タバコの煙より、濃いコミュニケーション
だが驚くのはまだ早い。禁煙するぞ.jpの最大の特徴は、ユーザ同士のコミュニケーションが濃い点なのだ。
例えば、会員のAさんが、日記に「今日から禁煙を始めます」と書いたとしよう。するとそれを読んだほかの会員が、
今日から2~3日目が山ですね。つらけれけば早く寝るのもテですよ
とか、
もし吸いたくなったらタバコの箱をあけて香りを嗅ぐと癒されます。
私は今でもこの方法で禁煙を続けていますよ
などとレスをくれる。
で、禁煙スタート翌日の朝8時になると、また書き込みがある。
おはようございます。もう起きてますか?
つらい時間帯だと思って覗きに来ました。がんばって!
次に、2時間後の朝10時になると、今度は別の会員がこう書いてくる。
そろそろソワソワするころでしょうから、応援に来ました。
いっしょに頑張りましょう!
別に私が作って書いてるわけじゃなく、ホントにこんなやり取りがあちこちであるのだ。
同じ困難に立ち向かうから強くなれる
あるいはこんなケースも見かけた。ある人が禁煙3日目で結局吸ってしまい、「自分はなんてダメな人間なんだ」風味の話を日記に書いたのだ。すると読んだ人がすかさずレスをつける。
禁煙に失敗したからって落ち込む必要はないですよ。
1回目から禁煙できる人なんてすごく少ないんです。
たいていは2回、3回と挫折するうち成功するのが普通です。
だからあきらめずにがんばりましょう!
また別の人がこんなアドバイスをする。
もしかして寝る前に最後の一服をし、翌日の朝から禁煙していませんか?
ニコチンの血中濃度は寝ている間に下がります。
だから朝はそれを補おうとしてタバコを吸ってしまいがちです。
なので朝、最後の1本を吸ってから禁煙を始めるのがおすすめですよ
ひょっとしてサイトのスタッフがヤラセで書き込んでるんじゃないか? そう思ってしまうほどだ。だが前後のやり取りを追ってみると、どうやらそうでもないらしい。
いったい何がこの人をここまで駆り立てるのか? 「同じ釜の飯を食う」というが、同じ目標をもち、同じ困難に立ち向かう人間同士はきっとこういうものなのだろう。戦争に駆り出され、いつ死ぬかわからない時間をともに過ごす兵士同士が、濃密なコミュニケーションをするのと似たようなものかもしれない。
こんなふうにタバコと戦う人同士が交じり合い、サポートし合うのが禁煙するぞ.jpなのである。
そして、私の場合は……
さて私はといえば、実は残念ながら(特殊な例だと思うが)まるで逆効果だった。
私はもう1年近く禁煙しているので禁断症状もない。タバコの存在をすっかり忘れて毎日生活している。なのに、禁煙するぞ.jpに登録してからというもの、ログインするたびにタバコを思い出すのだ。
おまけに禁煙を始めて七転八倒している会員の日記を読むと、「そうだよなあ。タバコはうまかったもんなあ。あの煙のニオイがなんともいえず……」などと、タバコの味まで脳裏によみがえってくる。非常に危険な兆候である。赤信号だ。
てなわけで私はこの原稿を書いたら速攻で脱退します。だって禁煙するためのSNSが原因でまた吸っちゃったら、死んでも死に切れないし。
松岡美樹(まつおかみき)
新聞、出版社を経てフリーランスのライター。ブロードバンド・ニュースサイトの“RBB TODAY”や、アスキーなどに連載・寄稿している。著書に『ニッポンの挑戦 インターネットの夜明け』(RBB PRESS/オーム社)などがある。
(次回は6月6日ごろ掲載する予定です)
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