栗原潔の“エンタープライズ・コンピューティング新世紀” 第13回
エンタープライズサーチの真の価値を探る(3)――柔軟性が求められるランキングアルゴリズムの実装
2007年10月16日 15時50分更新
リンクのない文書が存在し、集合知の効果も制限される企業内検索
それでは、企業内の環境ではどうだろうか?
まず、第一にリンク分析はインターネットの場合のようにはうまく機能しないだろう。企業内の文書ではリンクが貼られていないものも数多くあるし、インターネットほど母集団が大きくないため、集合知の効果も限られてしまう。その一方で、企業内でSEOを行なおうとする人はまずいないと思われるのでその点は気が楽だ。
それでは、従来型のキーワードの頻度と重み付けだけで、適切なエンタープライズサーチの結果ランキングが提示できるかというと、難しいだろう。真に価値が高い情報が埋もれてしまう可能性は排除できない。特に、ロングテール的な利用される頻度としては低いが特定の状況においてはきわめて高い価値を提供する情報をうまくユーザーに提示することができない。
この問題を解決するためのひとつの方法は管理者が手を加えることだ。つまり、管理者自身が重要な文書に重み付けを付加し、検索結果の上位に表示されるようにするのである。これは、インターネットの世界では非現実的だが、企業内で閉じた世界であれば充分検討に値する。
ソーシャルブックマークも有力な選択肢
もうひとつの「より魅力的な方法」は、以前にも述べた「ソーシャルブックマーク」の機能を企業内で利用することである。
文書に対してユーザーがタグ付けを行なうことで、特定の状況において有効なロングテール的情報を浮かび上がらせることができる。また、ユーザー自身が重み付けを行なうことで、管理者の視点からは気が付かなかった情報が発掘されることもあるだろう。さらに、「(この分野では第一人者の)あの人がブックマークしている文書を上位に表示させたい」という仕組みを構築することも可能だだろう。
まとめると、エンタープライズサーチの世界では、インターネットサーチにおけるブラックボックス的なアプローチではなく、ユーザーの状況に応じた「柔軟なアプローチによるランキング」が必要になる、ということだ。エンタープライズサーチの製品選択を行なう際には、ランキングのカスタマイズがどの程度行なえるかが重要な基準のひとつとなるだろう。
筆者紹介-栗原潔
(株)テックバイザージェイピー代表、弁理士。日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より独立。先進ITと知財を中心としたコンサルティング業務に従事している。東京大学工学部卒、米MIT計算機科学科修士課程修了。主な訳書に『ライフサイクル・イノベーション』(ジェフリー・ムーア著、翔泳社刊)がある。
この連載の記事
-
最終回
トピックス
エンタープライズサーチの真の価値を探る(9)――多様な領域に広がるサーチの可能性 -
第18回
トピックス
エンタープライズサーチの真の価値を探る(8)――「意図のデータベース」 -
第17回
トピックス
エンタープライズサーチの真の価値を探る(7)――バーチカルサーチの可能性 -
第16回
トピックス
エンタープライズサーチの真の価値を探る(6)――真の意味のマルチメディアサーチの可能性 -
第15回
トピックス
エンタープライズサーチの真の価値を探る(5)――サーチとBIとのもうひとつの関係 -
第14回
トピックス
エンタープライズサーチの真の価値を探る(4)――結構親密なサーチとBIの関係 -
第12回
トピックス
エンタープライズサーチの真の価値を探る(2)――ポータルとしてのサーチ -
第11回
トピックス
エンタープライズサーチの真の価値を探る(1) -
第10回
トピックス
いまあえてWeb 2.0を分析する(10)――企業内Web 2.0と切っても切れないエンタープライズサーチ -
第9回
トピックス
いまあえてWeb 2.0を分析する(9)――Web 2.0系テクノロジーはどこが優れているのか? - この連載の一覧へ