香港のコンベンション・エキシビションセンターを会場に、“ITU TELECOM ASIA 2000”が2000年12月4~9日にわたり開催された。今回はNTTドコモの榎木取締役を交えて行なわれたIMT-2000に関するパネルディスカッションの模様をお届けする。
「iモードは不滅」NTTドコモの榎取締役、IMT-2000を語る。
ITU TELECOM ASIA 2000では展示のほかに、さまざまなForum(中身はカンファレンス)が実施された。こちらのほうもワイヤレス関連のテーマが目立ち、とりわけ3G(第3世代)、いわゆるIMT-2000に関する展望についてのセッションが人気を呼んだ。現地時間12月8日の“Technology for Mobile Internet & 3G Services”と題されたForumには、米モトローラ社、米ルーセントテクノロジーズ社、独シーメンス社など世界有数の通信関連企業のキーマンとともに、日本のNTTドコモから榎啓一取締役が壇上に上がった。榎氏といえば、iモードの総責任者。iモードは世界中で唯一成功し、また他国では大規模採用の例がほとんどない携帯電話用データ通信の規格である。iモードは3Gでどのような展開を図るのか、また3Gでiモードは世界へシェアを伸ばしていくのか、ここでもやはりドコモの榎氏の発言に注目が集まった。
写真左から、インドネシアのTelecomikasi社のHantoro技術部長、独シーメンスのFernandes副社長、ドコモの榎取締役、モデレータを務めた独シーメンスのHuber上級副社長、米ルーセントテクノロジーズのZysman技術部長 |
2001年5月末よりNTTドコモは、世界に先駆けて次世代携帯電話“IMT-2000”の運用を開始する。すでにご存じのようにドコモが採用する規格は“W-CDMA”と呼ばれ、日本のJ-フォングループも採用を決定しているほか、主に欧州で提唱されている規格だ。これに対して北米で提唱されているのが“cdma2000”と呼ばれる規格。cdma2000は、日本ではKDDI陣営が採用を決めている。また3Gになれば、現行の2G(第2世代)携帯電話以上に通話以外の“ノンボイスサービス”が脚光を浴びると目されている。現在運用されているノンボイスの代表的規格では、iモードが圧倒的なシェアを占める日本に対して、他の諸国では日本ではKDDIグループが運用中のEZwebに代表されるWAPが中心となっている。ただし、日本以外に携帯電話のデータ通信が広く普及している国は見当たらない。
IMT-2000はW-CDMAかcdma2000か、そして3Gのデータ通信規格で主流となるのはiモードかWAPかに、自ずと興味が注がれた。ところが、Forumの蓋を開けてみれば、各国の代表から出るのはiモード礼賛の言葉ばかり。いかなる企業も利潤を追求しているのだから、携帯電話はボイスだけでなくデータ通信の利用も拡大したい点は一致している。それなのに、いまひとつ普及させられない。そのジレンマを尻目にドコモの榎氏は「12月8日、今日の段階でiモードは1500万人の契約者数を突破しました。これはハンドセットの数ではありません。毎月iモードサービスに対してお金を払ってくれる人の数です」という言葉でスピーチを始めた。のっけから“信じられない”といった表情を見せる、各国のパネラーたち。そして榎氏が示す、iモードの急成長ぶりを示す数々のグラフに、彼らは引き続き圧倒されていく。WAPを採用する企業の代表たちがiモードを攻撃するどころか数歩引いた姿勢でディスカッションを続けたのは、ディスカッションの和を保つための気遣いでもなんでもなく、ドコモの業績に対する素直な感想だったように感じられた。
'99年2月22日開始以来快進撃を続ける、iモードの実績の数々を示すデータ |
iモードのドコモiメニュー登録サイト数と勝手サイト(ドコモはボランタリーサイトと呼んでいた)の増加を示したグラフ |
榎氏は、iモード成功の最大の鍵はインターネット標準のHTMLに準拠した“cHTML(コンパクトHTML)”を採用したことだとしている(12月18日発売の月刊アスキー1月号のインタビューでも、NTTドコモ代表取締役会長の大星公二氏が同様の発言をしている。大星氏は無線のパケット通信に成功したことも大きいと述べている)。cHTMLの採用によって、インターネットというすでに成熟したインフラと共通のノウハウでコンテンツを作ることができ、メールを利用できるという点で、iモードは特別な技術の習得を開発者にもユーザーにも強いる必要なくシェアを伸ばしていくことができたというのである。
iモード携帯のiボタンを押すと登場する“iメニュー”に登録されたサイトは、サイト利用料の徴収をドコモの通信利用料と一括で行なえるなどのメリットをもっていることはご存じのはず。iメニューのアクセスは月間で50億ページビューにも上るというが、最近はiメニュー非登録サイトの数がグングン増えており、3127サイトにもなるそうだ。iメニュー登録サイトと非登録サイトの割合はすでに半々だという。
コンテンツの内容は多種多様で、バンキングやショッピングなどのeコマース系が10%、レストランガイドなどのデータベース系が10%、ニュースなどのインフォメーション系が20%、そしてゲームなどのエンタテインメント系が60%というバランスだと発表。間もなくJavaを利用したより動きのあるコンテンツもスタートさせるといった503iがらみの話題も続く。
503iに関するレポートでも触れたように、日本以外での携帯電話はカラー化はもちろん、検索機能付のデータサービスや専用機もどきのゲームのサポートまでたどりついていない。榎氏のここまでの発表に、他のパネラーや聴衆は話が2Gの話なのか3Gの話なのか困惑の色を見せるほどだった。
そしてようやくIMT-2000
iモード開始から2001年春のIMT-2000までのサービス内容とその利用者のボリュームの推移 |
榎氏の3Gに関するスピーチは「iモードはPDCでもW-CDMAでも主流のサービス」と明言したこと以外に目新しいものはなかった。「IMT-2000になれば、384kbpsの高速通信が可能になるので携帯電話による動画配信も現実味を帯びてくる」と、MPEG-4対応の携帯電話の用意があることを明言したものの、「動画配信といっても最初は1回あたり10分未満の短いものしか予定していません。なぜなら長時間の動画配信は利用料が高くつくので、コンシューマーに支持されるとは考えにくいからです。現在サービス中のiモードコンテンツをより使いやすくすることのほうが大事」とも。動画配信はニュースフラッシュやプロモーションフィルム程度を想定しているようだ。
「携帯電話でなんでもやろうなんて私は思っていません。iモードがインターネットとの共存で成功したように、今後も上手にインターネットと融合しながら互いの得意不得意をフォローしながら成長していければと考えています」と結んだ。榎氏のスピーチは、IMT-2000になってもiモード路線は変えないという概要で、iモードサクセスストーリーがForumを圧倒し、議論がW-CDMA対cdma2000、iモード対WAPのレベルまで行きつけない状況で幕となった。
「携帯電話は情報を要求する(アップリンク)は強い。でも情報やモノを入手する(ダウンリンク)は弱い。だから携帯電話以外のPCや実店舗とも手を組んで共存共栄していく」と榎氏が説明した、今後の携帯電話のあり方を示した図 |