イベントの核は「コメントシステム」
そんな贅を尽くしたニコニコ大会議だが、演出において一番のポイントとなったのは、ムービーでもゲストでもない、生中継のコメントを流すという舞台装置だ。
「ニコニコ大会議でどうしてもやりたかったのは、ネットの書き込みをライブに来ている人が見られるようにすることです」(山形氏)
今年の夏、ドワンゴからニコニコ大会議の演出を依頼され、最初にオリエンテーションがあった際、山形氏は大きなプレッシャーを感じたという。自分が今までやってきた演出は、ニコニコ動画のユーザーが面白いと思うものに合っているのだろうか。笑いを仕掛けた場面や拍手をするタイミングで、無反応だったらどうしようか。山形氏はニコニコ動画を何度も見ながらユーザーの「ツボ」を探った。
「でも、分からなかった(笑) だから開き直りました。うまく言葉で表現できないんですが、ニコニコ動画には、見ている若い世代の空気みたいなのがある」(山形氏)
そのため演出は変化球ではなく、王道で攻めることにした。ただし、ネットの書き込みを見せることだけはこだわった。
「会場のスクリーンに生中継を見ている1万人のコメントが映し出されて、それを見てライブに来ている人が反応する。さらにその会場の様子を見て、また1万人の人たちがコメントを書き込むというのを実現したかった。ユーザーがひと目で見て『ニコニコ動画だ』と分かるように、動画の枠を付けて、パソコンの中で見ているような雰囲気を再現しています」(山形氏)
「会場が沸騰した」
コメントの演出は、予想以上の効果を上げた。夏のニコニコ大会議では、メインイベントの前にお笑い芸人・デスペラードがステージに立つ。その前説の途中、会場の左右にあるスクリーンに生中継のコメントを映し出すと……
「その瞬間、会場が沸騰しました。イベントに来たばかりのお客さんの中には、斜に構えて引いて見ている人もいるんです。でもスクリーンにコメントを流してから、会場の空気が一気に変わった。みんな『前のめり』になったんです。この態勢になったら、もう何をやっても受け入れてくれます。『いけるんだ』と実感がわいてきました」(山形氏)
極端な話、誰も舞台に立っていなくても、スクリーンにコメントを流すだけでライブが成立してしまう。さらにニコニコ動画のユーザーに親しまれているドワンゴの小林社長やひろゆき氏、夏野氏がステージに立って、ユーザーの空気を読んだ内容のトークを交わせば、よりコメントと会場の反応が加速する。
「こうした装置を舞台に導入したイベントは、僕が知っている限りではない」(山形氏)
ただ、会場に生中継されるコメントは諸刃の剣でもある。「ハゲ」「キモい」「つまらない」など、ネットで生放送を見ているユーザーの中には、中傷とも取れるコメントを書き込む人もいる。そうしたメリット/デメリットを天秤にかけた場合、日本の企業なら果たしてコメントシステムを採用するだろうか? そうした意味でも、やっぱりこのイベントは普通ではない。
メインのステージは「Macworld」のインスパイア?
山形氏によれば、ニコニコ大会議のメインステージは、アップルの基調講演を参考にしてほしいとのオーダーがあったという。確かに、黒を基調としたシンプルな舞台に、要素を絞ったスライドは「Macworld Expo」を彷彿とさせる(関連記事)。「アップルとドワンゴは似た匂いを感じますね。後追いをしないというか、方向があさってというか」(山形氏)
