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【MACWORLD/NY 2001 Vol.6】基調講演詳報その3──噂に飲まれ、インパクトが弱かったハードウェアの発表

2001年07月24日 11時16分更新

文● 林 信行

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スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)CEOの基調講演といえば、なんといっても一番、期待が集まるのは新ハードの発表だ。今回のMACWORLD/NYでは、液晶型iMacに始まり、多くの新ハードウェアが発表されると期待されていた。

いつもに比べると迫力にやや欠けたジョブズ氏の基調講演
いつもに比べると迫力にやや欠けたジョブズ氏の基調講演

実際、ジョブズ氏の講演で新機種は発表された。『iMac』のCPU速度が仕様変更されたのに加えて、『Power Mac G4』は完全なモデルチェンジとなった。これまで1モデルでしか選択できなかった“SuperDrive”(DVD-R/CD-RWのコンボドライブ)も2モデルで選べるようになった。これはこれで凄いことなのだが、来場者の反応は今ひとつだった。

Cubeの生産中止で、ジョブズの講演に懐かしい4つのマトリクスが復活した。今回の講演ではこのマトリクスの上段が新製品で塗り替えられた
Cubeの生産中止で、ジョブズの講演に懐かしい4つのマトリクスが復活した。今回の講演ではこのマトリクスの上段が新製品で塗り替えられた

Mac OS Xの紹介を終えたジョブズは画面上に見慣れた4つのマトリクスを表示した。昨年、このマトリクスの真ん中にPower Mac G4 Cubeが加えられたが、同機は売り上げ不振により講演の2週間前に生産中止が発表されている。壇上のジョブズ氏にとってもこれは既に精算済みのことだったようだ。

今やアップル全製品でデジタルハブであることは必須条件だ。もっとも小さくて軽いiBookも、デジタルハブとして十分な役目を果たす
今やアップル全製品でデジタルハブであることは必須条件だ。もっとも小さくて軽いiBookも、デジタルハブとして十分な役目を果たす
iBookは前四半期の半ばで発表されたにもかかわらず、四半期中18万2000台を出荷するアップル史上でもっとも売れたノート製品になった
iBookは前四半期の半ばで発表されたにもかかわらず、四半期中18万2000台を出荷するアップル史上でもっとも売れたノート製品になった

今回、ジョブズ氏はマトリクスの下段、つまりノート型製品の話から切り出した。まずは『iBook』。この5月に発表された真っ白な小型のノート型機は世界的に爆発的な人気を呼び、前四半期だけでも18万2000台を売り上げた(といっても四半期が始まって1ヵ月目で発表したので、実質2ヵ月だけでこれだけの台数を売り上げたことになる)。ジョブズ氏はMac雑誌だけでなく、一般のメディアも同機を絶賛していることを、記事の引用を使って紹介した。次にボディー素材にチタニウムを採用した『PowerBook G4』も、「もし、孤島に1台だけパソコンを持っていくなら、これを選ぶべき」というボストングローブ紙の記事など、いくつかの記事を引用して紹介した。

今回、モデルチェンジが噂されていたPowerBook G4は簡単に雑誌の批評などを紹介するだけですまされてしまった。ただし、同機購入者にCD-RWをプレゼントするキャンペーンはアメリカだけでなく世界中で実施されることになった
今回、モデルチェンジが噂されていたPowerBook G4は簡単に雑誌の批評などを紹介するだけですまされてしまった。ただし、同機購入者にCD-RWをプレゼントするキャンペーンはアメリカだけでなく世界中で実施されることになった

続いて『iMac』の発表に移った。今回、講演前に液晶型iMacの噂が流れていたため(筆者もそれに加担したことになる)、巨大スクリーンのiMacがハイライトされると聴衆の熱狂は頂点に達した。ジョブズ氏はもったいをつけるようにして、新iMacが3モデルあることに始まって、CPUのスピードがそれぞれ500、600、700MHzであることを文字だけのスライドで紹介した。だが、続いて「色は……」といって紹介され、スクリーンに映し出されたiMacは見慣れた形のものだった。

話の矛先がiMacにうつると場内はざわつき始め、ジョブズが3つの新モデルを発表すると語ると場内は歓声が溢れかえった
話の矛先がiMacにうつると場内はざわつき始め、ジョブズが3つの新モデルを発表すると語ると場内は歓声が溢れかえった

日本で人気のスノー(白色)モデルが基調色となり、一番下の500MHzモデルでは、インディゴ(青)とスノー(白)の2モデル、600MHzと700MHzのモデルではスノーとグラファイトの2モデルという構成。ルビー(赤)や柄物のような派手な特徴的なモデルはない。一番上のモデルは“Special edition”と呼ばれているが、ただCPUが速く、HDDの容量が大きいだけで真ん中のモデルとの差は小さい。ジョブズ氏の新iMacの紹介もさらっとしたもので、新色が出なかったことから壇上でのお披露目もなかった(実際、壇上にiMacは1台も登場しなかった)。

最新iMac 3モデルの仕様。これでiMacは全モデルともCD-RWが標準となった
最新iMac 3モデルの仕様。これでiMacは全モデルともCD-RWが標準となった

iMacを軽く流した分、ジョブズ氏は残りの講演時間を今回のハードウェア新製品の目玉である第2世代『Power Mac G4』、通称、“QuickSilver"の紹介に費やした。

ジョブズは第2世代Power Mac G4を発表。初代Power Mac G4でGFLOPSの壁を破ったのは2年前の秋だが、今回、発表した新型の最上位モデルは11.8GFLOPSを達成
ジョブズは第2世代Power Mac G4を発表。初代Power Mac G4でGFLOPSの壁を破ったのは2年前の秋だが、今回、発表した新型の最上位モデルは11.8GFLOPSを達成

これまでPower Mac G4で最高速だった733MHzのCPUを最下位モデルで採用し、過去最高の867MHzのCPUも搭載。しかも、デュアルCPU構成も復活させた。話題のSuperDriveを最上位モデルだけでなく真ん中のモデルでも採用したことも注目に値する。システムバスは133MHzで、拡張スロットは5本、AGPは4X対応で、FireWireと3つの内蔵ドライブベイ、そしてGbit Ethernetを標準で備える。数々のデザイン賞を受賞した拡張しやすい筐体の基本デザインはそのままに、フロントパネルをすっきりとした銀色のパネルで置き換えたQuickSilverだが、果たして本当に速いのか。

CPU構成はご覧の通りで、最上位モデルにはデュアル構成が復活している
CPU構成はご覧の通りで、最上位モデルにはデュアル構成が復活している
3モデルのうち上位2モデルでスーパードライブを採用。これでiDVDの楽しみも広がる!?
3モデルのうち上位2モデルでスーパードライブを採用。これでiDVDの楽しみも広がる!?

ジョブズ氏は、お決まりのパターンで、フィル・シラーワールドワイドセールス担当副社長を壇上に招き、Pentium 4の1.7GHzとPowerPC G4 867MHzとのスピード比較のデモを行なった。今回はまず『Cleaner 5』という圧縮ソフトを使って行なわれた。スパイダーマンの映画予告編を圧縮するというものだが、Power Mac G4の方が確かに倍ほど速く処理を終了した。

ジョブズの講演ではお決まりのPowerPC G4対Pentium 4のスピード対決
ジョブズの講演ではお決まりのPowerPC G4対Pentium 4のスピード対決
スピード対決のデモでなぜか必ず登場するワールドワイドセールス担当のフィル・シラー副社長(右)
スピード対決のデモでなぜか必ず登場するワールドワイドセールス担当のフィル・シラー副社長(右)

続くPhotoshopを使ったデモでも、PowerPC G4のスピードが倍近く速く処理を終えた。いつもの基調講演ではこれだけで終わってしまうのだが、今回のジョブズはCPUのスピードはMHzではなくCPUそのもののデザインで決まるということを力強く訴え、これまであまり基調講演に姿を出したことのないハードウェアエンジニアリング担当副社長のジョン・ルービンスタイン氏を壇上に招き、さまざまなCPUの構造の違いを紹介させた。

Cleanerを使ったムービー圧縮のデモではPowerPC G4がPentium 4の圧縮速度を大きく引き離した
Cleanerを使ったムービー圧縮のデモではPowerPC G4がPentium 4の圧縮速度を大きく引き離した。「あまり見慣れていないかも知れないが、これは放送業界やストリーミング業界では毎日のように行われている作業だ。実際、今、この瞬間も世界中で多くのコンテンツ制作者がこの圧縮作業をしているはず」とジョブズ氏。Power PC G4でも結構時間がかかるのが待ちきれず「彼らが速いマシンを求める気持ちはわからないでもない」とジョークを飛ばした
ジョブズの講演には必ずつきものの米PIXAR社の映画、今年公開の“モンスター, Inc.”のポスターをPhotoshopのスクリプトで描画
ジョブズの講演には必ずつきものの米PIXAR社の映画、今年公開の“モンスター, Inc.”のポスターをPhotoshopのスクリプトで描画、PowerPC G4の処理が終わった後も、Pentium 4の処理がなかなか終わらないため途中で待つのをやめてしまった

話の中心は、CPU内のパイプラインの段数を増やす(処理を細分化すれば)動作周波数を上げやすくなるが、その分、処理が無駄に終わることもあるという“パイプラインTAX”に焦点を絞った内容で、パイプラインが7段のPowerPC G4は非常にバランスがいいが、20段のPentium 4は多すぎ、話題のItaniumにしてもやや多いという批判を込めた解説になった。

珍しく壇上に登場したアップル社ハードウェアエンジニアリング担当副社長のジョン・ルービンスタイン氏
珍しく壇上に登場したアップル社ハードウェアエンジニアリング担当副社長のジョン・ルービンスタイン氏
ジョンスービンスタイン氏はPowerPC G4、Pentium 4、Itanium、UltraSPARC IIIの4種類のCPUを比較
ジョンスービンスタイン氏はPowerPC G4、Pentium 4、Itanium、UltraSPARC IIIの4種類のCPUを比較し、それぞれ0.18ミクロンの同世代のプロセッサーでありながらPowerPC G4は圧倒的に小さく効率がいいことをアピール
きれいなアニメーションを使ってパイプライン処理の秘密を紹介
きれいなアニメーションを使ってパイプライン処理の秘密を紹介。パイプラインが長すぎると最初の処理が終わるまでに時間がかかる
パイプラインが長いと分岐処理などが起きた時にも処理に遅延が生じる
パイプラインが長いと分岐処理などが起きた時にも処理に遅延が生じる。ルービンスタインはこれを“パイプラインTAX(税金)”と呼んだ
アップルはPowerPC G4はMHz値から期待される以上の性能を発揮するプロセッサーであることを強調した
アップルはPowerPC G4はMHz値から期待される以上の性能を発揮するプロセッサーであることを強調した

ジョブズ氏は講演の最後を『iDVD2』の紹介に費やした。Mac OS X専用となるパーソナルDVD作成ソフトは、これまで90分だった動画記録時間を90分に延ばし、メニュー画面での動画の利用などにも対応、さらに今回発表された800MHz CPUを2個搭載したPower Mac G4最上位モデルなら動画再生時間と同じ時間(等速)でMPEG-2圧縮が可能だ。

講演の最後は、アップル社が提案する新しいデジタルライフスタイル、iDVDの紹介に費やされた
講演の最後は、アップル社が提案する新しいデジタルライフスタイル、iDVDの紹介に費やされた。「アートとテクノロジーの接点ともいえるこのソフトこそアップルの精神を体現している」とジョブズ氏

ジョブズ氏は「アートとテクノロジーの接点にあるiDVDこそ、アップルの存在意義を象徴するようなソフト」と講演を締めくくった。

iDVD2ではメニュー画面で動画が使えるようになった他、背景を動画にしたり、BGMを加えたりもできる。この画面では背景にある地球が回転し続けている
iDVD2ではメニュー画面で動画が使えるようになった他、背景を動画にしたり、BGMを加えたりもできる。この画面では背景にある地球が回転し続けている

場内は喝采で幕を閉じたが、来場者には“肩すかし”だ、などのネガティブな反応も多く聞かれた。1つには一番期待されていた液晶型iMacが出なかったことがあるのだろう。また、Power Mac G4がハイエンドのプロ用製品だからということもあるのだろう。しかし、それに加えてジョブズの演出が今ひとつ光っていなかったということもあると思う。

いつもは新製品をベールで覆い隠し、大胆な演出で披露するジョブズ氏だが、今回は無神経にも、講演が始まる前から新筐体のPower Mac G4が壇上に置かれていた──つまり、望遠レンズで壇上をチェックしていた人は開演前から新Power Mac G4の発表がわかっていたのだ。

“現実湾曲空間”とまで呼ばれる、ジョブズ氏の人をズリズリ引き込んでいくトークも今回はいつもほどの強さを保っていなかった。何度かデモがうまくいかずつっかえたこともあったが、あのジョブズが口ごもり、「昨日は3時間しか寝ていないから」と言い訳をする場面すらあった。

確かに先行した噂のせいでかなりインパクトの薄い講演になってしまったが、それもMac OS X 10.1を立たせるための演出なのかも知れない。

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