3月20日の月曜日、東京のお台場地区青海にあるタイム24ビルにおいて、“RoboCupスプリングシンポジウム”が開催された。
RoboCupはロボットによるサッカーを実現するために必要な人工知能やメカトロニクス関連技術の研究・実証の場として、'97年から開催されているイベント。今回のスプリングシンポジウムは、国内の研究者を対象に毎年春に行なわれてきた技術強化セミナー“Spring
Camp”を拡大、名称を新たにしたもの。これまで行なってきたシミュレータ部門に加え、小型機部門の強化も実施され、実際に試合を行なうデモンストレーションと研究成果を報告するワークショップが開催された。また、より幅広い層の参加を狙う“RoboCup
Jr.”の一部門としてLEGO MINDSTORMSを使ったサッカーのデモが行なわれたほか、RoboCup
Jr.の普及・啓蒙を狙う“RoboChallengeフォーラム”もあわせて開催された。
小型機部門の試合は中部・愛知大学連合対岐阜大学による対戦が行なわれたが、満足なプレイを披露することができなかった |
LEGO MINDSTORMSを使ったRoboCup Jr.部門のデモ。さまざまなかたちのロボットが集合した |
RoboCup Jr.は、大学や企業の研究者が参加のほとんどを占めるRoboCupとは異なり、より幅広い人たち、また低年齢層の参加を可能にするRoboCupの一部門として検討されているもの。LEGO
MINDSTORMSや市販のキットなどを利用することで競技やイベントへの参加を容易にし、同時にモノ作りの楽しさや技術の面白さなどを啓蒙、将来のRoboCupの参加者を育成するのが目的だ。先日発表された玩具メーカーによる“RoboCup
Toys”もこのRoboCup Jr.構想に基づいたものだ。
現在RoboCup Jr.のレギュレーションについては最終的な調整段階に入っているところで、この日はそのワーキンググループで中心的に活動している、デンマークのLEGO
LAB(LEGOの教育への応用を研究する機関)のHerik Lund氏と米国のCarnegie
Mellon大学のTucker Balch氏による講演も行なわれた。
RoboCup Jr.はサッカーを行なうコンペティション部門と、競争や競技ではないコーポレーション(パフォーマンス)部門のふたつにわかれており、コンペティション部門には5対5で対戦するシミュレータと、MINDSTORMSなどの実機で戦うリアルロボット部門がある。またコーポレーション部門は、リアルロボットにパレードやダンスを行なわせるもので、女の子や幼い子どもに親しみやすいよう配慮されている。
講演を行なうLund氏。同氏が所長を務めるLEGO LABは、MINDSTORMSを使った教育やその効果を研究する機関。デンマーク政府とLEGO社が協同出資している |
講演の中でLund氏は、MINDSTORMSを使って7歳の子どもが約1時間という時間でロボットを組み立てて動かした例や、研究所で開発したMINDSTORMSのサッカーロボット、楽器を演奏するロボットのビデオなどを紹介した。また開発中のロボットのプログラミング環境も紹介した。「ボールを追え」とか「中央へ移動」、「シュート」などのコマンドを組み合わせてロボットに「教え込む」ことができるほか、そのコマンドがどんな動きをするのかというビデオが再生されるインターフェースを備えるもので、夏までには一般に公開して、サーバー上で仮想的に対戦できるようにしたいと話した。
MINDSTORMSはパソコンを仲介させ、赤外線によってリモートコントロールされる。ゲーム機・プレイステーション用のコントローラーやマルチタップなどを経由、中央のスタンドに取り付けられた赤外線ユニットからコマンドが発せられている |
シミュレーションリーグのデモでは、3次元ビジュアルによる表示も行なわれた |
MINDSTORMSの動作を決めるプログラム環境。左の黄色いバーにコマンドが並んでおり、選択されると右側に表示される。また、どんな動きかを知りたいときは写真のようにビデオが再生される |
LEGO LABで製作されたサッカーロボット。前方にタッチセンサーと光センサーを内蔵して光るボールを追いかける仕組み。目が動くなどのギミックもある |
Balch氏は、同じく大学で開発中のロボットのプログラミング環境を紹介した。Javaで書かれたプラットフォームフリーのプログラムで、実機を動かすコマンドを制御プログラムを結ぶAPIを開発、シミュレータにもリアルロボットにも使えるようになっているもの。年齢に関係なく簡単に使えるようなインターフェースを研究中で、チーム、プレイヤー、細かい振る舞いと3段階の設定ができ、レベルにあわせたプログラミングができるという。こちらも夏までには公開し、今後のRoboCup
Jr.イベントで使えるようにする計画だという。
Balch氏はJavaで書かれたプログラミング環境を紹介した。なお同氏はロボットを研究する前は空軍のパイロットだったらしい |
プログラミングインターフェースの一例。左に表示されたケースに対し、どう反応するかを右側で選択、矢印で結ぶ。こうしてプログラムしたデータをインターネット経由でサーバーにアップロードし、仮想的に対戦させることも考えられている |
なお、国内でRoboCup Jr.を広く普及させるために、地域での拠点作りやネットワーク作りを、RoboCup関係者や有志による組織“RoboChallengeネットワーク”が行なっている。地域イベントや教育への利用、技術セミナーなど、今後も積極的にこうしたイベントを開催するという。ちなみにRoboCupの国内大会のジャパンオープンは6月に札幌で、世界大会は8月にオーストラリアのメルボルンで開催される予定だ。