6月14日から16日までの3日間、インテックス大阪会場にて“ビジネスシヨウ2000
OSAKA”が開催された。ここではそのプログラムの1つとして15日に行なわれた特別シンポジウム、“ビジネスモデル特許への取り組みと実務的対応”を紹介する。
講師役の凸版印刷株式会社法務部長・萩原恒昭氏は、人気の地図情報サイト『マピオン』の特許申請に携わってきた人物。また、今のようにビジネスモデル特許という言葉が話題になる前から、デジタル著作物の管理について実務的に対応し、経験を積み重ねてきた。
凸版印刷の萩原恒昭法務部長は、ビジネスモデル特許が話題になる以前から、デジタルコンテンツの制作現場を通じて、特許への対応を行なってきた |
ビジネス特許が広く認知されたStateStreetBank事件
「意外だと思われるかもしれませんが、凸版印刷ではプリントレスという時代の流れに対応するため、早くからデジタル市場へ対応してきました。'94年10月には日本初の集合型電子モール“サイバーパブリッシングジャパン”をスタートしています。その他にもさまざまなデジタルコンテンツを開発し、'99年7月にはデジタルコンテンツの仲介事業“ビットウェイ”の運営も始めました。また同時に、印刷業界がもともと著作権に対する意識が高かったことから、これらのコンテンツに対する特許の考え方に対しても早くから取り組んでいました」萩原氏の資料によると、ビジネスモデル特許が認知されるようになったのは、'98年7月にアメリカでStateStreetBank事件の判決が行なわれたのがきっかけだという。この事件はビジネスの手法そのものが有用であり、具体的でなおかつ実態が伴うものであれば特許として認めるという画期的なものだった。その後、日本でも昨年の5~8月に特許庁がビジネスモデル特許に関連する資料を公開し始め、夏ごろからマスコミが大きく取り上げるようになった。
一方、そのベースになっている、ソフトウェア関連発明の審査基準については、'93年頃から取り組みが始まった。'95年7月に出願した“マピオン”は、これらの審査基準を元に行なわれたものだ。そしてほぼ3年後の'98年3月に、ようやく特許登録されている。
“マピオン”(http://www.mapion.co.jp/)は、凸版印刷がヤフーやシャープ、電通らと一緒に立ち上げたサイバーマップジャパン社によって運営されている。こうした体制がゆえに、特許に対しても慎重な対応が必要だった。特許は請求範囲の記載が最も重要となり、関連する特許はすべて申請するにようアドバイスされた。そのため、マピオンの特許出願資料は膨大になり、その他にも関連する特許が10近くも出願されている
国際的な審査レベルの調整が必要な時代に
「“マピオン”の特許出願に際しては、さまざまなアドバイスをプロから受けました。その経験から感じるのは、そう簡単に特許が取れるほど甘くはないということ。まず、審査のための文献がまだ整理されていないので、出願した書類の範囲が微妙に違うだけの似たようなアイデアでも審査が通る可能性もあります。“マピオン”では10を越える関連特許出願をしていますが、それでも、まだ十分ではないかもしれないのです」最終的には腕の立つ弁理士のアドバイスが必要となるが、日本ではそうした実務経験を持つ弁理士はごくわずかしかいない。しかも、訴訟社会のアメリカでは特許専門の裁判所のCAFC(Court of Appeals for the Federal Circuit=連邦巡回控訴裁判所)まであるのに対し、日本は基本審査もままならないのである。このままでは弁理士よりも弁護士が儲かる時代になってしまうと萩原氏は警告する。
「インターネットの時代に特許への取り組みを国内だけでやっていても仕方ない。国際的な調和が求められるのです。ちょうど、昨日から東京で特許関連の国際会議がありましたが、フタを開けてみるとアメリカの特許審査のハードルは低く、日欧は高いことが分かりました。そこで審査のレベルを世界で合わせる動きが調整されて、その結果は10月の日米欧会議で発表される予定です」
会場から特許侵害に対してはどのような対応を行なっているのかという質問があったのに対し萩原氏は、「現在はまだ市場育成の阻害要因にもなりかねないので、慎重に対応するようにしている」と答えた |
ビジネスモデル特許は企業戦略のひとつ。トップからの意識改革を
今やビジネスモデル特許は企業戦略のひとつであり、今後は特許と無関係だった企業も巻き込まれていくとも萩原氏は語る。「社内でビジネスモデル特許への対応をスムーズにするには教育、啓蒙活動が必要です。その際には、ボトムアップよりもトップダウンで、トップからの意識改革を行なうことが効果的でしょう。すでに特許に関する法務知識を新人社員の必修科目にしている企業もあります。また、実務レベルのプロジェクト体制にするという方法もあります。ちなみに凸版では事業部制で対応しています」
シンポジウムの会場はほぼ満席になるほど、ビジネスモデル特許に対する現場の意識は高まりつつある。しかし、それに対して、主導する立場にある特許の現場はニーズに追いついていないのが現実のようだ。これからの日本は、社会システムの在り方から特許に対する考え方を変えていく必要に迫られることになりそうだ。
満員だった会場。ビジネスモデル特許に対する意識は高まりつつある |