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【MACWORLD EXPO/TOKYO Vol.8】アドビが次世代パブリッシングのビジョン、“Network Publishing”を提唱

2001年02月26日 23時17分更新

文● 千葉英寿

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米アドビシステムズ社の社長兼CEOのブルース・チゼン氏は、23日、“Macworld Conference & Expo/Tokyo 2001”において、“Anytime,anywhere on any device.~Network Publishingが拓くパブリッシングの未来”をテーマに講演を行なった。同社の提唱する次世代パブリッシングソリューション“Network Publishing”のビジョンを中心に、日本初公開となったAdobe Acrobat eBook Readerなどの製品紹介を交えた多彩な内容となった。

アドビシステムズ社CEOチゼン氏の写真
アドビシステムズ社CEO、Bruce Chizen(ブルース・チゼン)氏。昨年、12月に新CEOに就任したばかりだが、エグゼクティブ・バイスプレジデントとして何度か来日している

ジーンズにスニーカーという至ってラフな姿で現われたブルース・チゼン氏はまず、「ケーブル、DSL、ワイヤレスなどのインフラがブロードバンドに移行していっている。イメージキャプチャに関してもアナログからデジタルカメラに、そして、デジタルビデオに移行しつつある。そうした中で企業はもっとはやくウェブを制作したいと考えている」と市場動向を説明した。
チゼン氏は、アドビ社がこれまで“80年代のDTP”、“90年代のDTP、Webパブリッシング”に対し、デジタルイメージングではAdobe Photoshop、デジタルビデオでは、Adobe After EffectsやAdobe Premiereなどで貢献し、コミュニケーションの信頼性の改善に努めてきたことに触れた。
そして、次に来るものこそ、“Network Publishing(ネットワーク・パブリッシング)”であり、そこにはこれまでのWebパブリッシングやDTPも含まれるとした。異なるのは、既存のパソコンやPDA、iモードなどの携帯電話に留まらず、これから新しく出てくるビデオゲームなどの新しい手段、プラットフォームも含めた数多くのデバイスに対応する点だ、とした。

続いて、このNetwork Publishingのビジョンをまとめたビデオを紹介した。
ビデオは大きな企業合併をリアルタイムに報じるNetwork Publishingのメディアとツールについて紹介したもので、空港ロビーで新聞を読むビジネスマンが、Network Publishingのツール群を使って次々に情報を得ていくビジネスマンたちを目撃する、というストーリーだった。
メディアとツールの中身は、Acrobat Readerを搭載したワイヤレスPDAで情報を入手し、その場でPDAを使って指示を与える証券アナリスト、はニュースのヘッドラインを携帯電話で入手し、ビジネスセンターに設置された情報キオスクからPDFでセーブされた詳細情報をプリントアウトする日本人企業家、という具合に描かれていた。

Network Publishingのツールを使ってビジネスマンらが情報を得たのは合意書が交わされたわずか30分後だったが、新聞を読むビジネスマンが同じ情報を得たのは、飛行機で移動してホテルに到着し、部屋でテレビをつけたその日の夕方だった、というものだった。それも到着したホテルのロビーで彼が手にしたメディア=新聞にはそのニュースは掲載されていなかった、というオチまでついていた。

ビデオでNetwork Publishingの概念を紹介したチゼン氏はアドビのNetwork Publishing構想で協力関係にある企業をワークフローに沿って紹介した。
制作分野のアドビシステムズ社をはじめ、管理分野はインターウォーブン社とATG社、伝達配信分野はノキア社、リアルネットワークス社、ヒユーレット・パッカード社となっている。
制作分野ではさらに進化し、統合された製品を提供していく、管理分野ではサーバーベースのソリューション、メタタグによる管理とパーソナライズを、伝達配信分野ではインタラクティブ・コンテンツとその表現のための標準化と革新を目指すとした。さらに、アドビとしては本当のコンテンツ・クリエーションのプレイヤーとして努力を惜しまないとした。

このNetwork Publishingを現実のものとするために「コンテンツの管理をもっと簡単にする製品としてPDFベースの電子書籍ビューアー、Adobe Acrobat eBook ReaderとサーバーベースのプロダクトであるAdobe Content Serverを発表した。これによって、デジタルコンテンツの販売を行なおうとしている出版企業を支援することができる」とチゼン氏は語った。なお、これらの製品は、Glassbook社の買収に伴って取得したものだ。

さらにこれらのソリューションを活用してコンテンツ提供の準備を進めている事例に関するインタビューがビデオで紹介された。
KDD研究所で開発を進めているのは、PDAで提供するモバイル・アプリケーションで、自動的にSVGファイルを生成し、地図の拡大・縮小をサーバ側で行なうことで位置情報などをリアルタイムで表示するというもの。同所の工学博士、井上直己氏は「次世代携帯電話でのサービスや位置情報ナビシステムを計画している。アドビ社ともコンテンツ提供者向けのアプリケーションとして開発を進めていく」と語った。

Network Publishingの核となるAdobe InDesign日本語版

後半は、こうしたNetwork Publisingを支えるアドビ社の最新製品が紹介された。まずはプロフェッショナル向けのレイアウトツールとしてリリースされたばかりのAdobe InDesign日本語版を紹介した。
同製品の積極的導入にともなう協力関係を表明した凸版印刷(株)、東京リスマチック(株)、(株)リクルートコンピュータパブリシング、キンコーズ・ジャパン(株)の4社へのインタビューがビデオで紹介された。東京リスマチックとキンコーズ・ジャパンではAdobe InDesign日本語版で作成されたデータの出力対応を表明した。また、リクルートコンピュータパブリシングでは「InDesignはPDFワークフローを構築する上でキーとなるソフトウェアと確信している」と語った。

日経デザイン誌の写真
Adobe InDesign日本語版で制作された『日経デザイン3月号』。横組み中心で制作されているが、全く問題のない仕上がりと言えるだろう

さらに同製品を活用して制作を行なう側へのインタビューも紹介された。著名なデザイナーである戸田ツトム氏は「日本のデジタルデザイン、エディトリアルデザインの大きな事件」と表わし、「InDesignは、“いかにして使いこなすか”の必要がない。ようやくデジタルエディトリアルデザインが次の段階に進める」と語った。また、InDesign日本語版を使って最新号を制作した『日経デザイン3月号』が紹介された。縦組みに多少の心配が残されているInDesignだが、製品としても環境としても、かなり実用のレベルに達した、と言えるだろう。

eBook販売を実現するAcrobat eBook Reader

続いて、クロスメディア・パブリッシングを考えているパブリッシャーに対するサポートとしてAdobe Acrobat eBook Readerが紹介された。同製品は現在、日本語版はリリースされていないが、チゼン氏は「2001年上半期に日本語版の無償ダウンロードを開始する」とした。

eBook Readerで日本語書籍を表示
Acrobat eBook Readerで日本語書籍も表示できる。蔵書をビジュアルで表示して整理したり、Acrobatの機能である注釈なども使うことができる

引き続き、Adobe Acrobat eBook Readerのデモンストレーションをアドビシステムズ(株)のマーケティング部の石原信義氏が行なった。
石原氏はまず、Barnes&Noble.com社のeBookStoreにアクセスし、実際にダウンロードした書籍をAcrobat eBook Readerを使って表示してみせた。ここで扱っているファイルは通常のPDFを使ったもので、サーバーソフトのAdobe Content Serverによって電子書籍として販売することが可能となる。Adobe Content Serverを使うことによって、PDFファイルを暗号化し、ダウンロードしたパソコンのみが使えるキーを生成し、ファイルとキーをダウンロードすることができる。

石原氏は「Acrobat eBook Readerは、Acrobat Reader同様にPDFを表示することができるものだが、“本を購入する”“本を整理する”“本を読む”ことに特化したビューアーだ」と説明した。さらにInDesignで制作した作品をデータ書き出しを行なうことで、容易にPDFを生成し、eBookで販売できるとした。

最後にその例として、先のデモで紹介された日経デザイン3月号をPDF化したものをソニーCLIEでAcrbat Reader for Palm OSを使って表示させてみせた。

Palmで表示した画面
PDFでセーブすればPalmデバイスでも表示できるようになる

Adobe Premiere 6.0日本語版

最後にビデオ配信を行なうための製品として3月16より発売開始されるAdobe Premiere 6.0日本語版が紹介され、アドビシステムズマーケティング部の春日井良隆氏がデモを行なった。
春日井氏はAdobe Premiereが本バージョンでWindows Media(Audio&Video)、RealVideo、QuickTimeなどのファイルに出力することができるようになったことを紹介し、よりWebに対応してきていることを示した。
さらに今年6月公開予定の手塚治虫原作による大作アニメ『メトロポリス』の予告特番として制作したものをQuickTimeに出力して見せた。さらに書き出した動画には、マーカーでURLを埋め込むことにより、動画とURL情報の同期が可能となる。例えば、動画の進行状況に応じて、ストーリーやキャストのプロフィール詳細をとなりに表示させる、といったことができることをデモしてみせた。

このようにアドビの各製品が着々とNetwork Publishingに向けて機能を強化しつつあることを具体的に示して見せ、チゼン氏は「未来はNetwork Publishingにある」と語って講演を締めくくった。
退場間際に、チゼン氏の携帯が鳴り、演壇のプロジェクタでその携帯電話のディスプレーを表示して見せた。そのディスプレーには先ほどの『メトロポリス』の動画が表示されていた。チゼン氏は、Network Publishingの時代が遠い未来にあるものではないことを無言で示唆して見せたのだ。
チゼン氏は、これまでのプロフェッショナル・ユーザーに特化した企業のリーダーとしてではなく、インターネットのメインプレイヤーの顔として、一貫して未来を語り続けた。アドビ社は長い間、2人の偉大なリーダーが引っ張ってきたと言えるが、ようやく世代交代の時期が訪れたことを強く感じることができるセッションとなった。

画像をウェブ用に出力する画面
『メトロポリス』の画像をWeb用に出力する。Save for webというコマンドで簡単に書き出せる

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