火星探査にも利用されたHP Remote Graphics Software
ただし、ブレードワークステーションにも課題はある。そのひとつが、リモート環境からネットワークを介して操作するため、高解像度な画面や複雑な3Dグラフィックスを描画するようなアプリケーションでは反応が鈍くなるというものだ。
この点に関してHPでは「HP Remote Graphics Software」(RGS)と呼ばれる技術を導入している。最新版は8月にリリースされた「5.0」.もともとプリンター用に画像データを圧縮/解凍するための技術として研究が始まり、核となるアルゴリズムは、NASAの火星探査「ローバープロジェクト」で火星の画像を地球に送るためにも利用されているという。
RGSでは画像の差分だけを送信することで、制限された帯域でも効率よく画像データを転送できるのが特徴だ。100MbpsのEthernetでブレードとシンクライアントを接続し、CADソフトの「SolidWorks」で3次元モデルを扱うデモでは、リモートで操作しているのを感じさせないレスポンスの速さが印象的だった。1Mbps程度の回線を利用し、VPN経由で接続した場合でも若干のコマ落ちは生じるが、作業に支障のないレベルで動作するという。HPの担当者は「Workstation Class Experience」という言葉で、その性能を表現していた。
HPでは金融業界の次に、3D CADの分野での応用を視野に入れている。RGSのCAD向けの機能として面白いのは、コラボレーション機能を持つ点だ。RGSでは、ホストとなるユーザーが権限を与えることで、別のユーザーが同じ画面を見ながら、同じドキュメントの編集を行なうことが可能になる。
この機能に関しては、ブレードワークステーションを利用した例ではないが、すでに米国の映画会社ドリームワークス(DreamWorks)などでの運用実績があり、30~60人クラスでのコラボレーションも可能だという。CADやCGのチームデザインに加え、大学の講義などへの応用も視野に入れているという。CADデータの編集を外注先などに依頼する場合でも、編集されるデータはデータセンターから出ないので、図面の流出といった問題も防げる。
ブレードを利用したワークステーションというコンセプトは業界でもまだまだ新しい分野だが、アクセスする場所を問わず高性能なコンピューティング環境を利用できる点や複数人数での共同作業など、さまざまな可能性を秘めている。データセンターを複数の場所に置き、災害などに備えるといった使い方も可能であり、集中管理によりIT管理者にとっては手間とコストの削減、ユーザーにとってはスッキリとした使用環境の提供が可能だ。応用の可能性も広がっており、今後が楽しみな分野と言えるだろう。