フィルタリングの中身を見直す
既存のIT産業に急ブレーキをかけず、出会い系サイトや自殺サイトなどで子供が被害に巻き込まれないようにするためには、どうしたらいいのだろう。
シンポジウムでは、フィルタリングの実施自体に反対する意見は聞かれなかったが、その中身について再考すべきという声が多かった。
岸原氏は、モバイル・コンテンツ・フォーラムにおける取り組みを2つ紹介した。ひとつは、4月のスタートを予定している、健全な携帯電話向けサイトを認定する第三者機関の設立だ。ケータイ事業者の公式サイトではないが健全なサイトをこの機関が認定して、フィルタリングを通すことを目的とする。
もうひとつは、総務省で行なわれている「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」だ。ケータイ事業者4社、通信事業者団体、識者、消費者団体などが参加する会議で、2007年の11月26日に第1回が行なわれている。この場で、「なぜ、いつ、どこで、どのように、だれが実施するのか? それぞれの場合の効果と影響は?という『5W1H』」(岸原氏)を話し合った上、3月頃に中間取りまとめを出したいという。
岡本氏も現状からの脱却を目指すという。
「総務省としてはこうした判断はしてしまっているため、いろいろなご批判は受けなければいけないが、今後は第三者機関の取り組みなど、コンテンツ業界、キャリア、もっと言えばさんの代表であるPTAなども含めて何らかの着地点を探っていく」(岡本氏)
自分で自分の子供を守れるか
対応を迫られるのは、国や事業者だけではない。親自身が変わることも大切だ。
道具氏は、現状、ケータイ事業者だけが設定している制限リストを、ユーザーがカスタマイズできるようにすべきと提言する。
「パソコンでは、ブラックリストに入っているサイトでも、自分が見たいと思えばホワイトリストに移せる。携帯電話でも、各家庭の各人ごとにリストを移せる仕組みはできている。あとは、お母さんがしっかり勉強していただいて、ホワイトとブラックの入れ替えを子供と話し合ってほしい」
石戸さんは教育を強調した。
「フィルタリング以上に大切なのは教育。いじめや住所の書き込み、出会い系の話を聞くと、リアルの世界であっても、『人に住所を教えてしまってはいけない』とか『知らない人に着いていってはいけない』といった道徳的な話が出てくると思う。デジタルが助長させている面があるとはいえ、もっと根本的な問題がある」(石戸さん)
責任の所在地はどこにある?
「臭いものにフタ」をして安心してしまう世間の目も変わらなければいけないだろう。岸原氏は「コミュニティーサイトの中で何か問題が起こったら、それはすべてそのサイトの責任なのか?」と問いかける。
「今回の第三者機関で認定したサイトで、すべて何も事件が起こらないように監視できるかといえば、それは不可能です。それはリアルの世界でも絶対にできないこと。包丁を持った暴漢が学校に侵入して事件を起こした場合、学校がすべて責任を取るのも無理な話で、犯罪を起こした当事者の問題もある。
もちろんサイト側が何もやらなくていいわけではなくて、きちんと防止措置を取る責任はある。しかし、この前も検討会の中で、PTAの方があるサイトが原因で殺人事件が起こったので「これはいけない」とおっしゃっていたが、サイトが人を殺したわけではないということを理解してほしい。
問題の所在と責任をきちんと議論すべきで、要するにできないことをいくら義務化してもサイト側では対応できないし、評価されなければ放置されてしまう。その結果、一番困るのは未成年者だ」(岸原氏)
あなたはフィルタリングの実施後、自分の子供に「モバゲーを使いたい」と言われたら、きちんと対応できるだろうか。これを機に、もう一度、子供とネットとのつきあい方を考え直してみてはいかがだろう。