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緊急インタビュー ミラクルはいま何を考えているのか?

2000年09月28日 18時47分更新

文● ASCII Network PRO 笹川達也

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この記事は、ASCII network PRO 2000年11月号 (定価1280円)に携載されたものです。聞き手: 渡邉利和、構成: ASCII Network PRO笹川達也

 前ページでは、Miracle Linuxの技術面を解説したが、そもそもなぜ日本オラクルが別会社を設立して、Linuxディストリビューションをリリースするのか、他社との差別化はどこなのか? ミラクル・リナックスの池田秀一氏(マーケティング本部 本部長)に尋ねてみた。

ミラクル・リナックス設立の理由

[ASCII network PRO] そもそも、どうして別会社を設立してMiracle Linuxを作ろうとしたわけですか? 日本オラクル自身がLinuxを出しても良かったのでは?
[池田]  まず既存のディストリビュータがビジネスの「てにをは」をわかっていないという不満があります。

 米国ではRedHatが、Linuxが非常に信頼に足るOSであるという認識をFortune 500社に浸透させて、ビジネスを非常にうまく立ち上げた。いま米国のサーバOS市場でLinuxが25%のシェアを占めていますが、それに引き替え日本では2.7%と米国の1/10の市場しか獲得していない。これではダメだと。われわれ自身がMiracle Linuxを作って、Linux市場を引っ張っていこうと思ったのです。

 たとえば、Linuxの優位性を説明するのには、弊社では記者発表で配ったようなコストパフォーマンス表をピシっと顧客に見せます。ところが、日本のLinuxディストリビュータでこうしたものを作ったところはありますか? Micorosoftのホームページにいくと、Windows NT 4.0とLinuxを比較したマトリクスが載ってますよね。Linuxのほうが後から出てきて、市場を取らなきゃならないのに、一体どっちがチャレンジャーでしょうか。

 本当はターボさんやレッドハットさんが比較資料を作ったうえで「ここは勝ってる、ここは負けてる、でも相対的に見たらLinuxのほうが良いですね」と資料を配って説明するのがスジなんですよ。われわれは1年以上前からそう言っているのに、彼らは一度もやったことがない。しかし、日本オラクル自身がOSを出すというのは、Windows NTやWindows 2000版、Solaris版、HP版のOracleを発売しているから、建前上おかしいわけです。

 それから、日本オラクル自身は「Oracle Application」といったERPにビジネスをシフトさせている。こうした流れのなかで、Linuxというローエンドのビジネスは、小さい会社で機動的にやった方が速い。1500人全部でやるよりは、20人の社員が勝手に決めて動いたほうが速いわけです。そういうわけで、子会社にして、戦略的に速度を上げて動きましょうというのがミラクル・リナックスを設立した理由です。
Miracle Linuxのコーポレートカラーはグリーン。「日本のLinux市場は赤信号になってしまったが、僕らは青信号にしたい。『これでビジネスを渡っていきましょう』という願いの青信号なんです。」(池田秀一氏)
 また、既存のターボやレッドハットをすべて駆逐するのではなくて、うまく棲み分けができるだろうと考えています。従来のLinuxはWebサーバといったローエンド市場に広く使われていましたが、Miracle LinuxはOracle DBによってよりハイエンドの市場を創出して、Linux市場全体を2~4割まで引っ張っていきたい。こういう趣旨で、日本オラクルとNECだけに出資してもらうことを考えていたんです。この話をしたら、ターボさんも「それは面白い」ということで出資もして、ご協力をいただいている状況です。

Miracle Linuxの優位性

[ASCII network PRO] Miracle Linuxの特徴や、他のディストリビューションに対する強みを教えてください。
[池田]  Oracle8i用のインストール支援ツールの添付と、カーネルのパラメータの最適化が大きなところです。TurboLinuxとOracle 8iを熟知している人が、カスタマイズして環境設定すれば、同じことは出来るんですが、そのノウハウを最初から誰でもできるように詰めちゃいました、というのがMiracle Linuxです。

 他社も真似をしようと思えばできますけれど、データベース市場のマーケティング状況や技術動向を理解している人が他社には圧倒的に少ないことと、Oracle用に特化ディストリビューションを他社が作っても金銭的にペイはしないだろうとことで、あまり問題にしていません。やはり自分たちの製品ですから「餅は餅屋に」だと思います。

 たとえば僕らはよく言うんですけれど、Oracle DBを使うとすると、普通のTurboやRedHatではダメなんです。どこがダメかというと、まずOracle8iをインストールしようというときに、はじめてOracleのインストールガイドを見る。そこにはメモリは何MB以上、スワップ領域は400MB以上取ってくださいと書いてあるわけです。まぁ、その時点でメモリを増設すればいいんですが、普通のLinuxではスワップ領域は400MBも取ったりしない。結局、ユーザーはLinuxをインストールし直すはめになるんです。

 Miracle LinuxはOracle8i用に作られた非常に極端なディストリビューションですから、ほかにアプリケーションを使うことはあまり意識しないで、最初からスワップは400MB取りました、メモリも最大4GBまでサポートするようにカーネルをカスタマイズしました、という尖ったことを平気でやっています。しかし、他社のディストリビュータがそういったものを作れるかどうかが疑問です。

 もう1つに、Miracle Linuxではユーザーサポートを含めたトータルコストを徹底的に安くできます。パッケージ価格が5万円と聞くと、「Miracleは高いじゃないか」という人が必ずいるんですよね。TurboLinux Server 6.1が3万9000円で、RedHat Linuxのプロフェッショナル版が2万9800円ですから。しかし、サポートまで考えたときはどうですかと逆に質問したい。サポートがいらないのであれば、Miracle LinuxはFTPの無料版があるわけです。つまり、ある意味でユーザーはサポートが必要だから製品版を買うわけです。では、サポートまで考えると、他社のディストリビューションでは料金はいくらになるでしょう。彼らのユーザーサポートの主流はインシデント制(料金によって質問できる回数を設定するサポート方式)ですが、企業はインシデント制を嫌います。電算部門の人が年間費用はいくらだろう?と鉛筆をなめている時に、インシデント制ですっていわれたら、いくら予算を取ればいいのかわからないわけです。でもOracleのように年間でいくらと決まっていれば、予算取りがしやすいんですね。Miracle Linuxでは、パッケージ価格が5万円で、さらに年間契約15万円払えば、電話サポートは何回でもできます。FAXでもE-mailでも何回でもいいです。このやり方のほうが、お客さんは楽なんですよ。他のディストリビューションで、無制限に電話ができ、ソースコードまで追いかけるレベルのサポートをするとなると、すぐに100万円の近くになってしまう。

 これがなぜMiracleでは15万円でできるかというと、日本オラクルがこれまでに10年近く築いてきたサポート体制があり、サポート商品の1つとしてMiracle Linuxが新たに追加されただけだからなんです。ターボさんやレッドハットさんがわれわれの体制に追いつくまでには、たぶん3~5年はかかるだろうと思います。

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