24日(土)、日本では年に1度のMacの祭典、MACWORLD EXPO/TOKYOが閉幕した。主催者の発表による今年の来場者は18万810人、昨年の18万2688人をわずかに下回るように見えるが、昨年のイベントが4日間だったのに対して、今年のイベントは3日、つまり1日あたりの来場者は今年のほうが多いことになる。
確かに最終日のアップルブースにはすごい人だかりができていた |
だが「MACWORLD EXPO/TOKYOは盛況だったか?」と聞かれると首を傾げずにはいられない。基調講演のあった初日と土曜日であった最終日の場内は確かに混雑していたが、中日、23日の場内はガラガラでブースとブースの間の通路の広さばかりが強調された(不思議なことにIDGジャパン(株)の公式発表では22日の来場者は5万2313名、23日が5万2972名、24日が5万9370名となっており、23日の方が初日より多い)。
「今日は寂しいですね。こんなものですか?」という会話があちらこちらで聞かれ、今年初めてMACWORLD EXPOに来たという知り合いは“寂しいイベント”というコメントを残した。物品を販売しているブースでも、今年は大幅に売り上げが減ったともらすところが多い。
人が少なかったのは会場だけではない。会期中にはMac OS X関係をはじめとして、話題の製品、技術に関するものなど多数のワークショップが開催されたが、長蛇の列をつくったエイリアス・ウェーブフロント(株)のMayaのワークショップでさえ、空席がたくさんある状態だった。
Mayaのワークショップには長蛇の列ができていたが、中に入ると意外にもガラガラ |
気になる目玉製品の不在
少なく感じたのは来場者だけではない。(株)ジャストシステムや(株)エルゴソフトといったベストセラー製品を持つ大手が、イベント直前に新製品を発表していながらも、出展していなかったのも今回のEXPOの特徴だろう(昨年からその傾向はあったが)。今回のExpoで発表され、話題をさらった米NVIDIA社のGeForce 3も、垂れ幕だけでの参加である。
昨年くらいまではMACWORLD EXPOの花だった、デジタルカメラ関係の展示がほとんどなかった(デジタルカメラの展示を中心にしていたのは三洋電機(株)くらいで、特に海外のメディアからはQuickTime対応デジカメとして注目されていたようだった)。
はたしてMac市場はそこまで冷え込んでしまったのかといえば決してそんなことはない。特に米国で開催されるMACWORLD EXPOは、スティーブ・ジョブズが暫定CEOに就任して以来、回を追うごとに活気が増している(一番、活気がなかったのが'96年のボストンで開かれた最後のMACWORLD EXPOだった。アップルがマイクロソフトから戦略的投資を受けたニュースが流れた、例のExpoで、この時は出展社も激減しており、場内は休憩スペースだらけでがらがら。ほとんど人にぶつかることなく会場をゆったりと歩くことができた。筆者は今年のMACWORLD EXPO/TOKYO 2日目夕方頃の場内を見て、このMACWORLD EXPO/BOSTON '96を思い出してしまった)。もちろん、日本のMac市場も冷え込んではいない。事実、今回も会場周辺のホテルでは、場内に出展しなかった企業も含めて、多くのメーカーが、記者会見や製品説明会、商談などを行なっていた。
原因は“Mac OS X”!?
あるメーカーの広報担当者はこんなことを話していた。「Mac OS Xの発売は来月で、自社製品もMac OS X対応に向けて開発を進めているが、現段階では開発に必要な情報などが足りない。おまけにMac OS X製品版の仕様もいまだ本当に固まっているのか疑わしい。メーカーにせいぜいできるのはMac OS X Public Beta対応で、ブースで来場者からMac OS X対応関係の質問をされてもなんとも答えようがない」。
出展していた別のメーカーの人からは、それを裏付けるように、Mac OS X関連の質問責めに会いなんとも困ったということを聞いた。いくつものメーカーに話を聞いたわけではなく、いずれもたまたま聞いた話なので、すべてのメーカーがそうだとは言えないが、Mac OS X発売直前というタイミングの悪さも、今回の“盛り下がり”に一役買っていたようだ。
これまでのアップルなら、新製品発売や新技術投入前のExpoは、それを盛り上げる場になるはずだ。前もって入念に開発者達と打ち合わせをし、リリース予定の新技術の最新バージョンを早期に提供して、アップルブース側でもサードパーティー製品を大々的に宣伝する。事実、今年1月のMACWORLD EXPO/SAN FRANCISCOでは、アップル社とMac OS X対応製品を出すサードパーティーとの間の密な連携を垣間見ることができたが、残念ながら今回、日本のサードパーティーとの間では、サンフランシスコの時ほど密な関係を聞くことはできなかった。
出展社は元気いっぱい
もっとも、だからといって日本のMac系サードパーティーにやる気がないわけではない。(株)ピクセラのブースでは、同社のテレビチューナー製品と一緒に使うソフトウェアMPEG-2デコーダー、『PixeCinema』が参考出品されていた。アップル社がQuickTimeでいずれMPEG-2のデコードをサポートすると表明しているにも関わらず、あえてそれを作ってしまう元気さは大いに評価したい。
ピクセラのMPEG-2プレーヤーソフト、『PixeCinema』。同社のMPEG-1/2対応動画入力アダプターと連動してMac版では再生できないMPEG-2動画を再生する。出荷時期、価格などは未定。 |
マイクロソフトも元気だった。同社はこのExpoにあわせて、日本市場専用の製品、『Office 2001 for Mac Personal』を発表している。実売価格5万円前後の『Office 2001 for Mac』から、『PowerPoint 2001』を取り除いた製品で実売価格は2万円前後。ただし、新規にiMac/iBookを購入した人だけを対象にした製品で、アップルストアやiMac/iBook販売店でこれらのハードの購入時に一緒に購入するのが条件(7月31日まで)で、パッケージの単体販売はない。
マイクロソフトのブースでは、Office 2001 for Mac以外にも夏頃に登場予定のMac版『Outlook』が展示されていた |
こちらも夏頃登場予定の『Windows Media Player for Mac 7』 |
参考出品の『Trackball Explorer』 |
ところで、アップルがたくさんの新製品発表を行なったことも、今回のExpoの特徴だ。今回のExpoで大勢の人が話題にしたのはiMacの新色(新柄?)“Flower Power”と“Blue Dalmatian”の印象だろう。
新しい柄付きiMacへの感想は、日本人、外人を問わず否定的なものが多いが、筆者が会期中に話をした人達の中でも約2~3割くらいの割合で「Blue Dalmatianはいい」とする人がいた。また約1割くらいの人はFlower Powerに好印象を持っていたようだ。
ただし、Power Mac G4 Cubeは、大きな値下げや大幅な仕様変更をしたにも関わらず、それほど話題に上らないのが気になった。一方、アップルのブースでは、このExpoではなく、1月のMACWORLD EXPO/SAN FRANCISOで発表したPowerBook G4の展示が圧倒的な人気を誇っていた。早くも登場し始めたPowerBook G4用アクセサリーも今回のExpoの目玉の1つになっていた。ノートパソコンの動作熱を冷やす“静冷台”シリーズでお馴染みのアイディ・イーストエンド((有)三恵精機製作所)は現在、開発中の『静冷台4G4』を参考出品していた。これまでのソリッドで安定感のあるデザインとはうってかわって、非常に強烈な個性を放つデザインになりそうだ。
PowerBook G4用の『静冷台4G4』 |
Apple Studio DisplayとApple Pro Speakerをバランスよく配置し、キーボード収納スペースをつくる『Arch 43』 |
静かで頑丈な動作を目指す2.5インチHDDケース『Fi-Ve 2.5』 |
アップルの21世紀はMac OS Xをリリースしてから
アップルの昨年の人気製品不足や販売不振などはいずれもMac OS Xの出荷の遅れが原因と言われている(現にMac OS X用のFinder、Finder Xのコード名は“Millennium”で、これはいうまでもなく2000年を出荷目標にしていたからだ)。
スティーブ・ジョブズも赤字転落した2001年度第1四半期(2000年10~12月期)の中間報告で、Mac OS Xを出荷しないことには、製品の売り上げを回復することはできないとの見解を示している。今回のMACWORLD EXPO/TOKYOは、そうした意味ではタイミングが悪かった。これが4月以降に開催されていれば、もう少し盛り上がったのかも知れない(とはいえ、Mac OS X正式版リリースのわずか1ヵ月前なのだから、もう少しMac OS Xで盛り上げてほしかったというのも、正直な感想だ)。
今月24日、Mac OS Xが無事リリース(パッケージ版のみ。Macのプレインストールモデルは7月以降)されたとしても、その最初のバージョンは多くのユーザーにとってあまり実用にならない(あるいはメリットが感じられない)かも知れない。だが、Mac OS X対応製品が徐々に増え、Mac OS Xを意識したMacの新製品が発表されるようになれば(1号機はiBookか?)状況は少しずつ変わってくるかもしれない。
新柄iMacポスターの前で記念撮影をする親子 |
今年のWorld PC Expo(9月19~22日、東京ビッグサイト。主催:(株)日経BP)ではアップル関係の展示が再び元気を取り戻していることに期待したい。