“安定して動作するPC”を作るためには、マザーやメモリー、OSやドライバーの選定など様々な要素に気を遣う必要がある。その中でもここ数年で存在が急にクローズアップされてきたのが「電源ユニット」の存在だ。Pentium 4以降のパーツの消費電力の増加と静音ブームに後押しされた結果、パーツショップに電源ユニット専用コーナーがあるのは、電源ユニットの選択1つがマシンの快適さや安定度を決めてしまうからだ。
さて、電源ユニットを選ぶ際にはどこに注目したらよいのだろうか? 簡単にまとめるとこんな感じになる(当サイトの「アキバで恥をかかないための最新パーツ事情【電源・ケース編】」も参考にして欲しい)。
- +12V出力の大きさ&系統数
- (大口径)静音ファン
- 高い変換効率(80%以上)
- 耐久性
ここでポイントになるのは「耐久性」だ。アナログ回路の集合体である電源ユニットの設計には、マザー等の設計とは違う独自のノウハウの蓄積が必要になる(TOPPOWERやSeasonic等のOEM製品が多いのはこのためだ)。定番メーカーの信頼できる電源ユニットを使う、というのが王道だろう。
だがハイエンド電源は3万円以上するのが普通。安心料と思えば高くない……と思いたいが、もうちょっと手ごろな値段のものにして、その分他のパーツの強化にしたいと考えてしまうものだ。ハイエンドな構成にも耐えるエントリークラスの電源はないものか?!
Antec「EA-650」をイジメぬく!
そこで今回は、Antec製650W出力のエントリーモデル「EarthWatts EA-650(以下:EA-650)」を採り上げ、この電源が“ハイエンド構成でどこまで使い込めるか”という意地悪なテストをしてみたい。
まずはEA-650の特徴などをざっと見ていこう。外見は腹部に12cmファンを1つ備えた一見どこにでもありそうな製品だ。準拠規格もATX12V ver2.2とEPS12V ver2.9両対応と、今時の電源ユニットのスタンダード。この規格のバージョンを見ただけでピンと来なければ「メインパワーは24ピン、補助電源は8または4ピンが選択可能なもの」と考えて構わない。特に最近のハイエンドマザーは補助電源に4ピンではなく8ピン電源を使うため、これに対応したコネクターを備えていることは結構重要(特に大電流を流す場合)なのだ。
ただ、EA-650が他の製品と一線を画しているのは出力の配分だ。現在の電源ユニットのデザインでは、最も負担のかかる+12V出力は少なくとも2系統以上用意され、総出力が増えるほど系統数も多くなる。EA-650は3系統とやや系統数を絞っているかわりに、1系統あたりの出力が22~25Aと太い点に特徴がある。ATX電源設計では+12Vは1系統あたり20Aを超えないというのがセオリーなのだが、この製品ではあえてセオリーよりも多い電流を流すことができる。出力が多ければ、その分だけハイエンドなパーツも養えるだけに、この太い3系統の+12Vの存在は重要だ。
下表はEA-650の各ラインの出力だ。マザーに供給される+12V1とCPUに供給される+12V2が22Vと通常の製品よりもやや太く、周辺デバイス用の+12V3はさらに太い25Aになっているのが特徴だ。
出力電圧 | +3.3V | +5V | +12V1 | +12V2 | +12V2 | -12V | +5VSB |
---|---|---|---|---|---|---|---|
最大電流 | 25A | 25A | 22A | 22A | 25A | 0.5A | 2.5A |
最大電力 | 160W | 540W | 0W | ||||
総出力 | 650W |
さて、ATX電源ユニットのセオリーである+12Vの上限が20Aという数字の根拠は、単純に「何か事故が発生した時に被害を小さくするため」だ。しかしだからといってEA-650が安全性度外視の危険な製品という訳では断じてない。工業用グレードの保護回路を載せ、FCCを始めとする8つの安全認証を通過するクオリティに高めることで「高出力でも安心できる」製品に仕上げているのだ。さらにダメ押しのように以下のような保護回路も組み込まれている。
・OPP(過負荷保護)
出力負荷が限界を超えた時、出力をカットして電源ユニット内部の回路を保護する
・OVP(過電圧保護)
経年劣化等によって規定以上の電圧を出なくする、または出ようとした時に回路を保護する
・UVP(電圧不足保護)
規定以下の電圧になるのを防ぐ、またはなる時に回路を保護する
・SCP(短絡保護)
何らかの理由で出力がショートした時に、電源ユニット内部の回路を保護する
さらに+12Vについては出力を均等にするため専用回路を設け、リップルノイズも抑えているという。CPUやマザーに供給する電力は、とにかく安定していることとノイズが少ないことが求められる。EA-650は安価ながらも、電源ユニットとしての完成度を追求した製品といえるだろう。
もちろんEA-650には欠点も存在する。装備されているコネクターの種類や数に不満はないが、今どきの電源には珍しく不要なケーブルを取り外すことはできない昔ながらのデザインを採用している点は、ケース内をスッキリさせたい人にはちょっとイラッとする点だろう。もっとも、モジュラー化することは余計なトラブルの種を抱えることに繋がるため、価格と信頼性重視のEA-650ではあえて外した、と見ることもできる。昔ながらの電源ユニットのようだが、今どきの技術で完成度を高めた電源ユニット……という印象の製品だ。
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