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栗原潔の“エンタープライズ・コンピューティング新世紀” 第9回

いまあえてWeb 2.0を分析する(9)――Web 2.0系テクノロジーはどこが優れているのか?

2007年08月20日 00時00分更新

文● 栗原潔

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 前回に続いて、純粋にテクノロジーとして見たときのWeb 2.0系テクノロジーの優位性についておさらいしていこう。


Wikiはどこが優れているのか?


 Wikiは会議室にあるホワイトボードのような存在だ。誰でも自由に書き込めるし、他人の書き込みを消したり、書き直したりすることができる。きわめて自由度の高いツールだ。

 従来型の文書管理ツールの視点から見れば、あまりにも原始的と言える。しかし、ホワイトボードが会議になくてはならない存在であるのと同様に、Wikiはなかなか有効なツールだ。細かなワークフローを気にせず、誰かがとりあえず書き込み、みんなでよってたかって修正を加えていくという“ブレーンストーミング”をネット上で行なっているような感覚で、きわめて自由度の高いコラボレーションが実現できる。

 製品企画の上流工程などのように、まずは自由に意見を交換することが重要という目的にはWikiは特に適していると思われる。

 また、ソフトウェア開発における仕様書のように、細かな変更が頻繁に発生し、かつ、その変更を迅速に反映しなければならないケースでもWikiは有効だろう。

 ある企業の事例だが、この企業ではコラボレーションのプラットフォームを全面公開するまでの“つなぎ”としてWikiを展開することにした。しかし、スタッフがあっという間にWikiを業務で有効活用できるようになり、もはや複雑な“コラボレーションツール”を導入する必要がないのではと思われるようになってしまったそうである。

 もちろん、Wikiですべての文書管理のニーズに応えられるわけではない。しかし、単純なツールもうまく使いこなすことで、重厚長大型のツールよりも高い効果を発揮することはよくある。企業内でのWikiの活用にはまだ多くの可能性がありそうだ。



ソーシャルブックマークはどこが優れているのか?


 ソーシャルブックマークとは、ブックマーク(お気に入り)を自分のパソコンではなく、ネット上に置いて他者も活用できるようにするための機能である。さらに、ブックマークにコメントを付けたり、タグ(属性情報)を付加することができる。いわゆる、フォークソノミー(ユーザー自身による情報分類)の基盤となる機能だ。

 ソーシャルブックマークも企業内での活用が充分に効果を発揮しそうな分野だ。

 企業内において、情報の価値をランク付けする際に、Googleがネット上で行なっているようなリンク分析はあまり効果的ではない。母集団がそれほど大きくないからだ。ソーシャルブックマークの活用により、その企業にとって重要な情報のあり場所を特定の個人内で閉じた情報ではなく、組織の共有財産にできる。

 また、タグ機能により、情報の分類をボトムアップ的に行なうことができる。[新入社員必読]、[競合情報]といったように、現場の立場から見たタグを付けることで、現場にとって真に重要な情報の検索が容易になる。トップダウン的な情報分類を行なおうとして苦慮しているコンテンツ管理部門にとっては朗報だろう。

 また、ユーザー間の単純なアソシエーション分析を行うことで、自分にとって有用な情報をシステムが教えてくれるようにすることもできる(Amazonにおける「この商品を買った人は以下の商品も買っています」というリコメンデーション機能と同様の考え方だ)。

 なお、IBMが最近発表したNotes/Domino 8では“ドッグイア”と呼ばれる機能がサポートされているが、これはソーシャルブックマークと基本的に同等の機能だ。本のページの端を折ってしおり(ブックマーク)代わりにするのを、犬の垂れ耳に例えたものだろう。

RSSはどこが優れているのか?


 RSSのポイントは、情報をプッシュ型で教えてくれることにある。ユーザーが逐一ウェブを巡回して情報を探さなくても、更新があったページだけをピックアップして教えてくれるというわけだ。

 企業内のお知らせ情報、そして、業務手順書やソフトウェア仕様書などの更新情報を迅速に利用者に伝える手段としてはきわめて有効だ。

 RSSは汎用の情報プッシュ手段として活用することもできる。業務系システムにおける重要情報──例えば、在庫が閾値以下になったなどなど横横をRSSで配信して、他の情報と同じ枠組み(RSSリーダーなど)で受信することも可能だ。

 企業内においてユーザーが扱う情報量が飛躍的に増大する中で、人間がシステムに対して情報を逐一照会しに行くというモデルの有効性が減少しつつある。

 最悪のパターンは、情報の山の中から重要な情報を探すことだけに忙殺されてしまい、その結果、問題の対策に充分な時間を割けないという結果が生じてしまうことである。

 それよりも、重要な情報をシステムが選別してユーザーにプッシュ型で配信してくれる方式の方がはるかに有望だ。さらに、プッシュ型で配信された情報を、ワークフロー管理など、ほかのシステムのインプットとすることで、業務処理の自動化を向上できる可能性もある(例えば、在庫が閾値以下になれば自動的に発注するなど)。

 RSSはXMLベースのテクノロジーであり、このような自動的連携を行うのに本質的に適している。

*

 企業内Web 2.0が議論される際には、ブログやSNSが中心となることが多いようだ。

 しかし、今回紹介したWiki、ソーシャルブックマーク、RSSも、企業内での活用がかなり有効と思われるテクノロジーである。ベンダー的には収益を得にくいテクノロジーであるためあまり提案がないのかもしれないが(たとえば、Wikiを採用したことで重厚長大型のコンテンツ管理システムの採用がキャンセルになってしまえば、ベンダーにとってはおもしろくないだろう)、企業ユーザーとしては是非とも検討対象にすべきテクノロジー群であると思う。


筆者紹介-栗原潔

著者近影 - 栗原潔さん

(株)テックバイザージェイピー代表、弁理士。日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より独立。先進ITと知財を中心としたコンサルティング業務に従事している。東京大学工学部卒、米MIT計算機科学科修士課程修了。主な訳書に『ライフサイクル・イノベーション』(ジェフリー・ムーア著、翔泳社刊)がある。


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