9日11時、アップルコンピュータ(株)は東京・南青山のイベントホールに報道関係者を集めiBook新モデルの国内正式発表会を行なった。新iBookは既に5月2日(※1)から、ウェブページでの情報公開や、アップルストアを通しての製品受注も始まっているが、今回の発表会では製品の発売開始日(5月25日)の発表や同製品が提案するライフスタイルの紹介、そして同社の新しいサービス&サポート体制の紹介が中心となった。
※1 新iBookは米国では5月1日(現地時間)、米アップル本社内のホールで、同社CEOのスティーブ・ジョブズ氏によって発表されており、その時の様子はQuickTimeを使って視聴することが可能だ[http://www.apple.com/quicktime/qtv/ibook_intro/]。アップルコンピュータの原田永幸代表取締役社長 |
2001会計年度後半は売り上げ4割増が目標
発表会ではまず同社、代表取締役社長の原田永幸氏が登壇し、2001年度前半の業績を振り返った。
この期間、世界的なパソコン市場売り上げ不振の影響を受け、アップルの収益も鈍かった。2001会計年度第1四半期(2000年10~12月期)のアップル全体の売り上げは10億ドル(約1217億円)で65万9000台の製品を出荷したが、利益の面では1億9500万ドル(約237億円)の赤字となった。しかし、同社は第1四半期中に、過剰になり始めていた流通在庫を圧縮、また今年1月以降はチタニウムボディーの新ノート『PowerBook G4』、SuperDrive(DVD-RとCD-R/RWのコンボドライブ)搭載の『Power Mac G4』、次世代OSの『Mac OS X』といった話題の製品を次々と発売し、市場低迷の逆風を受けながらも製品出荷台数は75万1000台に伸び14億3000万ドル(約1740億円)を売り上げ、利益も4300万ドル(約52億円)の黒字に転換した。ちなみに、原田氏によれば第2四半期の国内での売り上げは2億1400万ドル(約260億円)で、製品出荷台数は10万7000台とのことだ。アップルは今後、意欲的な新製品の投入などを通して2001会計年度の後半には約4割増の32~34億ドル(約3894~4137億円)の売り上げを見込んでいるという。
サービス&サポート改革
続いて原田氏は、大幅な売り上げ増を狙う2001会計年度第3・第4四半期、アップルコンピュータが2つの事柄にチャレンジすることを発表した。1つは“新しいサービス&サポートの提供”そしてもう1つは“ノートブック市場におけるビジネス拡大”だ。
実際、今日の発表の目玉は前者のサービス&サポート体制の改善にあったと言えなくもない。まず修理を中心とした購入後の製品サービスに関しては、修理費用の低減と修理期間の短縮を柱にサービス体制網の構造改革を行なった。新しいサポート体制では、ユーザーのニーズや故障の内容にあわせて3種類のサービスを選ぶことができる。1つは“ピックアップ&デリバリーサービス”。これは故障した製品の集荷をアップルが手配し、同社サービスセンターで製品を修理後、ユーザーの手元に宅配するというサービスだ。修理をする場所を一極集中にすることでサービスパーツのロジスティクスなどを改善しようという試みである。
新しいサポート体制により、修理費用は大幅に安くなる |
2つめは“在宅自己交換修理サービス”。これはACアダプターやマウス、キーボードなど、ユーザーの側でパーツの交換や交換後の動作確認が可能な場合にまとを絞ったサービスで、アップルがユーザーの手元に交換用パーツを送付する。ユーザーはパーツ交換後、故障したパーツをアップルに返還するというしくみになっている。両サービスは、昨年から本格始動していたが、これに加え4月30日からは“アップル対面修理サービス”も始まった(実は昨年秋頃までにも同様のサービスが行なわれていたが、今回始まったサービスはサービス拠点や価格体系、対象機種などが異なっている)。これは故障したMacを、アップルが認める正式のサービスセンターに持ち込んで(パーツがあれば)その場で修理してもらうというサービスだ。
原田氏が目標として掲げたサービス価格の低減はこの新しいサービス体制によって初めて実現可能になる。原田氏はiBookを具体例に説明を続けた。例えばiBookが故障した場合、これまでは1万8000円から14万8000円の間の4パターンの修理費が適応された。修理費がどれくらいかかるかの見積もり費用としても9000円を徴収していた。しかし、新体制ではユーザーにメリットのない修理見積もり費用の徴収を廃止し(これは他社にない画期的なことだという)、修理費用を2万円と4万7000円の2プライス制に変更した。これまで液晶パネルなどが故障した場合は、新製品が1台買えるほどの修理費用がかかっていたが、新体制ではこれが4万7000円弱の修理費で済む(これは他メーカーの修理費と比べてもかなり安いはずだ)。故障内容によってはこれまで1万8000円で済んでいた修理が2万円になり、値上げに見えることもあるが、実はこの溝は先に紹介した在宅自己交換修理サービスが埋めている。在宅自己交換修理サービスでは、ACアダプター用ケーブルであれば1000円といった具合に修理費用がパーツ単価(1000円~4万円)だけで済むため、ユーザーに損のないきめ細かな料金でのサービスを受けることができるのだ。
ちなみに上で紹介してきた修理費用は、当然、メーカー保証が切れた製品購入1年後以降の話で、購入1年以内の通常利用での故障なら、いずれの方法でも無償で修理が受けられることは明記しておきたい。なお、iBookやPowerBook G3で対面修理サービスなどが受けられるのは6月以降になる。なお、新サービス体制の整備に時間がかかるため、とりあえずノート型製品向けのサービス体制改善が先行しているが、長期的にはデスクトップ製品を含む全製品のサービスを改善していく模様だ。
“サポートという商品”の発表
原田氏は、続いて同社がユーザーサポート体制の強化にも積極的に取り組むとした。現在、同社はこうした取り組みとして、ユーザーのOS環境を最新の状態に交信する“自動ソフトウェアアップデート機能”、ユーザー間で情報交換するための掲示板である“Tech Exchange”、製品に関する技術情報やトラブルシューティング情報を検索できる“Tech Info Library(アップルの技術情報ライブラリー)”や製品サポートページを運営しているが、今日、これに加えて新たに5月25日から“Apple Care Protection Plan”というサポート商品を発売することが発表された。
AppleCare Protection Planの登場で、3年間の保証が受けられるようになった |
Apple Care Protection Planは、Apple StoreやMac正規販売代理店、アップルの正規サービスプロバイダーで購入できるパッケージ商品で、パッケージの中には、Macのハードウェア診断ソフト『Tech Tool Deluxe』、従来90日間だったフリーダイヤルによる電話サポートを3年間受けられるようにする権利、メーカー保証を2年延長して3年間にする権利、そして同パッケージ購入者専用のサポート用ウェブページへのアクセス権などが同梱されている。パッケージの価格は利用しているMacによって異なり、iBook向けが3万円、iMac向けが1万8000円、PowerBook向けが4万2000円、Power Mac向けが3万円となる。このパッケージはMacの保証期間内(購入後1年)であれば購入できる。
コンシューマー向けノートを再定義
続いて原田氏は新iBookの紹介にうつった。新iBookは『iTunes』を使ったデジタルミュージックや『iMovie』を使ったデスクトップムービーなどアップルが提唱しているあらゆるデジタルライフスタイルに対応しており、初代iBookが広めたワイヤレスネットワーキング機能にも対応、FireWire(IEEE 1394)や2系統のUSBポート(12Mbps×2)、CD-R/RW(またはDVD-ROM、CD-ROM)ドライブなどを搭載したフルスペックノート機でありながら、サブノート機に迫る2.2kgの重量を実現。しかも、価格は15万8000円からとかなり手頃になっている
新iBookはWindowsノート機を上回る高い描画性能を備える。米国仕様のノートパソコン3機種(Windows Me)とiBookの性能を比較したデータ |
発表会ではiTunesやiToolsのデモを交えながら、iBookがいかに高い性能を備えているかが紹介された。以下では新iBookの特徴を写真を中心に紹介する。
本体左側面にはノート機に要求されるポート類がほとんどすべて揃っている(iBookにはPCカードスロットはない) |
5時間駆動を実現するバッテリーは、本体裏側のネジを90度回して脱着する。ネジ止めしてあるのは初代iBookの時からで、乱暴にカバンに放り込んでもバッテリーが外れないようにするための配慮 |
表面は光沢がある半透明のポリカーボネート素材でiMacの下側のような質感を持つ |
真っ白なポリカーボネートの中、唯一、金属的質感を放っているヒンジ部分。その下にはiBookシリーズとしては初めてステレオスピーカーを採用 |
新iBookで初採用された新型VGAポート用のアダプター(このアダプターの先に従来のVGAケーブルをつなぐ) |
新iBookでは背面と左側面に通気孔があいている。場所は確認できなかったが、これまでのiBookには搭載されていなかった空冷用のファンも搭載されている。ただし、アップルの説明によれば同ファンがまわることはほとんどないという |
発表会の後はイベントホールを利用して新iBookの展示が行なわれた。会場で何人かの人にiBookのインプレッションを聞いたが、これまでのようなカラフル路線を廃止して、真っ白の筐体を採用したことに対しては結構好意的な意見が多かった。
これが新iBookの箱。かなり目立つものになっている |
新iBookの発表と同時に、Macのデフォルトのスタートページは、アップルがエキサイトと協同で運営している“My Apple Start Page”に変更になる |
例えばOL層などにはこれまでのiBookの色やデザインがちょっとカジュアルすぎたが、真っ白な新iBookならどんな色や服装ともコーディネートしやすい、といった意見があった。一方で多くの人が、新iBookにもカラーバリエーションがでるかどうかに関心を抱いているようだ(アップルは当然ながらノーコメントの姿勢を保っている)。また最近、Macユーザーの間ではiTunesの人気が高いため、ステレオスピーカーを搭載していることもかなり評価が高かった。また一部のユーザーはiBookとしては初めてマイクを内蔵したことを高く評価していた。
外部スピーカーを繋いでiTunesのデモが行なわれていた |
その一方で、全Macのラインアップの中で唯一、システムバスが66MHzと遅いこと(他の機種は100MHzまたは133MHz)やAVケーブルが別売りになったことを不満に思っている人もいたようだ。なお、システムバスの66MHzについて、展示をしていた日本のアップルの社員は「バッテリー駆動時間の延長や低コスト化などさまざまな製品バランスを考えた上での決断」と語っていた。
かんじんな製品のサイズについては、筆者が話した約10人の間で、大きいと言う人と、小さいと言う人がほぼ半々に別れた。ただし、大きい/重いと言っていた人も、CD/DVD-ROMドライブを内蔵していることを指摘すると考えを改めた人もいた。なお、Mac関係のプレスの中には同機の印象と『PowerBook 2400c』の印象を重ね合わせて語る人も何人かいた。
発表会の後の質疑応答の中で、原田社長は「アップルはグローバル戦略を展開しているが、アップルにとっても最も重要な海外市場である日本でノート製品の売上率が高いことは意識している」と、新iBookの開発でも日本市場をかなり意識していることをうかがわせた。
なお、新iBookに関する速報は5月13日売りの『MacPeople』誌(6月1日号)、今回の発表会の模様は5月18日売り『MACPOWER』誌6月号でも詳しく伝える予定だ。