最初のテーマは、東海道本線の象徴である富士・はやぶさと日本の象徴である「富士山」を一つのフレームに収めることだ。空気が澄みやすい冬向けの撮影テーマでもある。
とりあえず、東海道本線の三島駅~函南駅の間の超有名撮影地「竹倉踏切」で頑張ってみた。アクセスはJR東海道・三島駅から玉沢行きバスで15分。竹倉バス停で下車。徒歩5~10分くらい。
▲超有名撮影地「竹倉踏切」の様子
富士・はやぶさを残す、10の心得
1 天気予報チェックも忘れずに
鉄道撮影の場合、天候は晴天が望ましい。特に富士山を背景に収めたいなら見通しのいい天気でないとまずい。だから、週間天気予報などを見て撮影決行日を選択しよう。それから良く晴れた朝が放射冷却現象によって気温が低いことが多い。しっかりとした防寒対策も必要だ。基本はレイヤード。薄手の服を重ね着して、気温の変化で調節して着脱する。登山に近いイメージだ(ただし、鉄道撮影は登山と違って常時運動しているわけではないので、発汗対策はやや緩めでOK)。
2 列車の通過時間をチェックしよう
これは基本中の基本。時刻表で「富士・はやぶさ」のスジを確認して近くの停車駅の発車時刻から推測する。また、最寄りの駅で停車しない特急の場合はさらに、普通列車のスジの発車時間を利用して、そのデータから逆算すれば良い。ただし、長距離列車だけに遅延や運行停止ということもあることも考慮しておこう。「富士・はやぶさ」の場合は停車駅は沼津駅と熱海駅だ。そして参考となる最寄り駅は三島駅と函南駅だ。
3 機材
機材はデジタル一眼レフを推奨。カメラボディに求める性能で、最重要なのは「レリーズタイムラグが短い」ことだ。次に大切なのは「高速・多連写機能」だ。なお、ここでは高感度特性や高速AF追随性は不要だ。交換レンズは35mm判換算で70-200mmくらいをカバーしていれば問題ない。
4 日差しを考慮したフレーミングを!
撮影対象は「富士・はやぶさ」の上り列車だ。狙いたいのは機関車の正面がしっかりと照らし出された一瞬だけだ。
しかし、通過時間は午前8時20分頃。これが厄介なのだ。夏至に近い5~7月なら列車全体を太陽が照らしてくれるのだが、逆に待機が含む大量の湿気の影響で背景となる富士山がクリアーに写らない。冬至に近い11~1月は寒波が来るために背景となる富士山がクリアーに写るが、逆に列車には日が届きづらくなる。
撮影地から東の方向に山があるため、日照時間の短い時期は午前10時以降にならないと安定した日差しにならない。2009年1月中は日の出がさらに遅くなるで、富士・はやぶさに日が当たった状態で撮影するのはちょっと難しそうだ。おそらく、廃止間際の3月になれば多少はマシになるだろうが……。
実際に撮影を行った11月でも、富士・はやぶさのヘッドマークを取り付けられた機関車の正面にまばらに影を落としていた。3月ごろでも同様であると推測できる。これを避けるためには、先に通過する普通列車の正面に落ちる陰から、日に当たる場所を推測してフレーミングを行う必要がある。
5 シャッター速度はなるべく速めに
寝台列車、富士・はやぶさは特急である。それだけに通過速度はかなり速いので、被写体ブレを避けるために1/500秒はキープしたい。望遠で撮れば被写体ブレは出づらいと言われるが、最近の高解像度を誇るデジタル一眼レフではちょっとしたブレまでしっかりと描写されてしまうという弊害もある。可能なら、事前に通過する普通列車で試写して十分なシャッター速度を探りたい。
6 F値は1段くらい絞りたい
被写界深度の浅い大口径F2.8級レンズならF値は2段、普及価格帯のレンズならF値は1段は絞りたい。それは、大口径レンズ自慢の美しいボケで、背景の富士山をかき消してしまわないためだ。特に、最近になって普及し始めたフルサイズ撮像素子搭載カメラユーザーは注意が必要だ。
7 露出は可能な限り切り詰めたい
背景の富士山をくっきり写すために、露出は可能な限りマイナス側に抑えた方がいいだろう。機関車の前照灯によって露出が狂う可能性を考慮して、露出はオートではなくマニュアルモードで撮りたい。刻一刻と変化し続ける日差しをチェックするために、試写を繰り返して背面液晶ディスプレーで確認するのもありだろう。
ブルートレインやEF66形機関車のボディーカラーは青色メイン。だからちょっと明るめに撮りたくなってしまうのだが、そこは「抑え所」だ。とにかく、露出は富士山を中心に合わせて欲しい。もし、最新型のデジタル一眼レフで撮影するなら、「暗部補正機能」などをオンにすれば難易度が下がるはずだ。
筆者が選んだ露出は、上記の全てを考慮して、絞りF8、シャッター速度1/1250秒、撮影感度ISO250となっている。順光のF5.6、1/500秒、ISO100と比較すると、かなり切り詰めてあることが分かる。なお、カメラボディはEOS 5Dなので暗部補正機能は搭載されていない。
8 ピントはマニュアルが基本
通常の置きピンとの違いは、日差しの角度の移り変わりによってピントの置き場所を変更する必要があるということ。列車の通過が午前10時以後に遅れるようなことがあれば、そんな面倒なことにはならないのだが。
もちろん、置きピンではなく全AFフレームを使って、コンティニュアスAF(自動追尾AF)させて連写するという手段もある。しかし、古いタイプの人間である筆者はAFを信用じきれない。特に、寝台列車、富士・はやぶさは1日1度しか撮影チャンスがないので失敗は許されないのだ。フィルム時代に体験した、機関車の前照灯によってAFが踊り出してピントが狂うトラウマに未だに苛まれているからだ。
9 面倒なのは架線構造物の処理
カメラの位置を上げ下げしたり前後に移動することで、架線構造物と富士山の重なり具合を調整できる。筆者の場合、カメラの位置をもう少し前進させて下げたかった。とにかく光学ファインダーを覗きながら、富士山がキレイに写るアングルを探し当てよう。
10 記録形式はRAW+JPEGがオススメ
露出でミスって富士山の描写が薄くなってしまったり、機関車の正面が暗くなり過ぎてしまった場合、RAW現像である程度なら挽回できる。この時期の富士山は積雪によって美しく化粧されている代わりに、反射率が極めて高く白トビしやすい。だから、鉄道車両と一緒に撮るのはとても面倒なことになるのだ。しかし、そこは簡単に試写できるデジタルカメラならではのメリットを、十分に活かせば乗り切ることができるだろう。
なお、富士・はやぶさと富士山を一つのフレームに収められる場所は、竹倉踏切以外にも探せば結構ある。沿線の富士山の方向に見通しの良い場所でならどこでもいい。ただし、気を使いたいのは車両にもしっかりと日が回り込む場所で撮りたい。
白飛びしやすい雪山と鉄道車両を同じ露出で撮影する都合で、特に鉄道車両に強力な日差しが当たっていることが望ましいからだ。そうでないと、雪山が白飛びするか、鉄道車両が露出アンダーで暗めに写るか……どちらにしても中途半端な写真しか撮れない。上の失敗例2のように雪山がほとんど見えないなるようなら、最初からフレーミングで無理をせずに鉄道車両だけの撮影に専念した方が良いだろう。