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趣味でシャッターを切る人と、仕事でシャッターを切る人の違い

プロスペック機とプロが選ぶカメラのギャップ

2007年10月01日 14時00分更新

文● 小林 伸(プロカメラマン)

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雑誌カメラマンとして気になる部分は


 では、私のようなエディトリアル(雑誌掲載用)の仕事がメインの人間はどのような機種を選ぶことが多いのでしょうか?

 まず、今のシステムは、フィルムが全盛の時代にそろえた機材が流用できることを前提に選んでいます。現状の仕事がまだ100%デジタルに置き換わっているわけではないので、フィルム撮影に対応できる資産も残しておかなければならないからです。

 連写速度もある程度は重要ですが、インタビュー撮影であれば毎秒3コマ、動きの速いものを追いかける場合でも毎秒5コマの速度があれば足りてしまいます。それ以上のスペックは求めません。

 もっとも、私にF-1の仕事やスポーツイベントの仕事が来たら話は別です。今までそういう依頼はなかったので、今後もそういうことはないでしょう(笑)。万が一そういう仕事が来ても、世の中にはレンタルという便利な仕組みがあるので、それを利用すればいいだけです。

 一方で色再現性にはこだわるため、RAWモードの搭載は絶対です。現状のデジタル一眼レフ機でRAWモードを搭載していない機種はないのですが、この先入門機クラスで、RAWモードを排除した製品が出ても、その機種を選択することは絶対にないでしょう。仕事の内容で色にこだわることはしばしばあります。商品撮影の仕事では、その商品の色が正確に再現できないと困ったことになるのは目に見えています。これは絶対に避けなければならないのです。



目安としてはA3出力、これなら1000万画素で足りる


 また、A3出力に対応できる解像度をもっていることも重視しています。雑誌などでの撮影でも、A4裁ち落としやA4見開きで使用されるケースが頻繁にあるためですが、逆にA3に対応した解像度をもっていれば、まず問題ないとも言えます。

 現在使用しているD200には、約1000万画素の撮像素子が使用されていますが、この機種で撮影した画像を何度かB0サイズ(1450×1030mm)まで引き伸ばして使った(というよりも、納品先のクライアントがB0のサイズで使用したいと言ってきた)ことがあります。

 しかし、腕のいいデザイナーさんだったのでうまく出力されていました。上手にデータを拡大すれば、刷り上りでドットが見えることはありません。もともと印刷ではドットが網点になるので、よほど解像度の低いデータでないかぎりドットが目立ってしまうことはないようです。

 とはいえ、同じように商品や人物の撮影が多いといっても広告の仕事がメインの人は違った感想を持つでしょう。化粧品関係の仕事を手がけていれば、店頭に張り出すポスターとして使うというケースを常に視野に入れて置かないといけないので、「EOS 1Ds markIII」のように、2000万画素を超える高画素な一眼レフ機に対するニーズはかなり高くなるはずです。



コスト意識が大きく働くのも趣味でシャッターを切る人との違い


 もちろんコストパフォーマンスも重視しています。

 商品撮影の現場では、中判カメラに取り付ける、200万円以上するような高解像度なカメラバックも製品化されています。また、より高精細な画像を撮りたいというニーズに合わせるために「Hasselblad H3D-39」(3900万画素、価格462万円)のような中判一眼レフ機も商品化されています。

Hasselblad H3D

Hasselblad H3D

 ただし、こういった機材を購入したり、リース契約で使用したとして、そのコストに見合った収入が得られるのかは、シビアに考えなければなりません。少ない可能性のために、余分な投資をしてもメリットはあまりないのです。

 プロは多くの場合、コストに対してシビアで、道具にどこまでのスペックを要求すべきかをきちんと把握したうえで、最大公約数的な機材の選択をしています。予算に収まる最上位機を買っておけば何とかなる。あるいはフラッグシップを使う優越感に浸るといった選択も趣味で持つカメラであればありうるかもしれませんが、仕事でシャッターを切るカメラマンではあまりない感覚と、個人的には考えています。

 結局、自分の仕事の内容さえ把握していれば、必要な部分と不必要な部分は見えてくるので、おのずと不必要な部分をカットした機種選びをするようになってくるのです。そうはいっても、仕事上どうしても欲しい機能がひとつでもあれば、ほかの機能がオーバースペックになったとしても、その機種を手にいれたいと思うのがプロの心情でもあり、ある意味プロらしい機材選びなのかなとも思います。

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