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コンビニで買える“女性ウェブサイト発”の商品――Shes.net木内編集長に“勝ち組”のビジネスモデルを聞く

2002年03月27日 01時19分更新

文● 編集部 伊藤咲子

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今から2~3年前、会員による商品開発事業を特色とした女性向け情報ウェブサイトが雨後の筍のようにオープンした。しかし、今、そういった“女性ウェブサイト発”の商品を見たり触れたりすることはほとんどない。

そんな中、女性限定のインターネット無料接続サービス“Shes.net”ブランドのレトルトカレーとスープが、全国のスーパーやコンビニエンスストアで販売されている。商品を企画したのは“Shes.net”で、製造と販売はエスビー食品(株)。昨年8月にレトルトカレー『Shes.net きのことビーフのカレー(中辛・辛口)』(以下、Shes.カレー)を発売し、この2月、コラボレーションの第2弾としてレトルトスープ『Shes.net スープなのにサラダ19品目がぎっしり入ったトマトスープ』(以下、Shes.トマトスープ)と、『Shes.net スープなのにサラダ17品目がぎっしり入ったかぼちゃスープ』(以下、Shes.かぼちゃスープ)を発売した。希望小売価格は、Shes.スープが250円、Shes.カレーが200円と、他のレトルト食品と同じくらいの価格設定だ。

Shes.netブランドのレトルト食品は、12万以上というShes.netの無料プロバイダー会員を対象に、電子メールを使ったアンケートや、グループインタビュー、サンプルの試食などを経て、商品化されたものという(※1)。今回は、スープの発売を受けて、インターネット発の商品が消費者に受け入れられているのか、商品開発事業のビジネスモデルはどうなっているのか、Shes.net編集長の木内かおり氏と、Shes.netを運営するCSKネットワークシステムズ(株)Shes.net広告局マネージャの田中康氏に伺った。

※1 会員数は、2002年2月12日現在のもの。ちなみに年齢構成は20代後半~30代が約70%。職業は専業主婦が33%、OLが26%と主婦が多いのが特徴。

運営するコミュニティーウェブサイト
Shes.netは、“Shes.net”ブランドを用いた女性限定の会員制インターネット無料接続サービスを運営する一方で、女性を対象とした読み物を掲載するコミュニティーウェブサイト(写真)を運営している

●クライアントも納得、スープになだれ込んだ

[編集部] 昨年の夏、Shes.カレーの試食記事を書きまして、「インターネット発の新製品が生き残れるか?」と締めくくったのですが、第2弾が出たということは売れたのでしょうか?
[田中氏] 好調でした。生産個数は公表できないのですが、2001年9月期の“2001年夏に発売されたレトルトカレー”の第4位にランクインしました(※2)。今でも、スーパーやコンビニの店頭に並んでいますよ。
※2 データは大手スーパー45店舗の9月度POSデータの集計によるもの。調査はCSKネットワークシステムズ。

[木内氏] “10万人の女性の声でできたカレー”という商品コンセプトが、小売店のバイヤーに気に入っていただけまして。なんでも、写真と文章だけで商品の味を伝えられるポップを作るというのはなかなか難しいのだそうですが、Shes.カレーはそのコンセプトがあったので、アピールしやすかったと聞いています。
[編集部] 次はスープでいこうと、S&Bから提案があったのですか?
[田中氏] 基本的にはこういうものを作っていこうとこちらで決めて、企業に提案しています。しかし今回の場合は、カレーが(S&Bに)大好評で、そのままスープの企画になだれ込んだというのが実際でしょうか。昨年の8月にShes.カレーを発売して、その後すぐ、8月のうちにスープの話が出て――実際に着手したのは、10月前半でした。

●レトルトスープの市場を作りたい

[編集部] レトルトシチューはともかく、液体タイプの即席スープというのはあまり見かけないですよね。レトルトスープの市場というのはあるのでしょうか?
[田中氏] レトルトスープというのは、今あまりないらしいです。即席スープ市場では、カップにお湯を注ぐ粉末タイプが一番シェアをとっていますし。クライアントの希望もありまして、今回は既存の市場に参入するというよりも、こういう液体スープの市場を作ろうと狙っています。
[木内氏] Shes.カレーは、主婦の“個食”(1人で食べる食事)がテーマだったのですが、今回のスープは働く女性です。例えば、会社から帰ってきて空腹なんだけれども、ご飯をドカっと食べると太っちゃうから手軽に済ませたいとか、共働きで炊事は交代制なんだけれど今日はどちらも忙しくて――とか。
[田中氏] ご飯はいらないという女性が増えているそうなんですよ。米じゃなくて、おかずが充実しているほうがうれしい。カロリーが抑え目めで、健康にいい野菜が多く使われている商品が好まれているようです。
[木内氏] 具材には、例えば豆類とか、女性が「ん!」と思うようなものをふんだんに入れました。Shes.トマトスープには、ブルーベリーも入っているんですよ。
Shes.トマトスープと、Shesかぼちゃスープの外観デザイン
Shes.トマトスープ(左)と、Shesかぼちゃスープの外観デザイン(右)。レトルトパウチの右下に、赤字で「牛エキス不使用」と書かれている

●ウェブサイトのカラーを考えると食料品が合っている

[編集部] カレー、スープと単価が低い食料品の企画が続きましたが、他の女性向けウェブ媒体の読者参加の企画というと、だいたい衣料品ですよね。
[木内氏] ブラウスや指輪を作る企画は他の女性向けウェブサイトで見かけましたが、食料品はあまりやらないですよね。糸井重里さんの“ほぼ日刊イトイ新聞”で、カップラーメンを作っていましたが。Shes.netの場合は、読者に主婦層が多いということと、独身でも25歳以上の方が多いので、ウェブサイトのカラーを考えると食料品が合っている気がするんですよ。

あと、食料品は単価が安いし、スーパーに行けば気軽に買える。身近な製品だから、読者から意見も出やすいし、吸い上げやすいし、商品化しやすいし。指輪だったら、そうはいかないですよね。カレーとスープを作ってそう思いました。
Shes.netの木内編集長Shes.netの木内編集長。手にしているのは、リコーエレメックスとShes.netで企画した女性用腕時計『shesshes(シーズシーズ)』。Shes.netが企画に参加した商品は、カレー、スープと、この腕時計の3つ。2001年12月5日発売で価格は2万5000円。フォーマルでもカジュアルでも使えるよう、革バンドが交換できるデザインになっている。ウェブ通販では、バンドをブラック、レッドなどから2本選べた(現在は終了)
[編集部] 食料品以外では、昨年末にリコーエレメックス(株)と腕時計を企画されましたが、反応はどうでしたでしょうか?
[木内氏] ウェブと実店舗で発売したのですが、予定数はウェブ販売で売りきってしまいまして、こちらも好評でした。
[編集部] アクティブな会員が多いのであれば、Shes.netのブランドを生かして製品を売るような、通信販売サービスは行なわないのですか?
[田中氏] うーん。やってみたいという希望はあります。しかし、在庫など考えなければなければならない要素がありまして、まだまだ先の話ですね。
Shes.トマトスープの盛り付け例
Shes.トマトスープの盛り付け例。玉ねぎ、トマト、にんじん、セロリ、ひよこ豆、赤いんげん豆、ブルーべリーなど19品の素材が入っている。豆の形がしっかり残っている

●CSKネットのマーケティングサービスの1ツールという位置付け

[編集部] クライアント企業とどのような契約を結ぶのでしょうか? 収入のモデルを教えてください。
[田中氏] 単価や商品によって異なるのですが、基本的には、クライアントにマーケティング費用をご負担いただいて、あとは商品を作ったぶんだけ“Shes.net”ブランドのロイヤリティーをいただいております。
[編集部] Shes.netのインターネット無料接続サービス会員に対して、希望者には有料の接続サービスも提供していますが、Shes.net全体を見た場合、どの事業がビジネスの中核になっているのでしょうか?(※3)
[田中氏] 有料サービスは、無料会員向けのオプション程度に考えていなくて、消費財メーカー向けマーケティングサービスのほうが大きいですね。

もともとCSKネットでは、消費財メーカーに、全国2500店舗の小売店によるPOSデータ情報の販売したり、CSKネットでの“実験店舗”を利用した店頭マーケティングサービスなどを提供していまして。Shes.netの会員データベースを使った消費者調査も、マーケティング総合サービスの1ツールとして運営しています。

カレーやスープのように“Shes.net”ブランドの商品として世に出る企画もありますが、自社商品の満足度調査など、実際、裏方としてのサービスが多いですね。クライアントは、化粧品や食材、アパレルなど多岐にわたっています。
※3 有料の接続サービスは、22時45分から翌6時までの間、5分間あたり5円で接続できるというもの。Shes.netのインターネット無料接続サービスは接続できる時間帯が毎日6時から22時45分までと決められており、22時45分を過ぎると自動切断される。

[編集部] ウェブサイトのページビューは、現在どのくらいですか? バナーなどの広告による収入はどのようになっているのでしょうか?
[田中氏] ページビューは、全体で月間200万くらいです。
[木内氏] バナー広告による収入は、全体から見ると、もうほとんど収益モデルではないと言い切っていいですね。メールマガジンに掲載するテキスト広告はまだ元気がありますが。ウェブに広告を掲載する場合は、記事を作って見せたほうが効果が高いですね。Shes.net会員の写真をコメントが付きで載せたりするのですが、会員に喜ばれています。
[編集部] ありがとうございました。
Shes.かぼちゃスープの盛り付け例
Shes.かぼちゃスープの盛り付け例。かぼちゃ、さつまいも、玉ねぎ、にんじん、ひよこ豆、うずら豆など17品の素材が入っている。「女性はかぼちゃやさつまいもが好きな人が多いので、こちらのほうが売れるのではないか」(木内編集長)

Shes.netの商品企画事業は、単なる女性向けウェブ媒体の1事業ではない。Shes.net自体が、約300社のクライアントを抱える総合マーケティング事業の1ツールとして、運営されているのだ。

さて、食料品の企画の次はどうなるか気になるところだが、木内編集長によれば、次回の企画も「“口に入る系”の商品」という。“食料品”ではなく“口に入る系”と微妙な表現を使ったところに、次期企画のヒントがあるようだ。

(3月20日、CSKネット本社にて)

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