略的提携しているNTTコミュニケーションズ(株)の沖見勝也代表取締役副社長(左)と、三井物産(株)の伊澤吉幸取締役情報産業部本部長(右) |
アッカ・ネットワークスは2000年3月に設立、8月にNTTコミュニケーションズ(株)と米国のADSL事業者Cavad Communications社と戦略的提携を行なった。2001年1月に、ADSL通信回線(1.5Mbps)を“@nifty”(ニフティ(株))と“OCN”(NTTコミュニケーションズ)に提供し、商用サービスを開始した。その後“BIGLOBE”(日本電気(株))、“DION”(KDDI(株))、“So-net”(ソニーコミュニケーションネットワーク(株))などに提供を拡大し、2001年秋には8MbpsのADSLや企業向けのSDSL、ISP向けの光ファイバーのアクセスサービスを開始している。3月末現在のアッカ・ネットワークスのADSL回線利用者は36万2000(累計)。
アッカ・ネットワークスの累計ADSL回線数 |
アッカの強みは高品質ネットワークとオペレーション能力の高さにある
坂田社長は「アッカのビジネスモデルはISPに対するホールセールモデル。エンドユーザーに対してはISPのサービスと一体化して提供し、アッカは使用料金をISPから徴収する」とし、多数のISPに回線を提供する“規模の経済”と、マーケティング活動は各ISPにまかせることで、低価格でのサービス提供を可能にしたと述べた。また「昨年Yahoo! BBが参入したとき、xDSL事業者の戦いではなくISP間の戦いだと感じた」として、“Yahoo! BB対ISP対ケーブルインターネット事業者”という構図であり、アッカ・ネットワークスのライバルはYahoo! BBではなく、フレッツ・ADSLなどのADSL事業者だとしている。
坂田社長が示した“Yahoo! BB対ISP対ケーブルインターネット事業者”という構図 |
ホールセールモデルのADSL事業を展開するNTT東西地域会社やイー・アクセス(株)などほかのADSL事業者と比較した場合、「機器の価格やコロケーション(※1)の料金もほとんど変わらない。そうした中でのアッカの強みは、全国に展開した高品質なブロードバンドネットワークと業界最先端のOSS(オペレーションサポートシステム)だ」と述べ、(株)日経BPの“日経ネットナビ”によるADSL顧客満足度調査で2回連続で満足度1位になったことはその証だとした。
※1 コロケーション:電話交換局内に、ADSL機材を設置するためのスペースを提供することアッカ・ネットワークスが導入しているOSSは、戦略提携先である米Cavad Communicationsのシステムを日本の事情に合うようカスタマイズを加えたものだという。これまで同社が手がけた回線の月間最大数は2月の8万6000回線(開通分)で、書類の不備などで開通しなかったものまで含めると11~12万のオーダーを処理したことになり、その程度の数であれば問題なく対応できるシステムだという。電話回線の名義人がユーザーの申請と異なるなどの手続き上の問題がなければ、申し込んだユーザーの98.6%に対して7日以内に開通できると述べて、処理スピードにも自信を見せた。このOSSはさらにブラッシュアップして、現在1人のオペレーターが20件のオーダーを処理しているが、年内に40件処理できるようにするとしている。
日本、韓国、米国のADSLの料金水準グラフ |
ADSLサービスの価格については「下がる余地はあまりないのではないか。機器の値下がりなど余力がないわけではないが、競争は(価格より)サポートや品質になるのではないか。IP電話にしても、単に安い電話でなく、付加価値の付いたサービスが出てくる。魅力のある、お金の取れるサービスを手がけていきたいと考えている」という。また、光ファイバーによるFTTHサービスについては「現在パイロットサービスを行なっているが、料金や開通までの期間、提供エリアなどの課題があり、まだ本格的に提供するには至らない」と述べた。
アッカ・ネットワークスの中長期戦略の概要 |
今後の戦略に関しては、法人向けに提供している帯域保証サービスの強化、コンシューマー向けxDSLサービスでの品質・サポートの向上、光ファイバーや無線など多様化するアクセスへの対応、常時接続ブロードバンドネットワークをプラットフォームとしたVoIPやコンテンツサービス提供などを視野に入れていくと述べた。ただし、具体的なサービスの計画については、今はまだ話せる段階にないとして明らかにしなかった。
現在アッカ・ネットワークスのADSL回線数全体に占めるシェアは14.4%だが、単月契約件数で見ると1、2月は23.5%、29.8%とそれぞれトップとなっている。坂田社長は、総務省によるADSLの普及予測である481万回線のうち「25~30%を取っていけたらいい」と意欲を示した。
2001年12月末と2002年2月末における、ADSL回線の契約件数シェア |
2002年1月と2月の、単月ADSL回線契約件数シェア |
ADSLの速度・距離を改善する新技術を開発中
また、質疑応答の際には、Yahoo! BBが電話局からの距離や回線の品質などの問題で従来のADSLサービスが利用できないような回線状況のユーザー向けに提供を開始している、“Reach DSL”(※2)に対抗できる技術を、米GlobeSpan Virata社と開発中であることが明らかとなった。
※2 Reach(リーチ) DSL:Annex AやAnnex C(G.dmt、G.Lite)が最大で下り1.5~8Mbps、上り512k~1Mbpsのデータ通信速度を持つのに対して、通信速度を上り下りとも最大で960kbpsに抑える替わりに、通信可能距離を最大9km(理論値。従来型ADSLでは2~4km程度)までのばせるという技術。米パラダイン・ワールドワイド社が開発した。坂田社長はこの技術について「Annex Cの拡張版で距離特性と速度改善の両方を達成できるのではないかと考えている。電信電話技術委員会(※3)に提出して、標準として認めてもらって事業に導入したいと考えている。Reach DSLだと5.4kmで256kbpsぐらいを保証するというような言い方をされているが、我々が検討しているものでは、条件にもよるがすべての距離において速度を500kbps改善でき、距離も6kmぐらいまで伸びる」と説明した。ただし、提供時期や価格などについては明らかにしなかった。
※3 (社)電信電話技術委員会(TTC):電気通信全般に関する標準化と標準の普及を図ることを目的とする標準化機関。国内の第1種および第2種通信事業者、通信機器製造業者などが会員となっている。