本田技研工業(株)は20日、小型軽量の新しい人間型ロボット『ASIMO(アシモ)』を発表した。
ASIMOは、同社がかねてより開発を進めている自律歩行人間型ロボット『P3』(The Honda HUMANOID ROBOT Prototype Model 3)をさらに進化、発展させたもの。
ホンダの人間型ロボット『ASIMO(アシモ)』。ASIMOは“Advanced Step in Innovative Mobility”を頭文字を取ったもの。新しい時代へ進化した革新的モビリティーを意味するとのことだが、ホンダ社内では“足を持ったモビリティー”“明日のモビリティー”とも言われているとか。ちなみにロボット三原則の“ASIMOV”にはかけていないとのこと |
ついに家庭向きのサイズに
P3が全高160cm、重量130kgであるのに対し、今回のASIMOは小型/軽量化がなされている。人間の身近で使えて役に立つよう、生活空間の中で作業できるサイズを検討した結果、照明スイッチやドアノブに手が届き、テーブルで作業が行なえるサイズとして、全高120cmとなった。また、階段の昇降を考慮し、股関節から足先までの長さは61cm、横幅はドアの幅などを考慮して45cm、奥行きは44cmとなっている。重量は、骨格構造の見直しを行ない、フレーム肉厚の薄肉化や制御ユニットの小型/軽量化を図ったことで、43kgと大幅に軽量化した。電源はニッケル亜鉛電池で背中に背負っているボックスの中に内蔵、約25分間動作する。
見よ、この小ささ! 右がASIMO、中央がホンダ吉野社長、左がおなじみのP3。ASIMOは全高120cm、重量43kg。発表会場で近くにいた報道関係者は「ヘタな女より軽い」とポツリ |
また、腕の動作範囲を拡大した。肩関節の取り付け角度を20度上げることで、肘を水平に上げ、さらに15度あげて作業できるようになり、腕の可動範囲が105度になった。手も、人間と同様の5本指になり、物を握りやすくなった。いずれかの指が物に触れるとそれが固定され、そのほかの指も物をつつみこむように動く。
歩きながらスムーズに旋回
歩行技術も進化している。従来の歩行パターンは、直進と旋回が異なるプログラムで生成されていたため、例えば直進歩行から急な角度で曲がろうとすると、一旦停止してから旋回しなければならず、ぎこちない動きとなっていた。また、それぞれの歩行パターンは異なる歩行周期(1歩の時間)となっていたので、歩行周期が数種類に限定され、自由に変更できなかった。
ASIMOは、従来の歩行制御技術に予測運動制御を加えた新しい自律2足歩行技術“i-WALK(Intelligent Realtime Flexible Walking)”を採用した。人間は通常の直線歩行から角度のきついコーナーを曲がろうとするとき事前に身体の重心をコーナーの内側に移動させるが、予測運動制御は、これと同じようにASIMOが次の動きをリアルタイムに予測してあらかじめ重心を移動させる技術。歩行中、操縦装置により速度/旋回角指令がなされ、ASIMOが旋回したいと思考すると、このまま旋回したらどれくらい重心が外側に倒れるかという重心変化傾向の予測値を計算、重心を内側に移動させるために荷重点を外側にどれだけの時間/量だけ移動させるかを判断し、目標運動パターンや目標荷重移動(床の蹴り方)パターンを変更する。
このi-WALKを採用したことにより、直進→旋回→直進と、一旦停止を含まず連続移動が行なえ、歩き方も自在に変更できるようになった。リアルタイムに歩行パターンを生成し、任意に着地位置と旋回角を変更できることで、さまざまな方向への歩行がスムーズに行なえる。同社はこのi-WALK技術が発展することで、将来ロボットが人と協調して作業を行なったり、障害物を自ら回避できるようになるとしている。
写真では単に歩行しているようにしか見えないが、実は身体をこちらに向けたまま後退しているのだ。報道陣からは「おお~」という歓声が上がった |
これまた写真ではへっぴり腰に見えるが、ダンスステップを披露している最中。どのようなダンスステップかというと、なつかしのビューティーペアのステップを彷彿とさせるものだった |
8の字歩行をするASIMOの後姿。ちょうどランドセルをしょった小学生くらいの大きさだ |
おじぎをするASIMO。一生懸命歩いて、ぺこりとおじぎをする姿はとても愛らしい |
さらに操作性も向上した。P3がワークステーションを利用してコントロールしていたのに対し、ASIMOは、ワークステーションのほか、無線の携帯コントローラーによる歩行操縦と、ボタン操作での動作が可能。ワークステーションはASIMOのスタートアップおよびプリプログラム歩行をコントロール、携帯コントローラーは、前進/後退、カニ歩き、斜め歩き、その場旋回、コーナリングといった自在歩行の操縦と、握手や両手振り、バイバイ、おじぎといったあらかじめボタンに登録された動作をコントロールできる。
携帯コントローラーの試作機。ウェアラブルPCとゲーム機用コントローラーを組み合わせたもの。アップの撮影は禁止されたが、OSはどうみてもWindows |
●ASIMOの主な仕様
- 重量:43kg
- 全高さ:120cm
- 奥行き:44cm
- 横幅:45cm
- 歩行速度:時速0~1.6km
- 歩行周期:周期可変、歩幅可変
- 把持力:1ハンドにつき0.5kg(5指ハンド)
- アクチュエーター:サーボモーター+ハーモニック減速機+駆動ユニット
- 制御部:歩行/動作制御ユニット、ワイヤレス通信ECU
- センサー:6軸力センサー(足部)、ジャイロ/加速度センサー(胴体部)
- 電源部:38.4V/10AH(Ni-MH)
- 操作部:ワークステーションおよび携帯コントローラー
●ASIMOの自由度(人間の関節に相当。前後、上下、回転がそれぞれ1自由度)
- 頭:首関節(上下方向/回転) 2自由度
- 腕:肩の関節(前後方向/上下方向/腕の回転) 3自由度
- 腕:肘の関節(前後方向) 1自由度
- 腕:手首の関節(回転) 1自由度
- 手:5指(把持=物をつかむ動き) 1自由度
- 足:股の関節(前後方向/左右方向/旋回方向) 3自由度
- 足:膝の関節(前後方向) 1自由度
- 足:足首の関節(前後方向/左右方向) 2自由度
よって、ASIMOの作動自由度は、頭が2自由度、腕が5自由度×2腕で10自由度、手が1自由度×2本で2自由度、足が6自由度×2足で12自由度、合計26自由度となる。
今後は音声/視覚認識を取り入れる
本日都内同社ビル内で行なわれた発表会で、同社社長の吉野浩行氏は、「夢に向かってひとりひとりが技術や能力を活かしてチャレンジすることで時代を活性化していくという“ホンダ”ブランドを象徴する技術。世界一と評される2足歩行技術が短期間で進化し、歩行しながら次の姿勢を予測制御して方向を変えるという技術を世界で初めて実現した。120cm、43kgという親しみを感じるサイズにしたことで人間と共存しやすいものとなった」
「今後は音声や視覚をはじめとする認識技術を取り入れるほか、腕や手を使った作業能力を向上させ、人間の役に立ち社会に溶け込めるロボットに進化させたい」
「なぜホンダがロボットをやるのかとよく聞かれるが、2足歩行ロボットは人間と同じ場所に移動し作業できることで人間の分身となり当たらし価値を生む究極のモビリティーだ」
「今回、初めて『ASIMO』という名前を付けた。多くの課題はあるが、課題が多いほど情熱とチャレンジングスピリッツを発揮するのがホンダ。役に立つモビリティーをはやく実現させたい」と語った。
吉野社長と握手するASIMO。これまでの『P―』(Prototype Model)という呼称はP3が最後で、今後同社が出すロボットはすべて『ASIMO』と名が付くことになる。「AIBOのように、みんなに愛されるといいのですが」(ホンダ技術者談)。心配ご無用、1度歩く姿を見たら感動を覚えること間違いなしだ |
なお、ASIMOはパシフィコ横浜で24日より開催する“ロボデックス2000”で一般公開される。本物のASIMOを見たい人はぜひどうぞ。