ATOKの開発体制について
──7月18日に発売されるということは、現在(7月上旬)は最もゆっくりできる時期ですか?
次期製品に向けてスタートを切る時期でもあります。変換エンジンや変換辞書などはWindows版とできる限り共通のソースコードを使うのですが、それ以外の部分でいかに魅力的な製品に仕上げるかが毎年悩みどころなんです。
──プログラミングはそれほど難しくないのでしょうか?
簡単とはいいませんが、それ以上に大変なのが企画した仕様を実現できるかの調査、そしてプログラミング上の問題点の解消です。これらの作業には、時間がかかりますね。
──ソフトの不具合はどのように発見されるのでしょうか?
社内でのチェックはもちろんですが、最近では限定的なベータテストを行い、弊社の一部のお客さまにもご協力いただいています。社内でも綿密なチェックを行うのですが、マシンやOS、インストールしているほかのソフト、接続しているハードウェアなどが影響して、ATOKがうまく動作しないことがあります。この点を、さまざまなマシンやソフトを使われているベータテスターの方に、ご指摘やご意見をいただいて解消していくわけです。この結果、より使いやすく安定した製品として完成度の高い状態で出荷できるようになりました。
──ベータテスターにはどういう方が多いのでしょうか?
年齢や職業はさまざまですが、とても熱心な方々によって支えられています。不正な現象の報告だけでなく、改善してほしい仕様や搭載してほしい機能まで、積極的にレポートを送ってくださいます。
──開発面での目玉は64ビット対応だと思いますが、一般ユーザーにとってどのようなメリットがあるのでしょうか?
64ビット対応のソフトはまだ多くありませんので、一般ユーザーがメリットを実感できる場面は少ないかもしれません。しかし、将来も安心して使えるという点と、「IMKit」を使っているのでOSとの親和性が高いという点がポイントですね。
──IMKitとは?
Leopardから提供された文字入力関連のフレームワークです。64ビット対応というのは、言い換えればIMKit対応なんですよ。従来のコンポーネント形式では32/64ビットを両対応させるのは難しかったのですが、このフレームワークによってスムーズにサポートできました。
──IMKitは全面採用ですか。
厳密にはそうではありません。OSに標準付属する「ことえり」とは違って、最新OS以外もサポートしなければならないため、ATOKは、Mac OS X 10.5向けのIMKit用と、10.4と10.3.9向けのコンポーネント用の2つのプログラムを内包しているんです。動作環境は、10.5と10.4はさらにインテルCPUとPowerPCがあるので、大きく分けると5種類の環境で動作チェックをしなければならないわけです。
──動作環境はどのように決まっているのでしょうか。
ユーザーの使用OSやサポートできる機能などを勘案したうえで動作環境を決めています。ATOK 2008の場合は、 10.3.9以上となっていますが、推奨環境は10.4以上としています。
──安藝さんはMac版ATOKの開発ひと筋なんでしょうか?
私が開発にフルに参加したのは実はATOK16からなんです。それ以降はプロダクツオーナー(開発責任者)としてMac版ATOKに携わっています。ちなみに、以前は「ラベルマイティ」というラベル作成ソフトのMac版の開発責任者でした。それ以前は「ドクターマウス」、さらに昔にはJustWindowというMac OSでもWindowsでもない独自のGUIシステムの開発に携わっていました。
──Macでの開発歴は長いのですか?
組み込み機器やUNIX系の開発を除くと、ほとんどがMacの開発に携わっていますね。私の場合は、操作性だけでなく、開発環境においてもどっぷりとMacの世界に入り込んでいる、社内でも珍しい人間かもしれません。Windowsの開発環境が面倒に感じるくらいです。
──昔からMac用ソフトの開発は大変だと耳にしますが、状況は変わってきているのでしょうか?
OS 9までの時代は技術文書が少なく、機能の仕組みや挙動をチェックするなどして理解する必要がありました。しかしOS Xでは、基盤であるDarwinがオープンソースで開発されていることもあり、以前に比べて技術文書も充実しています。開発ツールも使いやすくなってきているので作業がずいぶんと楽になりました。
──話題のiPhoneも、OS Xベースの開発環境が提供されていますね。
現状ではなんとも申し上げられませんが、ATOKの開発部隊には携帯端末向けの開発を行っているグループもあります。iPhoneユーザーさまの「iPhone向けATOK」を求める声に応じて、検討してまいります。
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