インターネットの登場により、既存メディアはいま転換期にある。ではメディアの古典である新聞はインターネットをどう生かすのか? それとも新聞はネットの大波に飲み込まれるのか? この連載では各新聞社のキーマンを直撃し、彼らのネット戦略や時代認識を読み解いていく。
今回は、10月1日から総合情報サイト「毎日jp」(マイニチジェーピー)をスタートさせた毎日新聞社のネット戦略を見てみよう。
新聞はどこまで本気なのか?
この秋、朝日、読売、毎日、日経、産経の5大全国紙が立て続けにネット戦略を打ち出している。そこでいちばん興味がわくのは、「じゃあ内部にいる現場の人間は、実際にどこまで本気なのか?」である。
では毎日新聞の場合どうなのか? 同社デジタルメディア局編集・編成担当部長、高島信雄氏は社員の意識をこう語る。
「少なくとも『もう新聞だけ作っていればいいや』という時代じゃない、というのは全社員が感じています。新聞が今後順調に部数を伸ばすかといえば疑問ですし、なにより若い人たちの間ではインターネットや携帯電話を使ったコミュニケーションが主流になってきている。こうした流れに対応し、現にわれわれはここ数年デジタルメディア部門に力を入れてきています」
だが会社の末端まですべての人間が同じ価値観を共有しているとは限らない。笛吹けど踊らず。それが組織のむずかしいところだ。
「例えば、われわれはデジタルメディアの担当です。だから『ウェブでニュース記事が読めたからといって新聞本紙の部数は減らない。紙とネットは住み分けできる』と考える立場です。ところが一方、紙の新聞を毎日作り、売る立場の人間から見ればなかなかそうはいかないでしょう」
ネットは新聞にとってマイナスである、紙はウェブより上位にあるべきだという皮膚感覚は、新聞記者が日々記事を書くときにも現れる。
「われわれが会社全体としてネットに力点を置き始めているのはまちがいない。ですがそれに伴い、急速度で全社員の意識改革ができているかといえばそうじゃない。例えば、デジタルメディア局の人間はもちろんネット志向ですが、逆に支局の第一線で夜討ち朝駆けをしている人間はちがいます。彼らは新聞の締め切り時間しか頭にないですから。
そんな彼らに対し、『ウェブには締め切り時間はないんだ。だからどんどん記事を書いてよ』と呼びかけ、実際に彼らがその意識をもつよう徹底するまでには時間がかかるでしょう」
旧来の紙を使ったメディアでは、書き手は常にあらかじめ設定された締め切りを基準に作業を進める。「ウェブなら記事をいつ書いてもすぐに掲載できるぞ」と言っても、彼らの意識を根底から変えるのはすぐには無理だ。今後の課題である。
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